クラスメイトから告白された紗月。保険をかけるような告白に腹が立ち…/5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール③

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/20

「あのさ――立川の今後のために言うけど、そういう告白はやめたほうがいいよ」

 紗月が何を言わんとしているのか、詩都花もエミも瑞穂も、そして当の立川も、理解できずに硬直する。

「……え? どういうこと?」

 紗月は、デキの悪い生徒にイラ立つ教師のように、ゆっくりと、強い口調で言った。

「そういう、自分を守るような、保険をかけた告白はカッコ悪いから、やめたほうがいいってこと」

 そうして立川に向けられた視線は、周囲を凍りつかせるほどに冷えきっていた。

「自分がフラれるのは自分に魅力がないからじゃなくて、たまたま相手に彼氏がいたからっていうことにしたいんでしょ? フラれて傷つくのが怖いから、フラれて当たり前なんだっていう予防線を張ってるだけ。それでいて、その彼氏と別れても自分がいるよって、アピールしておきたいのよね。『彼氏ができて、よかったじゃん』なんて、ぜんぜん思ってないじゃない。そんなふうに保険をかけて告ってくるような男子にはキョーミないから、わたし」

 固まっていた立川の顔が、ピクリと引きつった。それでも何か言い返そうというプライドがあったのか、口をモゴモゴさせるものの、何ひとつ、まともな言葉にならない。

 結局、叱られた子犬のような顔になって、立川は紗月から目をそらした。両方の拳を体の横で握りしめたまま、歩幅だけは大きく、詩都花たちのほうに向かってくる。

 あわてて場所を空けた3人に、もしかしたら立川は気づいていなかったのかもしれない。あるいは、無様な姿を他人に見られたなんてことは耐え難い屈辱だろうから、詩都花たちに気づかないフリをすることで、誰にも見られていないことにしたかったのかもしれない。

「返り討ち」にされたに等しい立川から、返り討ちにした張本人である紗月に、詩都花たちはそーっと視線をスライドさせる。腰に手をそえて悠々と立つ紗月の姿は、一対一の決闘に勝利したサムライを思わせた。

「あれも、ある意味、『ズルい男』ね」

 せいせいした表情で言い放つ紗月に、エミがおずおずとつぶやく。

「さすが紗月ちゃんだけど……でも、あそこまで言う必要もなかったんじゃ……」

「だって、ハッキリ言わないと、立川みたいな男には伝わらないもん。立川自身、自分のズルさに気づいてなかったと思う。だから、気づいてほしかったの。立川が見込みのある男なら、これで『ズルい男』を卒業できるはずよ」

 紗月が言い終えた直後、予鈴が鳴った。「ほら、戻ろ!」と、何事もなかったかのように率先して校舎に入っていく紗月を、詩都花たちは追いかける。

 紗月のこういうストレートなところが、ときに敵を作ってしまう原因になるんだろうということは、詩都花もエミもわかっている。それでも、紗月の一言に救われる、瑞穂のような子がいるのも事実だ。紗月のこういった一面が、多くの人に好かれる魅力になっていることは、間違いない。

 ――私だって、そのうちのひとりだしね。

 そう思いながら、詩都花は紗月のあとを追って、階段を下ってゆくのだった。

<第4回に続く>

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