片隅の迷路 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M か 6-1)
片隅の迷路 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M か 6-1) / 感想・レビュー
パチーノ
ハードカバー新装版にて読了。1953年に起こった『徳島ラジオ商殺し事件』について書かれた本。いかにも先日亡くなった佐木隆三が書きそうな作品である。今作では事件の結末までは描かれていない。冤罪の恐ろしさを知る上では好著である。いつ自分自身が巻き込まれるかわからないと思うとゾッとする。
2015/11/23
Ikuto Nagura
内容は、ほぼ事実に則している。本作は再審の扉の前で終わるが、その後の再審無罪までの顛末は、この小説に出てくる浜田流二のモデルである渡辺倍夫氏の著作『徳島ラジオ商殺し事件』に詳しい。だが、開高健という著名な作家による本作の意義は大きい。検察の横暴や裁判の茶番を皮肉たっぷりに批判するとともに、私たちの野次馬・百姓根性、日和見主義を痛罵する本作が、事件への全国的支援の広がりに多大な影響を与えたからだ。それにしても渡辺氏の著作は絶版だし、本書も創元推理文庫というマイナーレーベル。現代の冤罪への関心の低さが悲しい。
2015/01/10
なめこ
フィクションにしろノンフィクションにしろ、本当に冤罪というのはやりきれない。対検察や警察に限らず日常的にある、頭ごなしに決めつけて話を聞いてくれない人との遭遇を思い出して、読んでいて苦しくなる。「とりわけ名弁護というものをお読みになるとよい。へたくそな、漢文調と新派悲劇のまじった……」。これがエンターテイメントであれば、最終的に無罪を勝ち取って洋子がニタリと笑うエンドだろうけど、そこは社会派純文学。
2014/11/11
jahmatsu
実際にあった事件がモチーフとの事だが、いい緊張感とともにえん罪の恐ろしさがリアルに登場人物の心理描写がよく描かれいる。さすが開高!
2016/09/12
オサム
徳島ラジオ商殺し事件は、私も大学の刑法の講義で学んだので覚えている(再審開始決定より以前)。開高氏の小説からは生命礼讃のエネルギーを感じることが多いのだが、この作品は違う。松本清張を思い起こすような文体で、静かに、抑えた怒りが痛いほどに伝わる。冤罪そのものは、卑弥呼の時代から数限りなくあっただろう。それを生んでしまう人間の醜いエゴイズム、生命力のすぐ隣にあるものだが、それがやりきれなく、悲しい。
2020/09/30
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