結婚間近の恋人に浮気されたとき、あなたは別れを選べるか?『ありがとう、昨日までの彼。私が婚約者に裏切られるまで』浅野もねインタビュー

マンガ

更新日:2022/10/24

 たくさんの時間を一緒に過ごし、愛した人。そんな人に浮気された時、すぐに別れを決断できる人はなかなかいない。迷い、悩み、傷つきながらも歩んだ日々について、浅野さんにお話を伺いました。

(取材・文=立花もも)

『ありがとう、昨日までの彼。 私が婚約者に裏切られるまで』カバーイラスト

傷ついた心を癒やすのは、時に、誰かの悲しみだと思うから

 ある日突然かかってきた、一本の電話。それは、入籍を目前に控えたもねさんの彼氏の、婚約者を名乗る女性からのものだった──。『ありがとう、昨日までの彼。』は、浮気発覚から3年、もねさんが彼氏との関係を断つまでを描いたコミックエッセイだ。

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「3年は長すぎるだろうとよく言われるんですが、私がその後の日々にどうにか耐えていられたのは、彼がそばにいてくれたからでもあるんです。それほど私を傷つけたのは彼自身なのだから、矛盾しているのはわかっていますが、彼ほど私を深く理解し寄り添ってくれた人はいなかったなと、今ふりかえっても思います」

 蓋を開けてみれば浮気相手は一人ではなく、スマホのフォルダには女性の裸の写真がいっぱい。〝昨日までの彼〟とまるで繋がらない情報がたくさん飛び出してくるなかで、それでも、もねさんが別れることに踏み出せなかったのは〝昨日までの私たち〟にどうにか戻れる日がくるんじゃないかと、願う気持ちが消えなかったから。

「当時の記憶が曖昧なので、マンガを描くにあたって日記を読み返してみたんですが、訳のわからない単語を書き散らして、自分でも解読できないような文章が続いていて、ああ、本当に壊れていたんだなということが、よくわかります。それでも、別れることで彼との日々がすべて消えてしまうこと、もう二度と誰とも愛し合えないかもしれないと考えると、その状態を続けるほうがまだラクだったんです。……でも、一つだけ後悔していることがあって。発覚当日、衝動的にマンションのベランダから飛び降りそうになった私に『あの男性と別れてください、お願いします』と頭を下げてくれた警察官の脇さんが、立場を超えて私を案じてくださった優しさを無碍にして、彼のもとに戻ってしまったことは、ちゃんと描かなきゃいけないと思いました。関係性に執着し、理屈では説明のつかない衝動に突き動かされてしまった私自身の姿に、自分と同じだ、と心を寄せることでラクになれる方も、いらっしゃるような気がしたので」

 彼に執着したのは、電話をかけてきた浮気相手も同じ。目的の見えない彼女との対峙もまた、もねさんが描きたかったことの一つ。

「彼女は彼女なりに、彼を純粋に好きだったんだろうなと思うんですよね。憎むべき相手としてではなく、一人の女性として改めて彼女を見つめなおせたのもよかったですし、そうして一つずつ、思い出を分解していくことで、苦しさが手放されていきました。決して、スカッとするようなお話じゃありませんが、傷ついた心を癒やすのはポジティブなメッセージばかりではなく、自分とはまるで違う誰かの悲しみであることも多いと思うので、読んだ方の心がほんのちょっと、ラクになれるものになっていたらいいなあと思います」

『ありがとう、昨日までの彼。私が婚約者に裏切られるまで』148ページ
浮気発覚後、二人は別れを選ばず再構築を目指すことに。ところが、彼のすべてを信じられなくなったことで疑心暗鬼になり、心の歯車が壊れはじめる……

浅野もね
あさの・もね●彼との関係を断った後、当時の日記を再構成する形でインスタマンガの投稿を開始。現在は、心を病んで悪感情に支配された“もう一人の私”と彼がどう日々を過ごしていたかを描く、スピンオフを投稿中。

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