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その昔、N市では

その昔、N市では

その昔、N市では

作家
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ
酒寄進一
出版社
東京創元社
発売日
2022-09-30
ISBN
9784488011178
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その昔、N市では / 感想・レビュー

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ちょろこ

不安感がたまらない一冊。15編が織りなす幻想物語。すごく好み、ハマる世界観だった。スタートの「白熊」から、何が起きているのか、夢なのか、暗闇の中のとてつもない不安感がまとわりつくのがたまらない。しかも日常のひとコマを描いているから余計にざわざわとさせられた。どれも粒ぞろいだけれど「船の話」「幽霊」「いいですよ、私の天使」が印象的。読み進めるほど増していく不安感と恐怖感が絶妙だったと思う。こういう終始曖昧な地に足が着いていないような時間、そこにぱらりと怖さひと匙加わるような世界観が改めて好きと実感した。

2023/03/21

ケンイチミズバ

二人とも土地感があり、列車は森のカーブ手前で速度を落とすことを知っていた。しかし、飛び降りたのは妹だけ。姉はそのままアウシュビッツへ。戻ったのは義理の妹だけだったことの落胆、なぜ妻でなく妹なのか。義兄の心の中を思いながらかくまわれ暮らすことに生きている意味を見失う。降りられない船、自分から見えるのに相手には見えない、出したはずの声が相手には聞こえていない。その逆、声だけが戻ってきた夫。いずれも死んだ人、もう戻らない人のことを表現するもの。ゴーリーの挿絵がピッタリな世界観。奇譚の数々。ちょっと怖くて悲しい。

2023/05/08

がらくたどん

初めてのカシュニッツ。「初読み」というより「初体験」が似合う読み心地。不安と不条理が手を取り合って自分の周りを輪を狭めたり広げたりしながら楽し気に回り続けるそんな物語群が15作。もちろんあり得そうにない出来事ばかり。でも読むほどに物語は読者が自分の中で眠っている「あり得る」心理に気づいてしまうように計算されている。幻想への期待と畏れ・逃亡への願望・破滅への恍惚、増幅されてないから目立たないけど確かに全部ある。白熊・巨大鳥・灰色ゾンビと超常群が妙にカワイイので読みながらフォフォフォと変な声で笑ってしまった♪

2023/02/24

aquamarine

短編が15編。SFなのかファンタジーなのか、奇妙な味というべきか、あるいはホラーなのか。どれも最後に絶妙な不安定さを残すのだが、その不安定さがたまらない。まるで魅入られたかのようにじっくり一編ずつ堪能した。日常だと思っていたものがそっと非日常に侵食されていく様は、人間の心理の奥を暴き出した結果なのか。特に印象深いのはありそうな心理戦「長距離電話」、目的地の違う舟に乗せてしまった妹から届く手紙「船の話」、夢か現か「四月」。そして表題作はかなり前の作品なのに、とその描写と結末に驚愕。とにかく雰囲気が好き。

2023/07/12

HANA

短編集、話の長さは短めだが、そこに満ちる緊迫感は只事ではない。平凡な日常のはずがそこに何かが忍び寄る事によって、そこは一気に奈落へと化していく。どの話も完成度は極めて高いのだが、個人的なお気に入りは「精霊トゥンシュ」。何という事は無いまじないのはずだったのが、ある一行を境に物語は一気に不穏な相を表していくのはもう最高。他にもある出来事がどこまでも疵を残す「六月半ばの真昼どき」の有様や、間違えて予定とは違う船に乗せてしまった妹から届く手紙の変容が怖い「船の話」等どれも一気に読ませさせられるものばかりでした。

2023/10/04

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