【湊かなえ×櫻井孝宏×早見沙織インタビュー】著者初のAudibleオーディオファースト小説『暁星』発表!豪華タッグによる制作の舞台裏を聞いた
公開日:2025/11/14
「声優は二次元、朗読は異次元」
櫻井:声優の仕事とは、また全然、ちがう難しさがありましたね。
早見:小説を読むときには、それぞれ、脳内で響かせる音が異なると思います。固定したイメージをもつキャラクターとは違い、余白を残すような朗読をしたいな、と意識していました。
湊:収録の見学に行かせていただいたとき、櫻井さんが「声優は二次元、朗読は異次元」というお話をされていたのが印象的でした。
櫻井:二次元と三次元、そして2.5次元とさまざまなメディアがありますが、朗読はそのどれとも異なる気がするんですよね。読む人によって色も手触りも何もかも違うものになる。もちろん、キャラクターだって演じる人によって印象は多少異なるけれど、それ以上に、連れていかれる次元が異なってしまうというか。
早見:一つの次元に限定したくない、という想いもありますよね。いろいろな次元に繋がる入り口を残しておけるような朗読をしたい。それが、先ほど言った「余白」ということでもあるのですが。
湊:Audibleの聴き方はさまざまだと思いますが、この作品に関してはぜひ、ヘッドホンでお二人の声に包まれるようにして体感していただきたいです。そのほうがきっと、物語がみなさんの頭のなかで、自分だけのものとして広がってくれるのではないかなあと。
櫻井:そういっていただけると、嬉しいです。この作品に触れたら、誰もがこれまでと違う自分に向かって足を踏み出さずにはいられないと思うんです。それが一歩なのか半歩なのか、それとも一足飛びなのか、歩幅は人によって違うでしょうけれど、傷つかないために五感を閉ざし、真実をわかったような気になっていたころには決して戻らない。戻りたくないと思える自分に対する希望と、そして、誰かにわかったような顔をされて傷ついてきた自分に対する救いが詰まっているから。一人でも多くの人に届いて、すくわれてほしいなあと思います。

早見:フィクションはただの創作ではなく、誰かの人生や感情の一部が掬いとられ、ちりばめられている。表現するということの凄みもまた、「金星」パートの文章からはびりびりとした迫力で伝わってきました。勝手な印象になりますが、きっと湊先生も、覚悟を抱いて執筆していらっしゃるのだろうな、と感じたんです。自分とはまるで違うように見える誰かのことも、無関係と切り捨てるのではなく、想いを馳せ、世界を広げ、いろいろな景色に触れていくことが、ひいては私たちのことも救ってくれるのだろうなと思える作品に出会え、こうして朗読できたことを、とても幸せに想います。
湊:私はふだん、書き終えた文章は自分の声で朗読しながら整えていくのですが、今はもう、お二人の声に上書きされて、Audibleを流していなくても読みながらお二人の声で再現されていきます。こんな幸せな経験をさせていただき、本当にありがとうございました。ぜひ、多くの人に聴いていただきたいですね。
取材・文=立花もも、撮影=干川修
