「まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍」 【第20回】電子書籍のデータ&セキュリティの素朴な疑問を解決!

cakes

2012/10/24

電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答!
教えて、まつもと先生!

まつもと :ふうふう………。

かべ :どうしたんですか? なんだかげっそりしてません?

まつもと :いや、先月末から今月にかけて、やたらと電子書籍関連の動きが多くってですね。

かべ :たしかに。電子書籍ストアオープンと同時にNexus 7が日本で発売されたり、auが電子書籍読み放題の「ブックパス」をはじめたり、ニコニコ動画も電子コミックを3万タイトル揃えたと発表しました。iPad miniも噂されてますよね。

まつもと :そうなんです。いま某週刊誌でもそれに関して短期連載をやっていたりして、盆と正月が一緒に来たようになっています。

かべ :なるほど………。まつもとさん、そしたら今回は、わたしの素朴な疑問に答えるシリーズでいきませんか? 新しい出来事ばかりに目を向けていたら本質が見えなくなるって言いますし、ちょっと目線を変えてですね。

まつもと :なんだか、重たい質問が投げられそうな予感もしますが……わかりました、どんとこいです。

 
【質問1】「めんどくさい設定しなくてもいろんな端末で読めるの?」

かべ :いまお話しにもあったように、いろんなサービスや端末が登場する中、これ結構心配な人は多いはずですよね。わたしも電子書籍を読むためにNexus7とかを買おうかなと思ったときに、「いや待てよ、この端末と一生お付き合いしてよいのかしら」と思ったりしますもん。

まつもと :まるで結婚相手を選ぶかのような決断になっちゃってる訳ですね。

かべ :そうです、そうです。大問題です。

まつもと :ちょっと場合分けして整理してみましょうか。

 

 

かべ :ふむ、ふむ?

まつもと :説明します。Aのアプリ単体で販売されている電子書籍は、例えばAppleのApp Storeで購入すると、iPhoneやiPadなどのiOSデバイスではどれでも読むことができます。

かべ :そうですね。

まつもと :でも、Android端末にもし乗り換えたらば、アプリは購入しなおさなければなりません。そもそも提供されていないかもしれません。

かべ :そうそう、まさにそういう心配です。

まつもと :事前審査のため、その手間が膨大なものになるAppleがアプリ単体での電子書籍の提供を推奨しなくなってからは、いわゆる本棚アプリによる販売が進められるようになりました。それがBですね。

かべ :そうか、一度買った本は、本棚アプリが対応している端末であればどれでも読める、という訳ですね。そういえば、「MFラノベ☆コミック」もiPhone、iPad、Androidに対応し、アニメ化された作品など人気タイトル900冊以上を大好評配信中です!

まつもと :かべさん、途中から露骨に宣伝モードになってますよ…。で、説明を続けると、完全にプラットフォームに依存しているCのようなものは、まさに読者をそこにつなぎ止めることが1つの目的となった仕組みですから、これは複数の端末やサービスにまたがって読むのは難しいと言えるでしょう。

かべ :Appleやauならこんなに便利ですよ、という訳だから、当然といえば当然か、ううむ……。

まつもと :専用サービスならではの使い勝手の良さやコストパフォーマンスの良さを取るか、汎用性を取るか、悩ましいところではあります。もちろん、複数のプラットフォームを横断して使える場合でも、規約やサービスの方針が変わることで、未来永劫なんでも読める保障があるわけではないので注意は必要です。DのようにWebブラウザで読むことを前提にしているサービスであれば、そういう心配は小さいのですが。

 
【質問2】「Rabooみたいに今後サービスが終わって読めなくなったりする?」

かべ :あ! それも気になります。先日、koboを展開する楽天がそれまで運営していた電子書籍サービスRabooを終了してしまいました。そうすると、買った本が読めなくなってしまうわけですよね。

まつもと :正確にいえば端末にダウンロードした書籍を読むことはできますが、再ダウンロードはできなくなるということですね。これまでもRaboo同様、ソニーのPSP向け電子書籍サービスも終了とともに同じような状態になってしまうことが告知されています。

かべ :うーん……。紙なら本棚にさえあれば、いつでも、いつまでも読める、というのが当たり前でしたが、電子はそれが嫌だという意見は出てきそうですね。

まつもと :たしかにそこはデメリットの1つと言えそうですね。本当は、購入した書籍は、別のサービスが引き受けてくれたりすればよいのですが。現状はやはりこれも保障がない話だといえるでしょうね。
映像の世界では例えば海外で展開されているUltraVioletというサービスだと、手持ちのメディアが再生できなくなってもオンライン上で動画再生できる仕組みが整っています。大手ビデオメーカーが相乗りしているサービスですので、将来的な安心感もあります。

かべ :電子書籍の世界では、いまのところは先ほどのBやDのサービスのうち、できるだけ安心できそうなところを利用するということしかなさそうですね……。

まつもと :そういう心配や、そもそも読みたいタイトルが網羅されていないこともあって、「自炊でいいや」という結論になってしまったりもするんですよね。国内の電子書籍にもUltraVioletのような動きがあれば応援したいところです。あるいは、音楽のiTunes PlusのようにDRM(Digital Rights Management/デジタル著作権管理)が掛かっていないファイルを販売してくれれば、先ほどの複数のプラットフォームをまたいで読める、読めない問題も一気に解決しますが、これはまだ議論するには時期尚早な話でしょうね。業界の理解や共通認識が固まるのって時間がかかるんですよ。

 
【質問3】「海外に持って行きたいんだけど、通信しなくても読める?」

かべ :今後、タブレットの普及が進むとこういう疑問も出てきそうかなと思い。

まつもと :ダウンロード型の書籍ならば、端末の内蔵メモリーやSDカードに保存しておけば大丈夫ですね。海外に行ってからダウンロードしようとすると、通信費がすごくかかったり、国外からはアクセスができないケースもあり得ますので、出発前に読む予定の本は入れておいた方がいいでしょうね。

かべ :あと気になるのは、本を読むときにその都度、認証があるような場合です。

まつもと :なるほど、いくつかのストリーミング型の書籍などはそれですね。それはまさにいまの「海外からはアクセスできない」というケースが多そうです。こういう本とかコミックって、映画などと同様それぞれの国のビジネスを守るために、国や地域をまたいだアクセスは厳しく制限されていることが多いんです。ストリーミング型のものはちょっと持ち出して読むのは諦めざるをえないかなと………。

 
【質問4】「電子書店によってスマホアプリで買えたり読むだけだったり、バラバラでよくわかんない!」

かべ :質問3とも関連しますが、です!

まつもと :そうですね。アプリ型、本棚型があり、その中でもコンテンツをダウンロードするタイプもあれば、ストリーミングするものもあり、分かり難いのは確かです。もし、通信しなくても読めるかどうかを事前に確かめたい、ということであれば、スマホやタブレットを「フライトモード」に切り替えてみて、確認するということはできます。

かべ :これはもう少しサービスが出揃って、それぞれの特徴が明確になるのを待たないといけない感じですね。

まつもと :この連載でもできるだけ分かりやすい紹介を心がけたいです。

 
【質問5】「最近アプリで個人情報流出問題あったけど、電子書店は大丈夫?」

かべ :とりあえず、これが今回ラストの質問です。

まつもと :これ、大事なポイントですよね。図書館問題の時にも触れましたけど、「誰がどんな本を読んでいるか」という記録は思想信条に直接関わるものですから、流出だけでなく、データがどのように扱われているかは利用する側もよくチェックしなければなりません。

かべ :どこをチェックしたらいいですか?

まつもと :多くの場合「プライバシーポリシー」のコーナーで必要な項目が列挙されています。例えばcakesならばこんな項目について説明がされています。

●収集する情報
●収集する情報の利用
●個人情報へのアクセスと更新
●POC(ピースオブケイク)から他社への情報の共有
●情報の保護
●適用
●変更

かべ :なるほどー。cakesの場合、どんな記事を読んだかによって、オススメする記事を上位に持ってくるアルゴリズムがあるって加藤さんおっしゃってましたもんね。普段規約とか見ないですけど、やっぱり一度は目を通しておかないとですね。

まつもと :便利・快適さと行動履歴の収集って対の関係でもありますので、どんな情報が収集されているのか、そして適切にそれが扱われているかどうか、を利用者としても意識しておくというのはとても大切なポイントです。また、国も個人情報保護法を定めています。消費者庁が「早わかり」ページを用意していますので、一度見ておいてください。もし、電子書店が適切に個人情報を扱っていないと感じたときは、声を上げることも大切だと思います。

かべ :むむ、たしかに。今回もなんだかお腹いっぱいになりました。わたしからの質問だけでなく、読者の方からの質問も引き続き受付中です! 詳しくは↓を見てくださいね!

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■ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部:d-davinci@mediafactory.co.jp

イラスト=みずたまりこ

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■第1回「ダイヤモンド社の電子書籍作り」(前編)(後編)
■第2回「赤松健が考える電子コミックの未来」(前編)(後編)
■第3回「村上龍が描く電子書籍の未来とは?」(前編)(後編)
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