「だれかの大切なひと」になるために、必要なこと。『きみはだれかのどうでもいい人』/佐藤日向の#砂糖図書館㊺

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公開日:2022/6/11

佐藤日向

 人間関係を築くのは、とても難しい。自分の意思を貫き通せば我儘と言われ、相手の意見に合わせれば八方美人と言われる。じゃあ私はどうすればいいんだと悩むこともあったが、そもそも一度私の言動が気になった時点で相手にとって、私が何をしてもとにかく気になる相手になってしまうのだろう。

 今回紹介するのは伊藤朱里さんの『きみはだれかのどうでもいい人』という作品だ。本作は県税事務所で働く女性4人の、苦悩や働くことの大変さを濃縮した連続短編集となっている。読んでいる途中も読了後も、羅列されている言葉があまりにも刺さり続けて、とても痛かった。どの登場人物も実際にいそうな人達ばかりで、かつ、自分がこういう風に見えているのかもしれないと思いながら読み進めると、私のこれまでの言動が誤って伝わっていたかもしれないし、反対に私が誤解している可能性だってあると思えた。

 どんな職場でも、年齢や立場が違う人と一緒に働かなければならない。そしてそれぞれがこれまでの仕事を通して得た経験値によって、考え方や在り方は変わってくるため、相手に対して「どうしてこれが出来ないんだ」と感じてしまうこともあるだろうが、それは経験値の差だから仕方がないことなのだろう。ある程度のことは受け流しながら適度に力を抜いて働く、というのは案外難しいということだ。

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 作中で、第一章に登場する中沢環という女性には、特に共感ができた。心の中は常に強い言葉であふれていて、なんでも完璧にこなそうとするためまわりからは努力していないように見え、「挫折を一度味わった方がいい」と言われてしまう。勿論、挫折から得る経験だってあるだろうが、挫折というのは無理に経験するものではない。挫折を回避することだって必要な能力だと私は思う。作中の「負けるもんか。思いどおりになんか、なるもんか。挫折なんか。するもんか。みんな人の挫折が大好きだ。」という言葉が特に印象に残っている。こういった状況の時、私も一言一言を力強く残さなければ、自分の心が崩れてしまって涙がこぼれそうになる。だが、挫折してしまえばいいと思っている相手のために流す涙ほど、勿体無いものはない。絶対に負けたくない。という気持ちばかり強くなる。

 これから先、年齢を重ねるごとに掛けられる言葉は優しいものもある反面、年上という理由だけで心無い言葉を掛けられることもあるかもしれない。そういう時にどうすれば自分の心を守れるか、引き出しをこれから沢山作っていきたい、そう思える作品だった。”だれかのどうでもいい人”にならず、”だれかの大切な人”になれるようになりたい。読了後、重くずっしりと心にのしかかる作品だが、働き方を見直せる本作を手に取って頂きたい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な代表作に『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(暁山瑞希役)。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。6月12日(日)には佐藤さん家の日向ちゃん〜公開生放送イベント〜全3部を実施。