小説とラノベを分けるのはナンセンス!? 人気の「キャラ文芸」とは何か?【識者解説】

2015/5/7

   

 「ライト文芸」「キャラ文芸」と呼ばれるエンタメ小説のレーベルが次々と創刊されている。これは「ライトノベル」や一般文芸のエンタメ小説といったいどこが違うのか? そんな基本的なことから、このジャンルが注目されている理由、今後の展開についてまで、『ライトノベルから見た少女/少年小説史』の著者で辰巳出版が2月に創刊したライト文芸レーベル「T-LINEノベルズ」の監修も務める大橋崇行さんに聞いた。

読者の年齢層の違いが文体の変化に

――「ライト文芸」「キャラ文芸」と呼ばれるジャンルの新レーベルが次々と創刊していますが、従来のライトノベルとはどういったところが異なり、どんな特徴があるものなのでしょうか。

大橋:「ライト文芸」「キャラ文芸」といっても大きな幅がありますし、実際には旧来のライトノベルと同じように、いろいろな作品が混ざっています。マンガ、アニメ的なキャラクターを登場人物にすることもライトノベルと共通していますが、もっとも大きいのは、想定読者の違いでしょうか。ライトノベルの場合は、電撃文庫やメディアワークス文庫など、中学生や高校生の男性読者、コバルト文庫のような少女向けレーベルなら中学生や高校生の女性読者、読者を想定して作られています。実際のところ、ライトノベルには30代の読者も多いのですが、これはあくまで誰を想定して小説を作るのかという話ということです。

 これに対して「ライト文芸」「キャラ文芸」は、20代以上の読者を想定して書かれています。この世代は、もともといちばん小説を読んでいる世代でもあります。小説を一番手に取っているこの世代が、今、面白いと感じられるものは何かと考えて出版されるようになったのが「ライト文芸」「キャラ文芸」でしょうか。

 20~30代の読者層は7割が女性だというデータがありますので、どうしても女性向けのものが多く出版されることになります。その点は、メディアワークス文庫や集英社オレンジ文庫がはっきりと打ち出していますね。働く女性を描いたキャラクター小説を連続刊行しているダ・ヴィンチ文庫MEWの試みはとても面白いと思います。

――これまでのライトノベルと対象年齢が変わったことで、内容にはどんな違いが出てきたのでしょうか。

大橋:想定する読者が違うと、どうしても小説としての文章の書き方やキャラクターの配置が変わってきます。たとえば小学生向けの小説を書くときは、小学六年生までに国語の授業で習う教育漢字や語彙の中で書かなくてはいけないという制約が出てきます。

 ライトノベルにも同じことがあって、語彙はもちろん、10代の読者に向けて書くときは、ストーリーの状況や登場人物をできるだけ詳しく説明しないと伝わらない。それから、自意識がとても強い時期なので、そういう読者が好むような文章の書き方をあえて入れることもあります。

 しかし、より高い年齢層を読者に想定している「ライト文芸」「キャラ文芸」ではそういった書き方はしません。逆に余計な説明などは省いて、それ以外の要素――たとえば人物の内面や情景描写を厚くしたり、ストーリー展開を早くして物語をより大きく膨らませたりすることができます。そういう意味で、作家としては表現の幅が求められるわけです。また、小説の文章の書き方そのものに対しても目が厳しくなっているので、ライトノベルでよく見られるような地の文に口語的な表現を入れていくことは難しくなります。

 その一方で、東川篤哉先生の『謎解きはディナーのあとで』が典型的だと思うのですが、今の20代~30代以上の読者は、マンガに馴染んで育ってきているので、登場人物や会話文がマンガ的であることには、ほとんど抵抗がないんですね。むしろ、登場人物についてはマンガ的なキャラクターを使うほうが馴染みやすいかもしれません。

 よくエンタメ小説では「読者を意識する」といいますが、これは別に流行の小説を書くということではなく、読者を意識することによって小説の表現、語彙といった文章のレベルからも変わっていくことだといえます。作家は読者を意識した瞬間、ほとんど無意識にこの作業をやられる方が多いように思いますが、そこで読者とずれる部分は編集や校閲の段階で直されていくという感じでしょうか。

 このように、ライトノベルとの違いは、狙っている読者が違うということから考えると、一番わかりやすいと思います。

ラノベと一般文芸の双方から流入

――このような「ライト文芸」「キャラ文芸」と呼ばれる新たなエンタメ小説が注目を集めるきっかけになった作品はどんなものが挙げられるのでしょう?

大橋:2つの系譜があります。ひとつは、ライトノベルから入っていく方向です。『絶対城先輩の妖怪学講座』(メディアワークス文庫)の峰守ひろかず先生や、『ガーデン・ロスト』(メディアワークス文庫)の紅玉いづき先生、『いなくなれ、群青』(新潮文庫nex)の河野裕先生、『お伽鬼譚』(T-LINEノベルス)の竹林七草先生のように、もともと10代の読者に向けてライトノベルを書かれていた作家さんが、20代以上の読者に向けて書いていくというケースです。有川浩先生や桜庭一樹先生のようにライトノベルから一般文芸のエンタメ小説に入っていく方が注目を集めた時期もありますが、もともとコバルト文庫からは一般文芸に入っていく方が多かったですし、これは以前からあった現象だと思います。

 むしろ新しいのは、もともと一般文芸の小説を書いていた作家さんが作中人物をキャラクター化していく形で「ライト文芸」「キャラ文芸」を書かれている、もうひとつのケースです。『天久鷹央の推理カルテ』(新潮文庫nex)の知念実希人先生や『こちら、郵政省特別配達課』(新潮文庫nex)の小川一水先生、『王子になるまでキスしない』(朝日エアロ文庫)の木宮条太郎先生、『夢想機械 -トラウムキステ-』(T-LINEノベルス)の村松茉莉(真理)先生がそれに当たるでしょうか。これは、先ほど挙げた東川篤哉先生の『謎解きはディナーのあとで』(小学館)や似鳥鶏先生の『戦力外捜査官』(河出書房新社)などが好評だったことから出てきた流れだと言えるでしょう。

――ライトノベルと一般文芸の双方から出てきたということですね。

大橋:ライトノベル読者から見ればライトノベルが広がったということになるから「これもライトノベルなんだ」といいたくなるし、一般文芸のエンタメ小説の読者から見ると、一般文芸がキャラクター化したことになる。だから、ライトノベルが一般的に認められたとか、一般文芸がライトノベル化したとか、どちらか一方の立場に立ったいい方をするのは非常にナンセンスだと思います。極端に言えば、作り手としては今の読者に受け入れられるもの、より面白いものを追究して本を作った結果、その両方にまたがる小説が生まれてきたというだけなんですよね。ライトノベル的なキャラクターを持ちつつ、基本は一般文芸、けれどもライトノベルの読者のほうも見ていないわけではないという意味で、「ライト文芸」という名称は、かなり的を射ているかもしれません。

――「ライト文芸」「キャラ文芸」のレーベル創刊が相次ぐ背景にはどんな理由があるとお考えですか。

大橋:ひとつにはもちろん、この領域の本が好調である点です。繰り返しになりますが、20代から40代、とくに女性はすべての年代のなかでもっとも小説を読んでいる層です。今後、メディアミックス作品が増えていくことが予想されますので、今後さらに広がる余地があるでしょう。

 それから、もうひとつ敢えて挙げるとすれば、ライトノベル作家の事情が関わっています。旧来のライトノベルは10代に向けて書くわけですが、この世代は常に入れ替わるので数年経つとがらりと読者の好みが変わってしまいます。もちろん、それに合わせて作品を変えていくことでライトノベル作家として長年活躍されている方もいるのですが、基本的にライトノベル作家が長く活動を続けることは非常に難しいと思います。

 しかし、新たな若い読者を獲得することは難しくても、「10代の頃に読んでいた」という読者はついているし、もちろんストーリーを書く力もある。そういった作家さんに、もうひとつ上の世代を対象にした作品を書いて頂くと、想定読者と実際の読者の世代がふたたび重なる上に、新しい読者を獲得することで、より長く作家として活動できる可能性が出てきます。

 これは実は、1980年代のコバルト文庫がもっていたものと同じ方法です。もともとコバルト文庫は10代の中高生を対象にした雑誌『小説ジュニア』掲載作品が中心になっていましたが、これを1982年に『cobalt』にリニューアルしたとき、20歳前後を対象にすると編集後記で宣言し、そこから80年代の「コバルト四天王」を中心にした黄金時代を築き上げました。その成功は、マンガやアニメだけでなく、テレビドラマや映画へと展開することができたため、より多くの読者に触れる機会があったからだと思います。コバルト文庫はその後再び10代に読者を引き戻していくという経緯を辿るのですが「ライト文芸」「キャラ文芸」がやっているのは、ちょうどこれと同じ方向性だと思います。