捨てられた犬と人との奇跡。テレビでも紹介され、大反響! 耳が聞こえない人のお手伝いをする聴導犬の想い…

暮らし

更新日:2018/1/31

『聴導犬のなみだ 良きパートナーとの感動の物語』(野中圭一郎/プレジデント社)

「聴導犬」は、耳が聞こえない人の日常生活をサポートするお仕事犬だ。

 盲導犬に比べ知名度が低く、具体的にどんなことをするのか、その仕組みや活動内容など、まだまだ知られていないことも多い。

『聴導犬のなみだ 良きパートナーとの感動の物語』(野中圭一郎/プレジデント社)は、そんな聴導犬のことを、物語と共に学べる一冊である。

advertisement

 物語といっても、小説ではない。聴導犬に関わる人々へ著者がインタビューを行い、読み物にまとめたものである。聴導犬を育てる訓練士の想い、働き。聴覚障害を持つユーザーの生活、役割など、様々な立場から語られる聴導犬と人の絆に、じーんときて、聴導犬のひたむきな姿に勇気づけられるだろう。

 聴導犬は、基本的に捨てられた犬から選ばれる。保護センターから適性を見て連れて来られるのだ。向いているのは「人懐っこい性格」「人と常に一緒にいたがる犬」「物怖じしない性格」。

 聴導犬になるのは狭き門であり、その普及は簡単ではない。犬と訓練士とユーザー。三者の深い絆がなければ、聴導犬は活躍できない。

 ユーザーである東彩さんの聴導犬「あみのすけ」は、東さんが出産し、赤ちゃんが家庭に現れたことによって、東さんとの関係がぎくしゃくしてしまったこともあるという飼い主が大好きの犬だ。

 東さんの関心が赤ちゃんに向けられてしまったことや、慣れない環境も相まって、あみのすけは寂しさを抱えていたらしい。訓練士の仲介のおかげで、現在は関係も修復され、より仲が深まっているという。

 東さんは聴導犬の存在を多くの人に知ってほしいと、取材や講演、テレビ出演など精力的に活動をしている。

 そんな東さんとあみのすけの、私が一番好きなエピソードは、「鳥の鳴き声を教えてくれた」こと。

 一緒に散歩をしていると、あみのすけが空を見上げていたという。視界の先には木の上に止まっている一羽の鳥。微かに尻尾を震わせている。東さんは鳥が鳴いているのだと分かり、感動した。

 今まで「人」が教えてくれた音は、東さんが危険な目に遭わないよう、「危険を知らせる音」ばかり。けれど、あみのすけは、この世界に溢れているたくさんのステキな音を教えてくれたのだ。「世界が広がりました」と東さんは語る。

 ちなみに、私の聴導犬のイメージは、本書を読むまで「堅い」だった。

 街中で聴導犬とユーザーの姿を見かける限りでは、失礼ながら「ものすごくしっかりした犬と、それに従っている人」という印象。そこに愛や絆というものはなく、ビジネスライクな関係が強いのだと思っていたのだ。

 けれど、聴導犬は嫌々人間に従っているわけではなく、自分の仕事にプライドを持ち、「愛する人が困っているから、喜ぶことをしてあげたい」という気持ちだという。犬は飼い主に深い愛情を示してくれる生き物だ。聴導犬と愛玩犬の違いは、訓練によって他の犬ができない「愛情の示し方」ができるということだけなのかもしれない。

 またユーザーも、受け身でいるわけではなく、パートナーとして聴導犬と信頼関係を築いていかなければならないという。

 本書は聴導犬への理解を深め、聴導犬にまつわるエピソードをほっこりしながら読める一冊だ。大人はもちろん、中学生くらいからなら子どもでも読めると思うので、ぜひ手に取ってほしい。聴導犬に興味を持つ方が一人でも増えてくれたら、嬉しい。

文=雨野裾