作品の重要な要素を背負ったキャラを演じる、プレッシャーと面白さ――『RWBY 氷雪帝国』ブレイク・ベラドンナ役・嶋村侑インタビュー

アニメ

公開日:2022/9/13

RWBY 氷雪帝国
『RWBY 氷雪帝国』
©2022 Rooster Teeth Productions, LLC/Team RWBY Project

 『RWBY』シリーズの新たな歴史がいま生まれる。

 2012年、日本のアニメ作品に影響を受けたアメリカのクリエイターたちが3DCGアニメを作り、インターネット上で配信した。かわいらしい少女たちが巨大な武器を振り回し、キレのいいアクションを決める。日本の手描きアニメの気持ちよさとけれん味を見事に3DCGで描いていたのだ。この『RWBY』という作品はインターネット上で話題になると、日本のアニメ関係者からも注目を集める。そして、日本の声優による日本語吹き替え版が制作されると、日本語版DVD/Blu-ray Discの発売、そして劇場でのイベント上映、編集版のTV放送が行われた。

 物語の舞台はレムナントと呼ばれる世界。そこには人類を脅かすグリムと、ダストやセンブランスと呼ばれる力を駆使して戦う者たちがいた。15歳の少女、ルビー・ローズは、そんなグリムを退治するハンターを目指して、養成所であるビーコン・アカデミーに入学する――。制作開始から約10年が経った現在でもアメリカのRooster Teeth Productionsでは新作が制作されており、壮大な世界観とドラマが描かれるシリーズとなっている。その『RWBY』シリーズから、新作として日本のクリエイターたちが作ったものが『RWBY氷雪帝国』である。ルビー、ワイス・シュニー、ブレイク・ベラドンナ、ヤン・シャオロンの4人は、新キャラクターのシオン・ザイデンに導かれ、新たなグリムに立ち向かうことになる。

 嶋村侑は『RWBY』シリーズの吹き替え版で、ブレイク・ベラドンナ役を演じている。ブレイクは獣人のファウナスであることを隠している謎めいた少女。獣人ファウナスは、人間たちから迫害されているため、その出自が彼女のドラマに複雑に絡んでくる。

 はたして彼女は『RWBY 氷雪帝国』のブレイクにどのようにアプローチしたのだろうか。ブレイクというキャラクターと新作にかける思いを語っていただいた。

©2022 Rooster Teeth Productions, LLC/Team RWBY Project

advertisement

ブレイクは作品の中でも重要な要素を背負ったキャラクター

――「RWBY」に嶋村さんが関わって7年目となります。長くお付き合いされている作品になっていますが、嶋村さんにとって「RWBY」という作品の魅力はどんなところでしょうか。

嶋村侑(以下、嶋村):『RWBY』シリーズに関わるようになって最初に感じたことは、アメリカ本国のクリエイターが抱いている「好き」がものすごく詰まっている作品だなということです。3DCGだからこそできるアクションの動きがあったり、2頭身のかわいいルビーはわざと崩したタッチになっていたり、どこか日本の懐かしいアニメの雰囲気もありつつ、自分たちが好きと思うことがたくさん詰まっていて。いろんな玩具が詰まったワチャワチャした玩具箱のような愛情にあふれる感じがありました。そんな『RWBY Volume 1』の日本語吹き替え版を作りますと発表したときに、日本のファンの方々もすごく喜んでくださったじゃないですか。好きなものを集めてみたら、もっと好きな人たちが支持してくれるんだなって。想いがつながって盛り上がっていく感じを体感できました。しかも、この作品はシリーズを重ねるごとにどんどん3DCGがクオリティアップして、作品がどんどん広がっていくんです。ファンのみなさんといっしょに作品が成長していくところに関わっているような気分を味わえて、より応援したくなる、そこが『RWBY』シリーズの魅力なんじゃないかと思います。

――嶋村さんが演じているブレイクは、複雑なバックグラウンドを持つ、ある意味で一番国際的なキャラクターですよね。

嶋村:ブレイクがファウナス(獣人)で、人間から差別されているという表現がブレイクにピックアップされている部分ですよね。私は、そういう差別の表現は、本国アメリカで作品を作るときには外せない要素なんだろうなと感じていました。ひとつの土地でいろいろな人種が暮らしていくためには向かい合っていかないといけない。もちろん私たち日本人にとっても大事な要素だと思うし、そういう重要な要素をブレイクが背負っていると考えていました。

――ブレイクの役はアメリカでは Arryn Zechさんが演じていらっしゃいます。外画のように、アメリカの声優さんから影響を受けることはあったのでしょうか。

嶋村:原音のArryn Zechさんは子どもっぽくない、けれど少女の揺らぎみたいなものを感じる声で演じていらっしゃるんです。私が収録するときも、ルビーとワイスは子どもチーム、ブレイクとヤンはお姉さんチームという感じのバランスで演じていました。

――あらためてブレイクをここまで演じてこられてきて、彼女の魅力や特徴をどんなところに感じていますか。

嶋村:ブレイクは一見、孤独でクールっぽいキャラクターですけど、年相応な女の子っぽい部分もあって。実はお父さんとお母さんも健在だし、お家もちゃんとあって、良いところのお嬢さんなんですよ(笑)。当初、私は『RWBY』の設定を全て知っていたわけじゃなかったので、ブレイクの背景がわかるシーンを収録するたびに、ディレクターさんと「そうなんだね」と驚いていました。もっと孤独に慣れている子だと思っていたけれど、そんなことはない普通の子で。本当はみんなと仲良くしたいし、寂しがり屋なんですよね。今回の『RWBY 氷雪帝国』でも、そんなに仲間を信頼している子だったんだなって感じるところがあって。たしかに、ブレイクはもともとホワイト・ファングという組織のメンバーだったから、仲間とミッションをこなすことの熟練度が高いんですよね。だから、リーダーを信じて、ミッションをこなすという立場にすっと入れる。そういうキャラクターの一面を発見する面白さは、ブレイク役を長くやっていると味わえるなって思います。

――面白いですね。台本をお読みになる中でどんどん発見をしていく、そして彼女の本質みたいなものがどんどん見えてくる。

嶋村:今回の『RWBY 氷雪帝国』を作ってくださったクリエイターのみなさんが、『RWBY』シリーズをしっかりと受け取って、誠実にキャラクターを描いてくださったからだと思います。

RWBY 氷雪帝国

RWBY 氷雪帝国

RWBY 氷雪帝国

『RWBY 氷雪帝国』は、『RWBY』シリーズが叶えた夢

――今回、『RWBY氷雪帝国』が日本のクリエイターにより制作されています。海外で生まれた作品から、こうして日本のクリエイターによってオリジナル作品が作られるという流れをどんなふうに受け止めていましたか。

嶋村:『RWBY』シリーズって、関わっているスタッフのみなさんの愛情がすごく大きいんですよね。日本のファンの方々も最初のTrailerのころから『RWBY』シリーズを応援してくださっている方がいらっしゃって、家族のように作品の成長を喜んでくださるんですよね。『RWBY』シリーズ自体に「日本のアニメ作品が好き」という部分が入っているので、きっと日本のクリエイターさんも『RWBY』シリーズにトライしたいという気持ちが芽生えたんじゃないかと思うんです。でも、今回の『RWBY 氷雪帝国』は、『RWBY』シリーズの夢みたいなものがひとつ叶ったものになるんじゃないかなと。素敵な企画だなって思っていました。

――『RWBY 氷雪帝国』の第1話~第3話は、「Volume1」のころのエピソードがベースになっていました。あらためて初期のブレイクを演じてみていかがでしたか。

嶋村:なんか寂しかったです(笑)。原作だと、私(ブレイク)はもうみんなと仲良くなっていたのに。せっかくシリーズを重ねることで、徐々に打ち解けていったのに、またみんなと離れなきゃいけなくしまったので。ただ、みなさん判ってくださると思いますけど、やっぱりピュラ(・ニコス)に会いたいんですよ。みんなピュラに会いたかったから、「Volume 1」からもう一度やると聞いたときは嬉しかったですね。あと、今回の第1話ではTrailer(RWBY “RED,Yellow,White,Black”Trailer)の要素を混ぜて構成してくださっていたじゃないですか。あれも嬉しかったですね。やっぱり、あのTrailerから『RWBY』が始まったという人も多いくらい、たくさんの方があのTrailerをご覧になっていて、やっぱり大事なものなので。

――第1話の収録はチームRWBY4人が集まって行ったそうですが、収録はいかがでしたか。

嶋村:同じシーンを、同じセリフでやっているんですけど、吹き替え版と今回のアニメではテンポが違うんです。今回のアニメは、いわゆる通常のアニメのようなテンポで、どちらかというとゆっくりなんです。最初は、そのテンポの違いに慣れなかったですね。私は小清水(亜美)さん(ヤン役)と録らせていただくことが多かったんですけど、ヤンは元気なので、あまりヤンの元気さに乗ってしまわないように頑張ってました。吹き替えで原音があると、その音を頼りに演じられるのですが、アフレコとなると掛け合いになるので、そこはセーブしながらやっていましたね。

――今回は新キャラクター・シオン・ザイデンが登場しています。新キャラクターの印象はどうでしょうか。

嶋村:『RWBY』シリーズってものすごくキャラクターが多いんです。その中に、さらに新しいキャラクターをどうやって入れるのかな、全部のアイデアはすでに使い切っちゃったんじゃないかな、と思うくらい本当にたくさん出てくるので。そこに日本のスタッフがスピリチュアルとファンタジーの要素を組み合わせた、新しいアイデアでキャラクターを作ってくださったことに驚きました。使っている道具(ドリームキャッチャー)も乙女心をくすぐられますよね! シオンさんは動きも美しいし、色も綺麗で、『RWBY』シリーズにこういう人がいたんだ、と。すごく面白いなと思いました。

――ブレイクたちは、シオンの力によって、ナイトメアに憑かれたワイス・シュニーの夢の中に入っていきます。ワイスの夢の中をご覧になっての印象をお聞かせください。

嶋村:やっぱりワイスは責任感が強いですよね。守りたいという思いが強くて、認めてほしいんだなと思いましたね。私たちは「Volume 8」まで『RWBY』シリーズを演じてきたので、ワイスの寂しさみたいなものは大分減っていたと思うし、私たちも忘れていたんです。だから、ワイスの夢の世界を見て、そうだ、ワイスってこういう子だったんだと、具体的に見せてもらったような気持ちになりました。

――夢の中では、ワイスはネガワイスとしても登場します。

嶋村:彼女が怖くなれば怖くなるほど、彼女が恐れているものがわかって。彼女が頑張っているものや、踏みとどまろうとしている気持ちが見えてくる。そういう切迫しているところが感じられるし、日笠さんのいろいろなお芝居が見られるのも本当に楽しいなと感じました。あのネガワイスを見ていると、ワイス自身が愛おしくなりますよね。一生懸命保とうとして、守ろうとしているのが感じられて、私はかわいいなって思っていました。

――ワイスの夢の中では、ワイス以外の人々もキャラクター化していますね。印象的なキャラクターはどなたでしたか?

嶋村:ジョーン(・アーク)の扱いがちょっとひどかったですね(笑)。下野(紘)さん(ジョーン役)といっしょに収録をした話数があったんです。こういう言い方していいのかわからないけど、ほんとうにすごく面白かった。でもちょっと下野さん(ジョーン)に優しくしてあげてほしい(笑)。ワイスはジョーンをああいうふうに思っているんですね。

RWBY 氷雪帝国

RWBY 氷雪帝国

RWBY 氷雪帝国

『RWBY 氷雪帝国』で見せた、ブレイクの強い覚悟

――ワイスの夢の中では、ブレイクがかつて所属していた組織ホワイト・ファングも敵キャラクターのグリムのような扱いになっています。

嶋村:ワイスたちにとっては過去の因縁もあるし、ブレイクやファウナスの存在が彼女の内面を描くうえでは重要なパーツを担っているんですよね。だからこそ、この『RWBY 氷雪帝国』ではブレイクの存在が重要なんだとプレッシャーを感じていました。

――そしてブレイクも、ネガブレイクとして姿を見せます。

嶋村:ネガブレイクに関しては、私は迷いがなかったんです。なぜかというと、ブレイク自身に迷いがないからなんです。『RWBY 氷雪帝国』でブレイクは仲間に対する信頼感がすごく強くて、ルビーたちだけでなくて、ワイスに対してもすごく強く信頼しているんですよね。今回、ブレイクは感情にあまり振り回されることなくて。この問題を解決するにはどうするのが一番いいんだろうと、かなり冷静に考えて行動しているんですよね。それくらいワイスを助けたいんです。だからこそ、ネガブレイクになるという選択もできたんだと思います。2回目のキービジュアルに「私たちは絶望しない――」っていうセリフをピックアップしていただいているんですけど、その元のセリフはブレイクのセリフなんですよね。ブレイクは「絶対にやりとげる」という気持ちでこの作戦に臨んでいて、たとえ自分がネガになってしまっても、きっとチームRWBYならなんとかしてくれるという信頼感もあって。それでネガブレイクになるという決断をした。そういう覚悟の決まり方をしているので、私も迷うことなく、ネガブレイクを演じることができました。

――ネガブレイクを演じるうえで意識したことは?

嶋村:意識したのはアダム(・トーラス/ホワイト・ファングの一員であり、ブレイクのかつての相棒)と、バーサーカー(激怒した際のギラ・ベラドンナ/ブレイクの父)です。だから、かなり荒々しくなっているんじゃないかなと思います。私個人的にはアダムにはすごく恨みがあるので(笑)、彼のあの俺様な上から目線を意識して演じました。

――『RWBY 氷雪帝国』ではナイトメアというグリムが登場します。人にとり憑き、その人のネガティブな部分を強調して夢の中に世界を作り上げてしまうグリムですが、もし嶋村さんにナイトメアが憑いたらどんな夢の世界を作ると思いますか。

嶋村:私は……そうですね、きっと私が食べられないものばかりの世界になりそうです。

――嶋村さんが苦手な食べ物ってどんなものなんですか?

嶋村:私、乳製品とか牛肉を食べられないんですよ。だからケーキばかり置いてあるとか(笑)。人によっては攻略しやすい世界かもしれません(笑)。

――いよいよ『RWBY氷雪帝国』もクライマックスです。視聴者のみなさんにどのように楽しんでほしいですか。

嶋村:『RWBY 氷雪帝国』は原作の『RWBY』シリーズとは全然違うスタッフ、全然違う場所で作っているのに、ちゃんと『RWBY』シリーズになっていると思います。原作の『RWBY』シリーズで描かれていた、彼女たちの学生生活のシーンが好きだった人も多いと思うんです。今回はそういうところも描かれています。今作も『RWBY』シリーズの一部として、ぜひ末永く愛していただけると嬉しいですね。

取材・文=志田英邦

プロフィール
嶋村侑(しまむら・ゆう)
主な出演作品は、『Go!プリンセスプリキュア』キュアフローラ役、『文豪ストレイドッグス』与謝野晶子役、『ガンダム Gのレコンギスタ』アイーダ・スルガン役など。
Twitter:@shimayulondon

あわせて読みたい