【祝・北京五輪金メダル/特別連載】平野歩夢のプランが大きく揺らいだ2020年。スケートとスノー、まさかの同時進行に

スポーツ・科学

公開日:2022/3/20

Two-Sideways 二刀流
『Two-Sideways 二刀流』(平野歩夢/KADOKAWA)※スノーボードverの新デザイン版

 二刀流で世界を狙う、平野歩夢選手の前人未到の挑戦。最初は「誰もやっていないこと」という、シンプルに自分自身への挑戦がきっかけではあった。しかし手探り状態で二刀流に挑戦し続けるうちに、この表現を通して自分がなにをどのように伝えたいのか、ようやく考えられる気持ちになってきたのだと言う。

 平野選手のドキュメンタリーフォトエッセイ『Two-Sideways 二刀流』(KADOKAWA)では、3年間にわたる飽くなき挑戦の日々が写真、そして平野選手のコメントと共に綴られている。

 その一部を紹介したいと思う。今回は新型コロナウイルスの影響で平野選手のプランが大きく揺らいだ2020年。半年間に夏冬2つのオリンピックが催されることが決まり、スノーボードだけに集中して北京に備えるための期間は、たった半年しかないという状況になる。

※本稿は『Two-Sideways 二刀流』(平野歩夢/KADOKAWA)から一部抜粋・編集しました。

Two-Sideways 二刀流

ユニクロの撮影で訪れた浅草にて。

数週間後、東京オリンピックが1年延期になって、スケートとスノーを同時進行していかなきゃいけない状況になった。

スノーも徐々にではなく、急に仕上げていかなきゃならない。

乗ってなさ過ぎて不安な気持ちもあった。

毎日のように急変する状況に追いつかない気持ちもあった。

【2020.3 Asakusa, Tokyo, JAPAN】

Two-Sideways 二刀流

1年振りにスノーボードを履いた日。

兄弟3人で滑って良い気分転換になったのでは、と聞かれるけど、楽しさよりもいろいろと先を考える気持ちが強くて。

軽い気持ちでボードを履こうとは思わなかった。

やるからには短期間で、何をやらなきゃいけないのかと明確に考えながら滑っていた。この時点では、こんな状況でどっちもやるのは無理だな、とも思ったり。

滑ったのは短い時間でしたが、集中して今までの感覚に戻すことを意識していた。

でも、スノーをやることになったらなったで、スケートが心配になったり。

何かをすると、常にもう一方が気になってしまう。

ないものねだりなんだけど。

【2020.3 Aomori, JAPAN】

Two-Sideways 二刀流

スケートボードとスノーボードのバランスが難しいことは間違いない。

これからのスケジュールや時間に、体が追いつけるのか。

【2020.6 Murakami, Niigata, JAPAN】

村上市スケートパークでトレーニング。

夏の間はどう過ごしたのか思い出せないくらい、毎日ハードな練習をしていた。

朝からスケートを滑った後には、冬にスノーでやりたいイメージをバグジャンプ(夏でもスノーボードのジャンプを練習できる施設)で試して、またスケボーに戻っての繰り返し。

オーバーワークで体は辛かったけど、具体的に定まった目的が自分にやる気を出させていた時期。

【2020.9 Murakami, Niigata, JAPAN】

Two-Sideways 二刀流

9月からは、スイスで2年半振りの雪上トレーニングへ。

パンデミックの影響で1年間スケートの大会が開催されないことに決まったので、しっかり切り替えてスノーのスイッチが入っていた。

世界のTOP10ライダーが揃っていたので、客観的に自分の出ていなかった期間の状況もリアルに見えたし、みんなが本気で練習している姿がいい刺激になった。

またスケートの大会がこの先に開催されるかもと考えると、ここでスノーの感覚を取り戻しておくのは大事だ。

【2020.10 Saas-Fee, SWITZERLAND】

Two-Sideways 二刀流

スケートからスノーは対応しやすいけれど、スノーからスケートに戻すのは難しい。

できるだけスケートを滑る時間も作るようにしないと。

【2020.10 Saas-Fee, SWITZERLAND】

もっと時間がかかると不安に思っていたけれど、予想よりもスノーボードは戻ってきやすいなと。

実際にやってみて、わかった感覚から手応えが得られたことはメンタル的にも大きい。

【2020.10 Saas-Fee, SWITZERLAND】

Two-Sideways 二刀流

もともと2週間の滞在予定を1ヶ月半に延ばして、もう自分が帰ってもいいなと納得できるまで
みっちり練習ができた。

平昌オリンピックの決勝で出した技は全部出せるまで、スノーの感覚が戻ってきた。

自分自身は今までを超える滑りを目指しつつ、みんなが何をやろうとしているのかを見られたのも収穫。

【2020.10 Saas-Fee, SWITZERLAND】

Two-Sideways 二刀流

コロナ禍の厳戒態勢の中、海外に出ることに不安は感じていたけど、そこに立ち向かわなければ何も始まらない。

ここを踏み外すわけにはいかないなという気持ちがあった。

隔離があったり、PCR検査があったり、最大限に気をつけながらいつもと違うことが当たり前にたくさんあった。

ドキドキしますよね。どうなってもおかしくない。

大会直前に開催されませんっていう状況もあり得たけど、無事に帰ってこられてよかったなと思います。

なにより、自分の滑りをここで取り返さなきゃという気持ちが強くありました。

【2020.12 Copper Mountain, Colorado, USA】

写真:篠﨑公亮

【著者プロフィール】
●平野 歩夢:1998年11月29日生まれ。新潟県村上市出身。2014年ソチオリンピック、2018年平昌オリンピックのスノーボード・ハーフパイプ競技において2大会連続銀メダル獲得したトップアスリート。2021年の東京オリンピックではスケートボード、2022年北京オリンピックではスノーボードで出場という前人未到の横乗り二刀流に挑戦。北京オリンピックの男子ハーフパイプ決勝では人類史上最高難度の大技を決め、悲願の金メダルを獲得している。

<第8回に続く>

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