気づかないうちに、「夢」を諦めていませんか?『僕が死ぬまでにしたいこと』/佐藤日向の#砂糖図書館㊳

アニメ

公開日:2022/3/5

佐藤日向

 小学生の頃、「人生の中でやりたいことリスト」を作成した記憶がある。当時は、人生はまだまだ長いから何をやりたいか明確にすることができず、まわりが書いてるのにならって「バンジージャンプをしたい」と書いてみたりした。あの頃よりも大人になった私が、このリストを書くとしたら何を書くのだろう。今の私は、何が大切なのだろうか。

 今回紹介するのは、平岡陽明さんの『僕が死ぬまでにしたいこと』という、「喪失の世代(ロスジェネ)」にフォーカスを当てた作品だ。本作は40歳のフリーライターである主人公が、執筆をしながら出会った人たちに影響を受けることで「幸せとは何か」について深く考える、彼の日常が短編で描かれている。読みながらハッとさせられる瞬間が多々あり、作中に描かれる言葉たちにより、今の自分の状態に気付かされる作品だった。

 子どもの頃は何も考えず、ただただやってみたいことにがむしゃらに挑み、謎の自信に満ちあふれていた私は、失敗する想定なんてせずに前だけを真っ直ぐ見ていた。だが、本作を読みながら、自分でも気づかないうちに沢山のことを諦め、諦めた自分が恥ずかしくないよう上手に言い訳が出来るようになっていることに気がついた。高校の頃から時が止まっていると思っていたが、いつの間にか”大人”になっていたのかもしれない。

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 本作の中で特に印象に残っているのは、「そろそろ本当の自分の人生を起動したいと思った」という言葉だ。子どもの頃に憧れた芸能の仕事を、今も続けることが出来ている私は、奇跡に近い。もしかすると私は、他の人よりも諦めが悪く、諦めてきた回数が少ないのかもしれない。私にとっての最初のターニングポイントは、中学に上がる前だった。どれだけ芝居が好きでも、1年にひとつ仕事があるだけでは夢を仕事にできているとは言えず、まわりから「その夢は諦めた方が良い」と言われ続けた。そのとき母に「今辞めたら元の場所に戻ることは二度とできないよ。後悔するなら、続ける覚悟をしなさい。」と言われ、当時は覚悟の意味もわからず「やりたいからやる」という感覚で、続ける決心をした。そして高校に入るタイミングで、仕事を続けるべきか否か再び悩んだ。そのとき、母に言われた言葉の意味をちゃんと理解した。

“仕事”として芸能活動をするための覚悟を決めたあの時が、私にとっては”本当の自分の人生を起動”させた瞬間だったのかもしれない。

 作中には、何度も「言葉を拾う」という印象的な表現があった。ありがたいことに、私には自分の言葉を表現させて頂く場がある。これから私は、死ぬまでに自分が好きだと思う表現や言葉と出会い、それらを拾って大切に自分の中に残していきたいと思う。諦めるのをやめ、これまでに決めた覚悟が間違っていなかったと自分自身で証明するために、私は納得がいくまで芝居を続けていきたい。大人になった自分が、目標や夢を忘れていると感じる方に、作中にちりばめられた言葉たちのどの言葉が心に残るか、是非本書を読んで見つけてみてほしい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。