三組のカップルが織りなす恋模様。「恋」に翻弄される男たちを描いた『花鳥風月』から、目が離せない!

更新日:2015/8/6

 誰かを好きになるということは、時に苦しく、時に幸福なことだ。その先になにが待ち受けているのか、決して誰にも読めない。土砂降りのような絶望感に打ちひしがれることだってあるし、雲ひとつない晴天のような心持ちになることもある。たとえば、それは自然にも似て、恋に落ちた者を翻弄するのだ。

 『花鳥風月』(志水ゆき/新書館)で描かれるのは、「恋」という感情に振り回される、三組のカップルの姿。登場するのは、いずれも男同士のカップル…そうBLだ。しかし、ここで引き返すのは損。彼らの恋模様には、とても胸を打つものがあるから。

 前述の通り、本作には三組のカップルが登場する。
●外科医・一見雅貴(ひとみ・まさたか)×純朴な青年・糸川一人(いとかわ・かずと)
●陶芸家・観世大輝(かんぜ・だいき)×元・V系バンドのボーカルで町内会長の黒井沢斗(くろい・さわと)
●ひきこもりヤクザの辻本曜明(つじもと・ようめい)×彼に拾われた佐野火弦(さの・ひづる)
 小さな田舎町を舞台にした彼らの恋愛は、少しずつ絡み合い、読み手をその渦に引き込んでいく。

 雅貴と一人のカップルは、一見甘々で糖度満点。けれど、その背景には、一人のツライ過去が関係している。

 もともと都会に住んでいた一人は、とある理由で田舎に引っ越して来た。それは、母親にゲイであることがバレてしまったから。自分のことをゲイだと知り、過剰なまでにやさしく振る舞う母親の側で、少しずつ居場所を失っていったのだ。そんな一人がやっと手に入れた「恋」というもの。一人は雅貴の隣で、初めての感情に戸惑いながらも、前向きに生きるようになっていく。

 大輝と沢斗の関係は、上記の2人と比べると非常に複雑だ。いつも軽薄な大輝に対して、沢斗はやたらと冷たく接する。そして時には、「大輝を返せ」と詰め寄る始末。いったいどういうことなのか。

 この2人は、もともと想いを通わせ合った関係にあった。大輝は、ツンデレ気質のある沢斗のもとに通い詰め、なんとか口説き落としたのだ。町民からの重圧に押しつぶされそうだった沢斗は、ありのままの自分を見てくれる大輝を愛していた。ところが、ある事件が2人を引き裂く。それは、嵐の夜に起きた土砂崩れ。窯から陶芸作品を運び出そうとして、土砂に呑まれてしまった大輝が目を覚ましたとき、彼は直近の記憶を失っていた。そう、沢斗を口説き落とし、恋人同士になった記憶を。以来、沢斗は、大輝を大輝として受け入れられなくなってしまう…。

 そして、最も先が読めないのが、曜明と火弦の2人。

 どん底にいた自分を拾ってくれた曜明に対し、思慕の念を抱く火弦。しかし、曜明はこう言い放つ。「お前がオカマでもホモでもなんでもいい。けれど、俺にはそんな気はない」。火弦は、決して叶わない想いを抱えながら、それでも曜明の側にいることを選択する。

 そして、そんな火弦のもとに曜明の仲間が訪れ、ある人物の殺害を依頼する。それを実行すれば、もう二度と曜明には会えない。だから、最後のお願いを聞いてほしい――。

 ここから物語はさらに絡み合い、急展開を見せる。果たして、三組のカップルの恋の行方はどうなるのか。その先には、いったいどんな風景が見えるのか。恋というものに翻弄される男たちの姿は、きっと読み手をもその渦に巻き込んでいくだろう。

文=前田レゴ