漫画家が担当編集者を「選べない」時代から「逆指名できる」時代へ…漫画家と編集者の関係について【編集長コラム第7回】

マンガ

公開日:2018/6/6

 ダ・ヴィンチニュースは、雑誌読者のことを一番よく知っている各雑誌の「編集長コラム」企画をスタートしました! 今回ご登場いただくのは「BE・LOVE」の岩間編集長です。

 こんにちは。当コラムも7回目となりました。映画「ちはやふる-結び-」は、ほとんどの映画館で上映が終わりました。「上の句」を超える数のお客様が「結び」を観てくださったこと、本当に感謝しています。こうした漫画の映画化やドラマ化に接するといつも驚くのが、“チーム”の意思統一、です。スタッフが大勢いれば、同じ方向を向くのは大変なはずなのに、大局からディテールまで、皆の思いにブレがなく作っている……協調性のない私からすれば「すごい」の一言です。

 一方、漫画はといえば、必要最少人数で作っているエンタメです。もちろん、アシスタントさんをはじめ、製作に携わっている方はたくさんいらっしゃいますが、極論すれば漫画家さんひとりで描けるものであり、そこに伴走役として編集者が寄り添う、という程度でできあがってしまいます。大勢と最少人数、どちらがやりやすいのか…それは人によりけりですが、今回はこの「漫画家と編集者」にスポットを当ててみたいと思います。

 皆さんは、漫画家さんの担当編集者がどう決まるか、ご存知ですか? ケースはいろいろですが、一般的なものでいえば、(1)持ち込みの電話を受ける(2)出張編集部などで持ち込みを受ける(3)自身の好きな漫画家さんに会いに行く(4)前任者の引き継ぎ、という形で、担当になります。

「BE・LOVE」編集部で2010年から始めた「ITAN」では、誌名が決まる前から積極的に出張編集部に参加していました。ヒット中の『能面女子の花子さん』の作者・織田涼先生も、出張編集部への持ち込みがデビューのきっかけでした。

 これを書いていて、私は入社して7~8年目にあった新人賞の授賞式を思い出しました。その式で、受賞者の先輩であるプロの漫画家さんがスピーチをしたのですが、その中でこうおっしゃったのです。「自分の作品が好きでない担当編集者がつくほど、不幸なことはない」と。先に挙げた担当の決定プロセスでいえば、(4)がこの「不幸」を生み出す可能性が一番高いかもしれません。社内の人事異動などで、やむを得ず作品の好き嫌い関係なく後任を決めることは、ないとは言えません。とはいえ、後任がその漫画家さんの作品をどんどん好きになる可能性もありますので、一概に不幸とは言い切れません。ただひとつ言えることは、「漫画家さんが担当編集者を選べない」という時代だった、ということです

 あれから20年近くたった今、講談社には素晴らしいシステムが登場しました。投稿する描き手さんが、その作品に興味のある編集者を選べるという逆指名システム「DAYS NEO」です。

 2月に立ち上がったアプリ&WEB「コミックDAYS」に紐づいた「DAYS NEO」は、今年3月にオープン。漫画原稿をWEBに投稿すると、講談社のコミック9誌130名の編集者の目に触れることになります。そして気になる作品に、編集者がコメントをつけ、担当希望をアピール。それを見たうえで、投稿者の方が担当を選ぶという、前述の「不幸」を生まない、マッチングシステムです。この「DAYS NEO」では、編集者のコメントから、漫画の好み、熱量、そして志の高さなどが、透けるように見えるので、ある意味本気と本気がぶつかりあう場所とも言えるでしょう。

 このシステムで、わが「BE・LOVE」は将来性のある才能と出会い、早くもシリーズ連載を叶えました。二階堂幸さんの『群れる青のPenna』です。

(C)二階堂 幸/講談社 BE・LOVE

「モノを作っている側の人間を描きたい」という思いが込められた『群れる青のPenna』
(C)二階堂 幸/講談社 BE・LOVE

 二階堂さんは、すでに他誌での掲載もコミックスの刊行も経験済み、ある意味実績のある新鋭です。クオリティの高い、独特の“色気”を感じる絵。そしてキレのあるセリフ回し。漫画家×編集者、相思相愛のコンビで、誌面を席巻できるか。読者の皆さんの反響が楽しみな作品がまたひとつ「BE・LOVE」から生まれましたので、ぜひご一読ください。

 こうしたチャレンジは、もしかしたら既存の新人賞の枠組みを壊すことになるかもしれません。また投稿や持ち込みのあり方も変えるかもしれません。

二階堂幸さんが、「DAYS NEO」に投稿してから掲載に至るまでを、赤裸々に語るインタビュー、ご覧ください!

 コミック各誌、雑誌が厳しいと言われる中、才能の獲得競争はますます激しくなっています。一方で、掲載まではこぎつけても、その後が続かないというケースも(自戒をこめて)多々見られます。その原因として、編集部側の「新しい才能を育成する」気概、もしくは具体的なシステムが欠けている、という点が挙げられます。この「DAYS NEO」が、才能を見つけるところで終わらず、その才能をさらに育て、漫画家さんとともに高みを目指せるようなきっかけになれば。という思いで、今日も「DAYS NEO」にアップされた作品を見ています。

 二階堂幸さんの『群れる青のPenna』をはじめ、話題作満載の「BE・LOVE」12号は、ただいま絶賛発売中です。紙版も電子版もありますので、皆さんのお好きなスタイルで楽しんでください。

映画「空飛ぶタイヤ」ご出演の長瀬智也さんとディーン・フジオカさんのイカした対談も掲載!

 さて、私事になってしまいますが、この6月でBE・LOVE編集部を離れることになりました。
 そのため、当コラムは今回を最終回とさせていただきます。これまで拙文にお付き合いありがとうございました。「BE・LOVE」はこれからますます盛りあがっていきますので、引き続きご注目をいただければと思います。

 では、最後になりますが、当コラムの決まりごと、オススメの本を一冊ご紹介いたします。
 ちょっと専門的な選書になってしまいますが、せっかくの「編集長コラム」ですので、私が編集者として大切にしている本を挙げてみたいと思います。

『調べる技術・書く技術』野村進:著(講談社現代新書)

 仕事に悩んだ時、特に何が正しくて何が間違っているか迷ってしまった時に、いつも読み返し初心に還る本です。『コリアン世界の旅』などで有名なノンフィクションライター・野村進さんが、テーマの選び方や取材方法などの基本から具体例をまとめています。著名なライターさんでも、テーマや取材対象者に真摯に、そして謙虚に向き合う様は、出版に限らずどの世界の人間関係にも必要なものだと感じます。すべての成果はこの姿勢から始まる、これを見失ってはいけないと、私はいつも手に届くところにこの新書を置いています。10年前の本ゆえ、入手しにくいかもしれませんが、機会があれば皆さんも捜してみてください。

 そういえば、映画「ちはやふる-結び-」の中で、周防名人が「仲間には勇気を、後進には希望を 相手には敬意を」と言っていたことを、思い出しますね…。何度聞いても素晴らしいセリフ!

 ということで、これにておしまいです。これからも皆さんの元気の源が漫画でありますように!!

岩間秀和(いわまひでかず)編集長
1993年講談社入社以来、BE・LOVEひと筋。2012年2月より編集長に。
そして、2018年6月よりモーニング編集部に異動。

▶『BE・LOVE』公式サイトはこちら

【連載バックナンバー】
第1回:『ちはやふる』に続け! 創刊37年『BE・LOVE』編集部が今求めている女性向けマンガは?
第2回:漫画編集者の仕事は“作品の伴走をする”こと――『BE・LOVE』編集長が語るその裏側
第3回:『たそがれたかこ』『傘寿まり子』…“高年齢ヒロイン”作品が好調のワケ
第4回:リアルな漫画誌編集長の一日。~BE・LOVEの場合~
第5回:『ちはやふる』映画公開! 初の原画展も開催!「BE・LOVE」編集長が考える漫画の世界での“つながり”
第5回:読者の心に響く「ドキュメントコミック」は編集者も育てる――その制作の裏側は…