歌謡曲が聴こえる (新潮新書 596)
歌謡曲が聴こえる (新潮新書 596) / 感想・レビュー
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
「この歌を受けとめ、受けとめたものを自分の内部に受容するために、それまで存在しなかった異空間が体内に生まれた」。サーフィンやオートバイ、ハワイなどアメリカのライフスタイルを紹介した片岡義男氏がスタイリッシュに振り返った曲は、こまどり姉妹の『ソーラン渡り鳥』。曲名を知らずレコード店で♪ヤーレン ソーラン ソーラン♪と歌って7インチシングルを手に入れたという。この他にも『リンゴの唄』『有楽町で逢いましょう』など昭和歌謡への憧憬を熱く語っている。『スローなブギにしてくれ』の原風景は意外なところにあったのだなあ。
2015/06/03
あすなろ
片岡義男氏がご自身の過去と共に語る戦後の歌謡曲。なお、ここまでご自身の過去に触れられたのを読むのは、ファンとして初めての記憶。まずは、氏がここまでかっての歌謡曲好きであったことに驚きである。でも考えてみれば、乱読のようにかって読んだ氏の作品達には、演歌や演歌歌手も氏の独特のドライ感と共に出てきたのである。そうした氏の歌謡曲への想いと曲や歌手への想い。田端義夫とギターや美空ひばり等。独特で万人受けする書とは思わぬが、片岡節と亡父が好きでTVで幾度も観たことがある田端義夫への筆致をひととき愉しませて頂いた。
2020/06/13
へくとぱすかる
小説作品は読んだことがなく、タイトルから想像していただけだったが、いわゆる歌謡曲と片岡義男の小説は、かなりちがう世界だと思い込んでいた。著者は1962年から、楽譜を丹念に読みつつ、気になった曲の7インチ盤を買い、消化するように聴いた。この本はそんな片岡義男の私的音楽体験を綴ったエッセイ。歌謡曲世界を紹介する新書は最近いくつも出ているが、著者が自身の心の遍歴にくいこむ内容であるのは貴重。私的でありながら、しかしそれゆえに、同時代の空気そのものを感じさせる。エッセイの形をした私小説と呼ぶべきかもしれない。
2017/05/18
ホークス
氏のエッセイは本人と相対している気分になる。無頼で真面目、優しくてクール。日本的な同調ムードをあっさり一蹴する。1964年のオリンピックを境に日本は別物になり、歌謡曲も様変わりするが、本書はその本来の姿を追う。 終戦時6歳だった著者は改めて作品と資料に当たり、歌手と聴衆の辿った道を確認する。想いを解明するには、時代が何を人々に強いたのか、何故歌が共有されたのかも重要だ。ディテールへの強い拘り、クールで抑制された口調が効いている。真に過酷な時代が再来した時、信頼できるのは著者の様な態度ではないかと思う。
2017/09/24
スパイク
はっきり言って面白い本ではない。片岡義男さんを知らない人が読んだら、おじいちゃんが昔の昭和歌謡の蘊蓄を語りながら懐かしがってるくらいにしか思わないだろう。私にしても四半世紀前の時代の歌なんでほとんど共感はできなかった。でも、この、おじいちゃんこそが私をバイクの世界に誘い、彼をサーフィンに夢中にさせ、彼女をハワイに行かせた張本人なんです。ムスタングやカマロだけがアメ車なんではなく、オールズモビルやステーションワゴンこそがアメリカなんだと私たちの耳に吹き込んだんです。…って懐かしがってるのは、私のほうですね。
2015/02/05
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