「次のスティーブ・ジョブズ」はこの男! 人類の火星移住を夢見る起業家・イーロン・マスクの半生とは?

更新日:2017/5/8

『イーロン・マスク 未来を創る男』(アシュリー・バンス:著、斎藤栄一郎:訳/講談社)

 スティーブ・ジョブズ亡き今、「次に世界を変える起業家は誰か」といったら、多くの人がこの人物の名を挙げるだろう。イーロン・マスク。オンライン決済システムのPayPal、電気自動車事業のテスラ・モーターズ、宇宙事業のスペースX、太陽光エネルギー事業のソーラーシティなど、数多くの世界的な企業の創業に関わった1971年生まれの起業家だ。

『イーロン・マスク 未来を創る男』(アシュリー・バンス:著、斎藤栄一郎:訳/講談社)は、イーロン・マスクの半生をつづった彼の初の公式伝記。グロービス経営大学院と書籍要約サービス・flierによる「ビジネス書グランプリ2016」にも選ばれたこの作品は、起業を目指すものばかりでなく、日々仕事に邁進するすべての人の心を打つに違いない。「人類を火星に移住させる」。そんな大それた夢を実現させようとする革命児は、リスクヘッジをとることなく、前へ前へと突き進んでいく。そんなマスクの姿は、時に冷酷にもみえるが、あまりにも勇ましい。

「私はサムライの心を持っています。失敗で終わるくらいなら切腹します」

 彼の半生を知れば知る程、彼の生き様、その仕事にかける情熱に惹き付けられてしまう。

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 イーロン・マスクの業績が世界的に注目されるようになったのは、2012年初めのこと。スペースXでは自社開発の国際宇宙ステーションへの物資補給用の宇宙船が無事任務を完了し、地球へと帰還。一方、テスラ・モーターズでは、セダンタイプの電気自動車「モデルS」を発売。宇宙産業、自動車産業、エネルギー産業が何十年もかけてもなかなか実現できなかった大きな成果を、マスクはあっという間に実現してしまった。

 しかし、彼のここまでの道のりは波瀾万丈だった。南アフリカで生まれ、学校で受けていた酷いいじめ。高圧的な父親の態度。マスクは17歳になると、南アフリカの徴兵制度から逃れるために、父親の反対を押し切り、アメリカに渡る。1995年初めて起業したZip2は大当たり。1999年には会社を売却し、2200万ドルを手にするも、それをほぼ全額次の起業につぎ込み、それが後のPayPalとなった。しかし、PayPalでは、マスクがハネムーンに飛び立った瞬間にクーデターが勃発し、急いで帰国した時には既に違う人物がCEOに就任していた。その後、PayPalは2002年にeBayに15億ドルで売却され、筆頭株主のマスクはとんでもない資産を手にする。だが、彼はシリコンバレーにこもることはせずに、すぐにロサンゼルスに向かった。大金を得たならば、「まずは落ち着き、次のチャンスを待つ」というのが、一般的な常識だが、彼にはそんな常識は通用しない。スペースXに1億ドル、テスラに7000万ドル、太陽光発電のソーラーシティに3000万ドル。超リスク思考のベンチャーキャピタルを1人で展開し、ロサンゼルスとシリコンバレーという世界でも屈指の高リスク・高コスト地帯で、一か八かの賭けに出たのだ。リーマンショックの起きた2008年にはスペースXの3回連続打ち上げ失敗などで財政面で危機的状況に追い込まれる。しかし、2012年にはすべてを乗り越え、あらゆる産業を震撼させるほどの大きな成果を成し遂げ、今後の活躍がますます期待されているのだ。

「僕のこと、まともな人間には見えないだろ?」

 世間話に付き合いたくないために、会食中でも突然なんの断りなしに席を立ち、店の外に出て星空を見上げたり、辛辣な言葉で社員を叱責し、長年彼を支えた秘書を平気でクビにしたり…。そんな冷酷な一面を持つイーロン・マスクには批判も多いが、彼の会社は彼なくしてはここまでの業績はあげられなかっただろう。

 彼の半生を知れば知る程、彼が作り上げる未来が楽しみでしかたがなくなる。そして、自分自身も、マスクのように、もっと仕事に情熱を燃やせそうな、そんな気持ちになる。好奇心を刺激するエキサイティングな一冊をぜひあなたも手にしてみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ