ちょっと危険!? 原始的な温泉が気になる!『散歩の達人』編集長コラム

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公開日:2021/12/21

散歩の達人
『散歩の達人』1月号(交通新聞社)

 こんにちは。散歩の達人編集長の土屋です。

 年末年始、いかがお過ごしでしょうか。2021-2022年の首都圏の冬は、ラニーニャ現象? により平年よりも寒くなるという予想も出ています。そんなときに恋しくなるのが「温泉」。今号の大特集は「近場のいい温泉」です。遠出して旅館に泊まらなくても、思い立ったらすぐに行ける東京周辺の温泉を厳選(もちろん全て本物!)。山間、海辺、川沿いなどロケーションも様々。とろ~りとした黒湯、地下1500mから湧き上がるピリっとした茶褐色の湯、すべっすべになる美肌の湯……。日帰りで1000円以下から楽しめる、近場のいい温泉をずらりご紹介しています。

 特に近年は、東久留米の「スパジアムジャポン」(2019年開業)や2021年8月に開業した「湯河原惣湯」をはじめとして注目の温浴施設が次々に誕生。「スーパー銭湯戦国時代」ともいえる様相を呈しています。さらには空前のサウナブームも追い風に、老若男女が温浴施設を楽しめるよう、サウナや岩盤浴を充実させる温浴施設が増えるなど、温泉の楽しみ方自体も広がっています。本特集では、読者の皆さんがアクセスしやすい東京・神奈川・千葉・埼玉の一都三県から「いい温泉」を有識者・弊誌スタッフが厳選した10湯をはじめとして60ページ以上でご案内。ページを開いていただければ、特集トビラのP.8~9の首都圏地図に掲載温泉がずらり。まずはこのページである程度の目安をつけて、それぞれ温泉にお出かけください。

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23区内にもかかわらず、旅感も感じられる『さやの湯処』の露天風呂。奥のうぐいす色の湯船が源泉風呂だ。

 さて、特集内には「近場のいい温泉」についての企画が目白押しなのですが、スミマセン。このコラムでは、温泉ではあるものの、近場でも安全でもない(?)温泉についてご紹介します。というのも、つい最近読んで、今号の書評でも紹介した書籍『命知らずの湯』(三才ブックス)にとても心引かれてしまったのです。この本は全国の野湯60数湯を紹介した本(「野湯」とはその湯を商業利用していない、自噴する温泉のこと)で、この野湯こそが、温泉の原風景というか、原始の温泉体験だと思うのです。野湯には湧出量とか湧出場所により、足湯くらいしかできない温泉もありますが、著者は最低でも寝湯できることを条件にしています。湯船だってほぼないので、折りたたみ式スコップやゴム引きの手袋を持っていき、掘ったり、石を積んだりして湯船を作るのです。いやー、秘湯よりもわくわくしませんか?

 本書で紹介している野湯は、ほとんどが場所も明記されておらず、例えば栃木県N市とかE川といった表記ばかりで、怪しさ抜群。でも、その写真や文章につい引き込まれてしまう、“野湯探し疑似体験書”なのです。(ちなみに、野湯探しは有毒ガスやボッケ跡という熱泥や熱水が出ているところもあるので危険が多く、おすすめはしません。出かけるのは本誌掲載の近場のいい温泉へどうぞ)

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右が2021年11月発行の『命知らずの湯』(三才ブックス)、左が土屋が編集担当したMOOK『温泉トレッキング』(交通新聞社 2012年10月刊)。

 この本を読んだとき、もう10年も前になりますが、散歩の達人MOOK『温泉トレッキング』の取材で富山県の「祖母谷(ばばだに)地獄」に行ったことを思い出しました。もちろん、『命知らずの湯』に出てくるような危険な野湯ではないのですが、最寄り駅の黒部峡谷鉄道欅平駅から40~50分歩かないとたどり着くことはできず、湯宿の「祖母谷温泉」に泊まり、スコップを借りて祖母谷川の上流に歩いて行って湯船を作ります。ただ、湧出する源泉を探しながら湯船を作るので、野湯感はたっぷり。前の利用者が作った跡を利用するのが楽で、沢の冷たい水と熱湯の配分がちょうどいいところが多いので、我々も遠慮せずに利用させていただきました。もちろん、風雨や川の流れなどで湯船は崩れており、ちゃんと湯船にするために、石を積んだりスコップで掘ったり……。そうやって作って入った温泉は格別なもの! そしてこれが私の初めての野湯体験でした。ちなみにこの祖母谷温泉は11月から5月はお休みなので、6月以降にぜひおでかけください。私が行った10年前は祖母谷まで8時間近くかかりましたが、今は北陸新幹線があるので、東京から7時間ほどで行けるはずです。

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MOOK『温泉トレッキング』の中の祖母谷温泉のページ。左は祖母谷地獄の野湯に入ったときの写真。

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温泉特集内には「首都圏瓶牛乳コレクション」も掲載。秩父のご当地牛乳「戸田牛乳」にはコーヒー乳飲料も。ふた開けが懐かしい(フルヤ牛乳のもの)。

 さて、今号の2大特集にはほかにも様々な企画がずらり。「近場のいい温泉」特集では「リーダー酒井一圭に聞く 純烈、思い出のスーパー銭湯」(祝!2021年NHK紅白歌合戦出場)をはじめ、「一日過ごせる! 最強のスーパー銭湯はここだ」「町田忍の東京温泉銭湯案内」「極上の湯上がりめしが食べたい!」「首都圏ご当地瓶牛乳コレクション」などなど盛りだくさんにご紹介。

「笹塚・明大前・代田橋」特集では「毎日通えるとっておきベーカリー」「笹塚ボウルが愛される理由」「沖縄タウンがアップデート中」などのラインナップ。
新しい年を迎える区切りの時季。今月号ではポストカード型の「この街、どんな街?カレンダー2022」も付録につけた特別版。ぜひ本誌を持って、あったか温泉へ。そして笹塚・明大前・代田橋散歩を楽しんでいただけるとうれしいです。

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特別付録「この街、どんな街?カレンダー2022」は、Webさんたつ(san-tatsu.jp)で連載している「この街、どんな街?」で紹介している、さとうみゆきさんのイラストを使用したポストカードタイプ。

土屋広道(つちやひろみち)
1972年埼玉県生まれ。関西学院大学社会学部卒業後の1996年に株式会社弘済出版社に入社(合併を経て2001年に株式会社交通新聞社)。『鉄道ダイヤ情報』『旅の手帖』編集部を経て、2008年より『散歩の達人』編集部所属。2017年11月号より同誌編集長。

『散歩の達人』最新号は12月21日(火)発売!