作家デビューから53年! 89歳の現役作家・角野栄子が楽しく生きる秘訣をアドバイス 映画「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」完成披露上映会レポート

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/25

『魔女の宅急便』の作者としても知られる児童文学作家・角野栄子さんの日常に密着したドキュメンタリー映画「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」。
1月26日公開の本作に合わせて、『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』も先日発売されたばかり。このたび、映画の完成披露上映会が1月16日に東京・神楽座行われ、角野さんと宮川麻里奈監督が舞台挨拶に登壇。満席の場内の中で、二人が4年間に渡る密着取材を振り返るトークを繰り広げた。

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文/高関聖子(アンチェイン)

「90歳になったら恋愛小説を書きたい」
児童文学作家・角野栄子が来年の抱負を語る
映画「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」完成披露上映会レポート



今年の元旦に89歳の誕生日を迎えた角野栄子さんと、宮川麻里奈監督。

角野さんへのラブレターのような映画

 本作は、角野栄子さんの日常にカメラを向け、鎌倉の自宅での執筆作業やライフスタイルに迫ったドキュメンタリー映画。角野さんは子どもの頃に戦争を経験し、結婚後は24歳でブラジルに渡り、そのときの経験をエッセーという形で書き上げ、35歳で作家デビュー。当時の豊富な経験は、その後の作家活動に大いに影響を与え、代表作『魔女の宅急便』をはじめ、多数の児童文学作品を発表。そして2018年には「小さなノーベル賞」と言われる「国際アンデルセン賞・作家賞」を日本人3人目で受賞する快挙を成し遂げた。80歳を超えてもなお執筆を続ける角野さんの“書く原動力”は何か。そのヒントを得るために宮川監督が追いかけた角野さんは、キュートで、よく笑い、よく食べ、“自分が楽しいこと”をとことん追求する人だった。約90分間の映画が完成して、いよいよお披露目となるこの日、角野さんは鮮やかなピンク色のワンピース姿で登壇し、開口一番、場内を和ませる。

「こんにちは。お寒い中いらしていただいてありがとうございます。この映画は何しろ主役が89歳ですから、皆さんあまり期待をなさらないで(笑)。でも映画はとても面白くできています。150%の私を出してくださっているんじゃないかしら」(角野さん)

 その様子を見て照れ笑いする宮川監督は、「映画監督をやらせていただくことになり、最初はどうしようかと思っていたんです。そこで、女性を主人公にした世界中のいろいろなドキュメンタリー映画を片っ端から観ました。その結果、“これは大丈夫だ”と確信を持ったんです。角野さんのようなこれほどまでに素敵な女性は、世界広しと言えどもいないです。私は変に肩に力を入れずに角野さんの素敵さを伝えるようなものを作ればいいんだなと思いました。この仕事を始めて30年。いままで頑張ってきたご褒美かなと思っています。この映画は私から角野さんへのラブレターのつもりで作らせていただきました」と語り、角野さんの魅力の虜になったことを明かした。



洋服選びについて、「もう、エイヤー!という感じで、好きなもの、着たいものをただ選んでいるだけなんです」と語る角野さん。



宮川監督が、「実は、自分の知らないところで娘が『魔女の宅急便』にすごく感銘を受けていたことを、製作中に知ったんです」と明かす一幕も。

恩人との62年ぶりの再会を振り返る

 劇中、鎌倉の自宅で料理や執筆をしたり、カラフルなワンピースと個性的なメガネでおしゃれを楽しみながら、近所のカフェでエスプレッソを飲む角野さんの姿が映される。食事やメガネの選び方には、「楽しく生きる」という強いこだわりが映し出されている。角野さんは、「初めての経験でしたし、これは楽しんでやらなくちゃいけないなって。毎日楽しもうと思って暮らしてはいるんですよ。普通にものを書いていて、普通に暮らしているだけですが、ちょっと詐欺じゃない?っていうくらい宮川さんに綺麗に撮っていただきました」と撮影を振り返り、監督に感謝を述べた。

 また映画後半では、角野さんの作家デビュー作『ルイジンニョ少年:ブラジルをたずねて』(ポプラ社)のモデルとなったルイジンニョさんと62年ぶりに再会する感動的なシーンも。宮川監督は、「ブラジル時代の恩人との再会ということでルイジンニョさんが来日してくださったんですが、実は前の週まで本当に来てくださるのか、わからなかったんです。一度は諦めかけて、私がカメラを担いでルイジンニョさんのメッセージを撮りに行こうかと思ったくらい。でもまさに奇跡の再会を果たされたんですが、いま思うと、これは角野さんの想いの魔法がかかったんじゃないかなって」と、撮影秘話を明かした。続いて角野さんは、「私も本当に奇跡だと思います。彼と離ればなれになってから62年経つわけですからね。当時は12歳の少年だったんですよ。彼が空港に現れたときは、“あれ? だいぶおじいちゃんになっちゃったんじゃない?”って思っちゃったんですけど、自分も歳をとってるんですよね(笑)。でも話してみると、彼らしい表現や言葉のリズムがあって、だんだん昔を思い出してきて。本当にいい機会を与えていただいたなって思います」と感慨深くコメントした。



「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」より。娘のくぼしまりおさんとのシーン。

90歳になったら恋愛小説を書いてみたい

 80歳を超えても創作意欲が尽きない角野さんは、一昨年に自身の自伝的物語『イコ トラベリング 1948-』(KADOKAWA)を発表した。劇中でも、朝食後から夕方まで休みなく執筆する姿が印象的だった。好きなことを続ける秘訣について聞かれた角野さんは、優しい眼差しでこう語った。「私、“好きなもの”が決まらなかった人で、大学を出てもブラジルに行っても何をしていいかわからなかったのね。ブラジルから日本に戻ってきたときに、大学時代の先生から何か書けと言われたけど、初めて書くわけですから、何回も何回も書き直したんですよ。そうしたら、なんだか面白くて、一生書いていこうって思えたんです。それからコツコツ毎日書きました。私、疲れたって言えないんですよ。だって、好きなことやってるんでしょう?って言われるから」(角野さん)。また、執筆の様子を間近で見ていた宮川監督も、「楽しんで書いてらっしゃるんです。遊ぶように、落書きするように書いている。撮影していると、角野さんがどんどん物語の世界に行ってしまって止まらなくなってる!と思うことが多々ありました(笑)」と、物語が生まれる瞬間の様子を語った。



角野さんは、朝ごはんを食べたらパソコンに向かい、そこから夕方まで休まず執筆を続けることが多いそう。

 このエピソードに対して角野さんは、「好きなことをやっているんだから、自分の気持ちを自由にしてみるといいの。失敗したら戻ればいいと思ってるから。私、書き直すことが全然苦にならないんです。30枚書いても最初から書き直すのはOK。書き直すと、また違う発見があるんですよ。それに出会いたいし、出会えると思うと楽しいんです」と付け加え、場内から感嘆がもれた。
 最後に今後の目標を訪ねると、角野さんからワクワクする答えが返ってきた。「私、来年90歳なの。これ、ちょっと売りです(笑)。90歳になったら、すごいピュアなラブストーリーを書いてみたいんです。中学1年生の時の初恋なんて忘れちゃっているわね。相手の名前も忘れてしまっているけど、書けるかな…?と思っていますが、できればね(笑)」と満面の笑みで意気込みを覗かせ、大きな拍手が鳴るなかでイベントは終了した。



元旦に89歳を迎えた角野さんに、監督から花束贈呈のサプライズ。花束はもちろん、いちご色!

作品情報

「カラフルな魔女〜角野栄子の物語が生まれる暮らし〜」
語り:宮﨑あおい
監督:宮川麻里奈
音楽:藤倉 大
配給:KADOKAWA
© KADOKAWA

1月26日より全国ロードショー
https://movies.kadokawa.co.jp/majo_kadono/

STORY
『魔女の宅急便』の作者として知られる、児童文学作家・角野栄子。彼女の日常に4年にわたって密着したドキュメンタリー映画が公開。鎌倉の自宅では角野自らが選んだ「いちご色」の壁や本棚に囲まれ、カラフルなファッションと個性的な眼鏡がトレードマーク。一方、5歳で母を亡くし、太平洋戦争下の日本で10代を過ごしたのち、結婚後は24歳でブラジルへ。35歳で作家デビューするなど、波乱万丈な人生を振り返る。持ち前の冒険心と好奇心で幾多の苦難を乗り越えてきた角野。「想像力こそ、人間が持つ一番の魔法」と語る88歳の世界一キュートな「魔女」。その存在に迫り、老いや衰えさえも逆手にとって、夢いっぱいの物語を生み出す彼女の「魔法」に迫る一作。

書誌情報

『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』
監修:KADOKAWA
定価: 1,760円 (本体1,600円+税)
発売中

キセキの88歳。『魔女の宅急便』角野栄子の魔法の暮し、その秘密を大公開
角野栄子。世界的児童文学作家。88歳。
栄子さんの毎日はなんだか楽しい。
朝はだいたい8時起き。
ちょっぴり手抜きもあるけれど、自分が食べたい朝ごはんを作って食べ夕方まで執筆。
仕事が終わるとお散歩に出かける。鎌倉の海で、とんびに話しかけたり、絵を手帳に描いたり。
まるで遊ぶように、でも大切に暮らす日々。
Eテレの人気番組が映画になりました。そのすべてがこの1冊に詰まった写真満載の公式ブック。
※画像は表紙及び帯等、実際とは異なる場合があります。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322302000985/