一晩あけると、村が“地獄”に変貌していた――。黄泉の世界からの脱出劇を描いたサバイバルホラー『蛍火の灯る頃に』

マンガ

更新日:2018/11/5

『蛍火の灯る頃に』(竜騎士07:原作、小池ノクト:作画/双葉社)

『うみねこのなく頃に』や『ひぐらしのなく頃に』などで知られる、作家・竜騎士07さん。これらの作品は「ミステリー」と称されるが(とはいえ、一般的なミステリーの枠では捉えきれない)、そんな竜騎士07が、本格的ホラーとして原作を担当したのが『蛍火の灯る頃に』(竜騎士07:原作、小池ノクト:作画/双葉社)である。

 舞台となるのは、過疎化が進む田舎の寒村・平坂村。祖母の葬式を機に帰省した主人公たちが、得体の知れない怪現象に巻き込まれ、そこからの脱出を試みる様子が描かれている。

 幻想的な蛍火が舞う夜、突然消えてしまった祖母の遺体。それを捜索する一同が気づいた、村の異変。ふたつの太陽が昇り、村人たちが姿を消す。村は白い霧に囲まれてしまい、そこから脱出することができない。そして、夜になると村中を“鬼”が徘徊する。その様子は、まるで地獄――。

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 ホラー好きであればピンとくるだろう。主人公たちが滞在する平坂村は、日本神話でいう「黄泉比良坂」を語源としている。この黄泉比良坂とは、生者の住む現世と死者の住む黄泉との境目にあるとされている坂の名称だ。つまり、平坂村は、現世と黄泉の世界とが入り混じった空間になってしまっているのである。

 物語を追うごとに、登場人物たちはひとり、またひとりと鬼に襲われ、命を落とす。備蓄されている食料で飢えをしのぎながら、そんな危機的状況をなんとか脱しようとする主人公たち。その描写は、サバイバルホラー的な側面も持っており、読む者をハラハラさせてやまない。

 そんな地獄から、見事現世へと帰ることができる人物はいるのか。ちなみに、神話では「黄泉の世界の食べ物を口にすると、その世界の住人となってしまう」といわれている。では、村の食料を食べて生き延びている主人公たちは……? そんな神話の知識をインプットしながら読むと、本作の奥深さがより一層際立つだろう。

文=五十嵐 大