「母に愛されたかった」「母の愛が重かった」離れられない2組の歪んだ母娘物語

文芸・カルチャー

2018/6/2

『啼かない鳥は空に溺れる』(唯川恵/幻冬舎)

「毒親問題」の中でも、近年特に取り上げられることが多いのが「母娘」の問題だ。女同士の密接な関係。それはときに、健全な「愛情」の域を超えたこじれた関係性をも生んでしまう。

『啼かない鳥は空に溺れる』(唯川恵/幻冬舎)は、歪んだ母娘関係を真正面から切り抜いた小説だ。本書には主人公の女性、いや、「娘」が2人登場する。愛人の援助を受けセレブ気取りの生活を送る32歳の千遥。彼女は幼いころから母の精神的虐待に痛めつけられてきた。一方、中学生のときに父親を亡くした27歳の亜沙子は、母の愛を受けながら、2人で助け合いながら暮らしてきた。しかし彼女は母の愛に疑問を感じ始める。

■母の精神的虐待を受ける娘は、散財中毒

 母から愛されなかった千遥は、親元を離れてもなお母の呪縛に苦しめられる。個人的に印象深かったのは、彼女の散財癖について語られるシーンだ。

 母からの電話で罵声を浴びせられた後、衝動的にシャネルのバッグを買ったことで覚えた恍惚感。その日から膨らみ始めた彼女の欲望には際限がなくなり、千遥は仕事とは別にファッションヘルスでも働くようになる。そこで出会った男の愛人となり、援助を受けながらセレブ気取りの生活を送っている。

■母から束縛される娘は、籠の中の鳥

 亜沙子と彼女の母との関係は、何も知らない人の目には「仲良し親子」や「理想的な母娘」のように映る。彼女が中学生のときに父親が亡くなって以来、母娘ふたりで支え合いながら苦難を乗り越えてきた。しかし、大人になった娘を母が手放せない。

 亜沙子は母の心の支え。もっと言えば、母の生きる意味すべて。亜沙子は仕事やプライベート、恋愛よりも母を優先して生活する。そうしなければ母が精神を病むためである。その関係性は明らかに依存と束縛だ。

■2人の娘は「結婚」で幸せを掴めるのか

「結婚」はこの物語のキーワードだ。千遥は年下の恋人と、亜沙子は母の勧めるおとなしい男と、一度は結婚を決める。結婚によって無事に母親から解放されるハッピーエンドを期待したいところだが、そうはいかない。むしろ、結婚を巡ってそれぞれの歪んだ母娘関係がさらに暴走していく。そんなクライマックスが本書の見どころだ。

 暴走する母。こじれが増していく母娘関係。その原因を探るには、さらには解決を試みるには、精神医学や心理学の研究結果に頼る他にも、小説はかなり重要だと感じる。親子関係の問題はある日突然発生するものではなく、その裏には必ず何かしらの「物語」が存在するはずだ。その「物語」をストレートに炙り出した本書は、似た悩みを抱える多くの人に寄り添うものとなるであろう。

文=K(稲)