仰げば、尊し。 春に読みたい「先生」を思い出す本

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/9

遠く離れた今になってようやくわかる、優しさや言葉の意味。
人生を振り返ったときに、出会えてよかったと心から思える「先生」はいますか? 
卒業の季節、敬愛と思慕がたっぷり詰まった「先生の本」をご紹介します。
※本企画はダ・ヴィンチ2017年4月号の転載記事です

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構成・文=阿部花恵

人生を教えてくれた先生

森 博嗣『喜嶋先生の静かな世界』(講談社文庫)

他者に期待を持てないまま大学に進学した「僕」。だが研究の世界に足を踏み入れ、風変わりだがとびきり優秀な喜嶋先生のもとについたことで、世界の広さと知の喜びを知っていく。生涯の師への尊敬と憧れを美しく簡潔に綴った自伝的小説。

重松 清『せんせい。』(新潮文庫)

僕たちは誰もが、一番身近なおとなを「せんせい」と呼ぶ日々を過ごしてきた。だけど先生だって不器用な人間だ。生徒を好きになれない先生もいれば、厳しく接することでしか伝えられない先生もいる。6人の先生たちの物語を収録した短編集。

棚園正一『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)

小学1年生のとき、担任教師の暴力がきっかけで不登校になった少年。学校へ行ったり行かなかったりを繰り返し続けた小中学校時代、8人の先生との出会いは彼にどんな影響を及ぼしたのか。「9人目の先生」こと鳥山明も寄稿!

伊藤比呂美『あのころ、先生がいた。』(イースト・プレス)

女の生きかたを教わったオキタ先生、古典文学担当のおおらかなヤダ先生、影が薄くて忘れてしまった先生……。著者が小中高校で出会った先生たちとの思い出を綴ったエッセイ集。読み進めるほどに、自分にとっての「先生」を思い出してしまう。

立川談四楼『師匠!』(PHP文芸文庫)

半人前の落語家にとって、「師匠」は絶対の存在。だが女好きの師匠が狙っていた女子大生が自分に好意を寄せてきたら? 現役落語家の著者が実体験をベースに綴ったおかしみと哀愁たっぷりの短編集。惚れた師匠に振り回されるのもまた喜び?

池上 彰:編『先生!』(岩波新書)

「先生!」という言葉から喚起されるエピソードを教えてください。先生of 先生とも呼ぶべき池上彰からの呼びかけに天皇陛下の心臓外科医からマンガ家、作家、タレントまで各界の27人が回答。先生と子どもの関係についてヒントが満載。

泉 ゆたか『お師匠さま、整いました!』(講談社文庫)

亡夫の跡を継ぎ、寺子屋で子どもたちの師匠をして暮らす桃。そんな彼女のもとに両親を亡くした春が訪ねてくる。「もう一度算術を学び直したい」という春を桃は戸惑いながらも受け入れるが……。女性同士の師弟関係は意外とレアで新鮮!

内田 樹『最終講義 生き延びるための七講』(文春文庫)

学校という場が持つ意義、学ぶことの本質とは? 「先生」として最後に教壇に立った神戸女学院大学退官の際の最終講義を含む著者初の講演集。学ぶ人、教える人、そして学ぶ場。教師と学生を取り巻くすべてに貴重な示唆を与えてくれる一冊。

ヒュー・ロフティング:著 井伏鱒二:訳『ドリトル先生アフリカゆき』(岩波少年文庫)

1920年に最初の物語が刊行されて以来、世界中で愛され続けてきたロングセラー冒険記。ちょっと偏屈だが動物と話ができて、ユーモアと慈愛に満ちた名医ジョン・ドリトルは、今も昔も子どもたちに愛される永遠の「先生」だ。

先生に恋して 禁断の恋はとびきり甘い

五十嵐貴久『学園天国』(実業之日本社文庫)

「ちゃんと聞きなさい!」と怒る23歳の女性教師と、皆の前で吊るし上げられる高3の男子生徒。だが実はふたりは家では「ダーリン」「ハニー」と呼び合うラブラブ夫婦で!?バレたら絶体絶命な年の差カップルが繰り広げる学園ラブコメ。

加藤千恵『卒業するわたしたち』(小学館文庫)

「生徒とか元生徒とかイヤです。わたしは先生が好きなんです」。30代後半のバツイチ教師に真剣に恋した高校生の佐波。卒業後、本気の思いは届いたはずだったが……(「三月に泣く」)。さまざまなシチュエーションの卒業を描いた短編集。

中村 航『年下のセンセイ』(幻冬舎文庫)

3年前に職場恋愛で振られて以来、恋とはご無沙汰な28歳のみのり。だが通い始めた生け花教室で8歳年下の「透センセイ」と出会い、戸惑いながらもふたりは惹かれ合っていく……。春の訪れとともに始まる、花に彩られた恋愛小説。

よしもとばなな『High and dry(はつ恋)』(文春文庫)

14歳の秋、夕子は生まれて初めて恋をした。相手は絵画教室の先生であるキュウくん。魔法のような奇跡の瞬間を共有したふたりは、ゆっくりと自分たちだけのペースで心を通わせていく。挿絵のイラストにも心あたたまる小さな恋の物語。

島本理生『ナラタージュ』(角川文庫)

大学2年の春、泉のもとに高校時代に片思いしていた葉山先生から電話がかかってくる。再会したふたりは激しく惹かれ合うが、先生には秘密があった。恋愛のままならなさを余すところなく描いた傑作。2017年秋に松本潤、有村架純主演で映画化。

新海 誠『小説 言の葉の庭』(角川文庫)

両親の離婚で心がささくれだっていた高校生の孝雄。そんな矢先の雨の朝、年上の女性・雪野と出会い、謎めいた彼女に少しずつ惹かれていく。新海誠監督自身による同名劇場アニメのノベライズ。小説版ならではのエピソードも登場。

わが師、追想弟子から見た師匠

内田百閒『私の「漱石」と「龍之介」』(ちくま文庫)

「漱石先生は下戸であつて、盃を舐めただけでも真赤になつた様である」。門弟として師の夏目漱石を敬愛してやまない著者が綴る回想記。人間味溢れる漱石先生がなんとも微笑ましい。同門の芥川龍之介との交遊の思い出も収録。

牛尾喜道、藤森 武『我が師、おやじ・土門拳』(朝日新聞出版)

土門拳の拳は「拳(こぶし)」の拳。気の利かない弟子に手を挙げる粗暴な師匠でありながらも、弟子たちは彼の才能に魅了され、その背を追いかけていく。「写真の鬼」と呼ばれたカリスマの一番・二番弟子が交互に思い出を綴る回想録。

伊集院 静『いねむり先生』(集英社文庫)

最愛の妻と死別し、酒とギャンブルに溺れる日々を送っていた男。だが知人の引き合わせでギャンブルの神様として知られる有名作家・色川武大に出会い、彼が与えてくれる奇妙な安堵感に救われていく。ドラマ化もされた伊集院静の自伝的小説。

中谷宇吉郎『寺田寅彦 わが師の追想』(講談社学術文庫)

「雪は天から送られた手紙である」の随筆で知られる文理融合の物理学者、寺田寅彦。大正から昭和期にかけて、彼の最も身近でその研究と人となりに触れてきた22歳年下の教え子による恩師の追想録。夏目漱石との接点も興味深い。

佐藤 優『先生と私』(幻冬舎文庫)

自分たちは高等教育を受けていなくとも息子には知らない世界を見ることを薦めた両親、『資本論』の旧訳をくれた進学塾の副塾長、自分で考えることを教えてくれた数学教師。出会った人や本、事件すべてに影響を受けて人は成長する。

坪松博之『Y先生と競馬』(本の雑誌社)

Y先生とは作家の山口瞳のこと。直木賞作家として一世を風靡し、今なお根強いファンを持つ山口瞳は熱烈な競馬ファンとしても有名。彼を先輩として慕い、競馬同行の日々を続けた著者が、500ページ近くを費やして綴った評伝エッセイ。

卒業や入学・入社などライフイベントが重なる春の季節。今回紹介した21冊のなかから、みなさんのお気に入りの「先生」の一冊が見つかるかもしれません。ぜひ実際に手に取って、物語の世界を楽しんでみて。