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飛行士と東京の雨の森

飛行士と東京の雨の森

飛行士と東京の雨の森

作家
西崎憲
出版社
筑摩書房
発売日
2012-09-10
ISBN
9784480804402
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飛行士と東京の雨の森 / 感想・レビュー

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ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中

さみしくて音のないような、かなしくて透明のようなものをみていた。しろくてあおくて、すこしくらい。さみしくてかなしいものは、どうして同時に、どこか安心もするのだろう。ずっとそのくらい部屋でうずくまっているのは、寒いようであたたかいようで。ステンドグラス、オルゴールのかけら。過ぎ去ってもうここにはない思い出だけのものたち。夜中、首都高で通り過ぎていく無数のヘッドライト。生涯交わることのない人びとの流れ。打ち捨てられた廃屋、錆びついたトタン。置き去りになったものたちに思いをはせて、とどまっていたい部屋の片隅。

2020/06/22

新地学@児童書病発動中

幻想と現実の境目を描くような短編が多くて、私の好みだった。エンターテイメントと言うより文学色が強い。「淋しい場所」の読んでいると、地面から足が離れて、向こう側の世界へ行ってしまうような気持になった。この危うい浮遊感が好きだ。「紐」は危うく向こう側の世界へ行きかけて、こちらへ帰ってきた男性の話。この物語でも、こちら側と向こう側の微妙な均衡が鮮やかに描かれている。結末が明るいので救いを感じた。語り口も巧くて短編のお手本のような物語だと思う。

2016/01/03

(C17H26O4)

さみしい。例えば渋谷だとしたら。スクランブル交差点の雑踏の真ん中で、一切の音が急に消えてしまったかのような。ビルのモニターの鮮やかな広告も色を失ってしまったかのような。自分1人だけが立ちつくしているかのような。感情の波も消えて。ただ残ったのがさみしさ。そんな印象。

2019/06/02

アマニョッキ

これはとてもチャーミングな小説。絵画を見ているようで、音楽を聴いているようで、数式を解いているようで、自然に還っていくようで。整頓されているようで散漫で、理知的なようで情動的。自分と自分の周りの境界線が溶けていくような不思議な感覚。読書というより瞑想に近いかも。「都市と郊外」冒頭4行につまった世界の深さよ。まるでヴェンダース映画のようではないか。言葉と感覚に愛されている人にしか作れない立体的小説。好き。

2019/05/13

キキハル

「街は桜の色で汚れていた」「死の善用」など、ドキリとする言葉のセンスに唸らされる。より低体温になり哲学度を深めた文章は、熱い感情を排し淡々と流れる。日常を描いても、そこに日常の匂いはしない。作者はただ俯瞰しているだけ。そんな印象が強いこの短編集の中で、10頁にも満たない「紐」が心に残った。虚空の闇からぶら下がっている紐が、幼い私の頭上で揺れている様をありありと想像してしまった。ちょっと作者に毒されたのかもしれない。世界はこわいものではない、ことを音楽で表現する方法には意外性を感じた。どれも不思議な一冊だ。

2013/04/18

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