その姿はまるで淫女。色情のままに行動する奔放な母親に苦しめられる娘の運命は?

文芸・カルチャー

2018/6/17

『香華(こうげ)(新潮文庫)』(有吉佐和子/新潮社)

「こじれた母娘関係」という括りの中にも、実にさまざまなこじれた関係性が存在する。そのうちのひとつに、「自分勝手な行動や思考で娘を困らせる母親」というものがある。自己中心的で短絡的な母親を、娘のほうが親であるかのように世話をしたり制御したりと、その様子を見ていると、何だかやるせない気持ちが押し寄せて胸が苦しくなる。

 古今東西を問わず「自分勝手すぎる親」を題材にした物語は割合多く存在するが、『香華(こうげ)(新潮文庫)』(有吉佐和子/新潮社)に登場する母親は、その奔放さがとりわけ際立っている。

 この物語の初版は1962年(中央公論社)。戦後の長期間にわたり、母親との関係に悩む多くの女性に支持されてきた不朽の名作だ。物語の背景となる時代は明治末から戦後までの40年間だが、内容に関しては、「今も昔も変わらない母娘問題である」としばしば語られ、多くの読者を魅了し続ける。

 本書は主人公の朋子が6歳の頃、40を過ぎて夫を失ったばかりの祖母つな、23歳のその娘、つまり朋子の母の郁代と3人で和歌山に暮らしている時期から始まる。母親の郁代はその奔放さで知られていた。

 周囲の反対を押し切り再婚し、その後も男性遍歴を重ねていく母親の奔放ぶりは、まるで淫女のよう。家事にも疎いそんな母だが、その美貌と、綺麗な着物だけは常に輝いていた。

 種違いの妹ができ、朋子に対する母の態度はさらに厳しいものになる。母性のかけらもない母に悩まされ、憎みながらも、寛大に母を許し、母を支え続ける健気な朋子。母のせいで悲惨な幼少期を過ごし、男運の悪い生涯を送り、さらには落ちぶれた母の面倒を見てやることにもなる。

 想像を絶するような朋子の不遇ぶりに、途中何度もページをめくるのが辛くなった。どうしようもなく最悪な母親だが、それでも切っても切れない縁から逃げずに強く生き抜く朋子の姿に勇気づけられる。母に振り回される娘をとても力強く描いた本書。同じような状況にある数多の女性を勇気づけてきたというのも確かに頷ける。

文=K(稲)