蔭桔梗 (創元推理文庫)
蔭桔梗 (創元推理文庫) / 感想・レビュー
さつき
紋章上絵師や浸抜屋など着物にまつわる仕事に就く男達をめぐる連作ミステリ短編集。着物や家紋に関して全く無知なので、へーっと思うことばかり。展開はいかにも昭和でノスタルジーを感じました。面白かったです。
2023/10/09
geshi
新保さんの解説通り直木賞受賞作品と思ってミステリ性の薄さをj不安視していたらとんでもない、紋章上絵師の仕事とミステリの技巧がひとつになった円熟の作品。『絹針』気付かぬ間になくしていた恋に改めて気づくのを隠れた針と重ね合わせる筆の妙。『蔭桔梗』過去の話の中に巧みに伏線を入れるミステリの技が恋愛小説としてのレベルを上げている。『竜田川』着物を通して知り合い愛し合った男女の話がラスト2頁でミステリへ変容する泡坂マジック。『色揚げ』職人の時代の終わりを予感しながらも過去の謎が解かれることで今が鮮やかになる。
2023/08/18
空猫
【第103回直木賞】ミステリが有名な作家さん。こんな男女の話も上手いとは。官能的という程でないが艶っぽさがある、人間ドラマが主の「大人の恋物語」。主人公は紋章上絵師、染師、彫り師…など職人それも呉服関連ばかりなので馴染みのない言葉が多い。7-80年代で既にフォーマルな場でも着物を着る人は激減していたのだね。もう戦後ではなくなり、時代の流れと業界の衰退と…供に変わっていく人間模様…。ホラーっぽい「遺影」や「十一月五日」「校舎惜別」などがお気に入り。
2023/11/27
森オサム
【800冊目】生誕90年記念出版第3弾。第103回直木賞受賞作。今回のキリ番は泡坂作品。良く出来たミステリーで有りつつ、重心はやや恋愛小説に寄った短編集でした。主人公が着物に関連した職人の物が多く、本作の大きな特徴として独特の世界観を作っています。その中で描かれる大人同士の落ち着いた恋愛話となっていて、味わいが有り余韻が残る作品集だったと思います。本作が書かれたのはバブル時代へ向かう途中で有る80年代後半。古き良き昭和時代の最後を感じられるのも、感慨深かった。
2024/03/03
鈴木拓
いまを生きる人間が「古き良き時代」と云うのは、この時代のことかもしれないなと感じる。戦後から昭和の中盤過ぎまでの日本、人の繋がりがまだまだ感じられた時代なのだろう。私はこの時代に生きていたわけではないが、読んでいるうちに行間に吸い込まれ、まるでそこにいたかのような臨場感を感じた。コロナ禍がはじまってから、人と人の繋がりがますます希薄になっていると感じるが、結局人間は社会の中でしか生きられないと、今まで以上に感じている。現実よりも本の中にリアルな人間関係を感じてしまうのが、またちょっと切なく哀しい。
2023/10/20
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