漫画『あおのたつき』と『丁寧な暮らしをする餓鬼』の作者は同一人物! その創作の原点と今後の展望に迫る――新刊発売記念座談会

マンガ

公開日:2022/12/20

安達智先生(塵芥居士先生)、担当編集者Mさん、Sさん

 マンガボックスで連載中の漫画『あおのたつき』と、Twitterフォロワー9万人を誇るアカウントが書籍化した『丁寧な暮らしをする餓鬼』(KADOKAWA)。このたび、書籍版『あおのたつき』第7巻(マンガボックス:編集/コアミックス:発行)と『丁寧な暮らしをする餓鬼』の完結編となる第3巻が12月20日に同時発売され、さまざまなコラボ企画を実施中だ。

 実は2作品それぞれの作者である、安達智(あだち さと)先生と塵芥居士(ちりあくたこじ)先生は同一人物で、これまでも「#同じ人が描いたとは思えない絵を貼る」というハッシュタグで話題になったり、『あおのたつき』に『丁寧な暮らしをする餓鬼』の餓鬼がゲスト出演したりしてきたものの、大々的に公表するのは今回が初めてとか。

 2作品の新刊発売(と、同一人物であることの公表)を記念して、安達智(塵芥居士)先生と、『あおのたつき』『丁寧な暮らしをする餓鬼』それぞれの担当編集者であるMさんとSさんのスペシャル座談会を実施。その様子をお届け!

取材・文=近藤世菜 撮影/浜中直人

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■ペンネームは「塵芥居士」じゃなくて「色即是空法師」だったかも?

––––まず、どうしても気になってしまうのが、安達先生がつけているお面(?)なのですが。

安達智(以下、安達):これは、今年の日本漫画家協会賞贈賞式のために用意したものです。本当は、鹿踊(ししおどり)という岩手県の伝統舞踊で使うものをかぶりたかったんですが、配送業者に申請を出したり、装着するために演者の方を呼んだりしなくてはいけなくて。そういう手続きが間に合わなさそうだったので諦めました。

安達智先生(塵芥居士先生)
フリマアプリで約6万円で購入した牛鬼のかぶりもの。重量は2.6kg!

『丁寧な暮らしをする餓鬼』担当編集S(以下、編集S):でも、この牛鬼(うしおに)のかぶりもの(西日本の祭礼に登場する練物)、すごく味がありますよね。どこで購入されたんですか?

安達:フリマアプリです! 愛媛県宇和島市のご家庭で大切にされていたものを譲っていただいたんです。ところどころ欠けたり、色がはげたりしていたので、DIYで補修しました!

『あおのたつき』担当編集M(以下、編集M):日本漫画家協会賞は、カーツーン部門の大賞が『丁寧な暮らしをする餓鬼』で、コミック部門の大賞は『ゴールデンカムイ』(集英社)でしたね。ちなみに、贈賞式はいかがでしたか?

安達:『ゴールデンカムイ』の作者・野田サトル先生にお会いできたのがすごくうれしかったです! 壇上に上がったのは編集の方だったんですけど、はじめはその方が野田先生だと勘違いしてました(笑)。

編集S:野田先生はお席でご覧になってたんですよね。

安達:そうなんですよ。私、受賞スピーチのためにしっかり原稿を書いていったんですけど、ほかのみなさんはフランクに話されていて。なんだかちょっと気恥ずかしかったです(笑)。

––––それと、もうひとつ気になっているのが、『丁寧な暮らしをする餓鬼』の「塵芥居士」というペンネームなんですが……。これはどうやって決められたんですか?

安達:編集のSさんに、好きな名前にしていいと言っていただいたので、ちょっとふざけてみたんですけど、実はなかなか決まらなかったんですよね。

編集S:そうなんですよ。うちの編集長から、何度か戻しがありまして……。

安達:最初は、般若心経の言葉からとって「不増不減祖師(ふぞうふげんそし)」とか「色即是空法師(しきそくぜくうほうし)」とかを提案したんですけど、ちょっと高尚すぎるかなって。最終的に、戒名みたいにしたくて「善処院労働感謝塵芥居士(ぜんしょいんろうどうかんしゃちりあくたこじ)」って名前を送ったんです。

編集M:たしかに、祖師や法師より、居士のほうが謙虚な感じがしますね。

編集S:ですよね。すごくよかったんですけど、ちょっと長すぎるということで、最後の部分だけ残して「塵芥居士」にさせていただきました。

安達:いろいろアイデアを出しましたが、最終的にすごくしっくりくる名前になったのでよかったです!

■「あお」のお金好きは祖父譲り

––––『丁寧な暮らしをする餓鬼』が生まれたきっかけは以前、カレー坊主・吉田武士さんとの対談で語っていただきましが、『あおのたつき』はどんな過程で作品になったんですか?

安達:数十年ぶりに同人即売会に参加するようになって2回目のとき、『あおのたつき』のプロトタイプのような作品を売っていたんです。そうしたら、Mさんからお声がけいただきました。

編集M:「あお」(『あおのたつき』主人公の遊女)の造形が、丸っこくて頭身が低くて、すごくかわいいじゃないですか。キャラクターとしての完成度が高いんですよね。しかも「遊女×あやかし」の話だったので、これは売れる!と思いました(笑)。

あおのたつき
『あおのたつき』7巻、「あお」のカバーイラスト

––––ちなみに、久しぶりに即売会に参加したきっかけは何だったんですか?

安達:小学生のときから漫画家を目指していて、友達と地元の即売会で冊子を売ったりしてたんですけど、大学生になっても芽が出なかったのできっぱりやめたんです。それからWebデザイナーの仕事を始めて、10年くらい漫画はいっさい描いてませんでした。でも、結婚と出産を経て独立したあと、いろいろな事業をやるなかで、自分でプロデュースして何かを作りたい欲がでてきて。それで、久しぶりに描いてみようかなと思ったんです。

––––遊女を主人公にした物語を描こうと思ったのはなぜですか?

安達:実家がラブホテルを経営しているので、遊廓という場所になんとなく親近感があるのかもしれません。そこで働いていた女性たちがどういう人で、どんな気持ちだったのか、知りたいという気持ちも強かったですね。もちろん、かつての遊女たちの苦しみを正しく理解することは難しいということはわかっています。ただ、現代と比べるとあまりにもままならない浮世を生き抜くために、さまざまなおまじないやお守りがあって。これは遊女に限ったことではないですが、鬼や病から自分や弱い者を守ろうとする心に、ぐっとくるものがあるんですよね。だから、苦しい暮らしのなかでも川柳で客のことをこき下ろしたり、日記に遣手婆の悪口を書いたり、自分の運命を呪いながらも、神様にお祈りしたり、開き直っておもしろおかしく生きようとしたりしている姿が心に響きます。

あおのたつき
『あおのたつき』6巻より

編集M:当時のことを調べるなかで、ストーリーの展開も当初の予定と変わってきていますよね。

安達:赤線廃止で遊女たちが救われるラストをなんとなく思い描いていたんですが、実際は、そんな都合よくいかなかったみたいで。急に仕事を奪われたかと思ったら、外の世界では学がないからと馬鹿にされて、心に傷を負ったり、貧困から抜け出せなかったり。そういうことを勉強させていただいたので、当初の予定とはぜんぜん違う結末になると思います。搾取の構造があったので、どうしても男女の分断が際立って見えてしまいますが、最終的にはお互いを敬い合えるような内容にできたらいいですね。

––––ちなみに、作品のなかに、安達先生のパーソナリティが影響している部分はありますか?

安達:あおのお金好きは、私が幼いころから祖父に言われている言葉が影響しているかもしれません。うちの祖父は趣味人で、自分の好きな絵を飾るために家のワンフロアを画廊にしてしまうような人なんです。ただ、難しい性格なので、友達はぜんぜんいないんですけどね。いつも「智さん、お金はいいよ」「お金があったら何でもできる」「お金は裏切らない」と言われて育ちました。だから私も商売好きなんですよ(笑)。自分のお金で自分の居場所を作るっていうのは、悪くないなって思います。

あおのたつき
『あおのたつき』1巻より

編集M:最新の7巻では、なぜあおがそこまでお金にこだわるのか、過去の“わだかまり”がようやく明らかになるので、ぜひチェックしてほしいですね!

■今後のガッキーは地方創生のために働く!?

––––『丁寧な暮らしをする餓鬼』はついに最終巻ということですが、なにか特別な部分などありますか?

安達:最後なので、ガッキーの生前の姿を描きました。読者アンケートでも、なぜガッキーが餓鬼道に落ちてしまったのか知りたいという方が多かったみたいで。それから、ガッキーと牛鬼の出会いのエピソードも載っています。これは、Sさんの実体験を参考にさせていただいたんですよね。

編集S:そうなんですよ。若いころに勤めていた会社でやらかしてしまったエピソードを使っていただきました(笑)。

丁寧な暮らしをする餓鬼
『丁寧な暮らしをする餓鬼』3巻より。牛鬼とのエピソード

––––単行本のほうは一旦完結となりますが、今後『丁寧な暮らしをする餓鬼』はどんな展開をしていく予定なんですか?

安達:ガッキーのTwitterアカウントは今後も運用していきます。ほかにも地方創生に役立つ事業とからめていきたいと思ってるんですよね。日本各地の職人さんと一緒に、ものづくりができたらいいなと考えていて。最終巻で岩手県に取材に行かせていただいたのもその一環なんです。鹿狩に同行したり、鹿踊に参加したりして、命に感謝する姿を間近で見させていただきました。

丁寧な暮らしをする餓鬼
『丁寧な暮らしをする餓鬼』3巻、岩手県取材の紹介ページより

安達:なかでもとくに印象に残っているのが、海岸山普門寺で500体以上の羅漢像(らかんぞう)を見たことです。東日本大震災で亡くなった方々の遺族が、供養のために石を打って作ったものなんですけど、ずらっと並んだ羅漢さんを目の前にして、生と死というものを深く考えさせられました。私は『あおのたつき』でも『丁寧な暮らしをする餓鬼』でも死後の世界を描いていますが、亡くなった人のことを少しでも身近に感じたいと思っているのかもしれません。

––––安達先生自身が、今後チャレンジしたいことはありますか?

安達:「餓鬼カフェ」をやりたいと思ってるんですよ! 実は、事業計画書も作り始めてます(笑)。

編集S:コラボカフェも流行ってますが、安達先生のイメージどおりのメニューや空間を提供にするには、ご自身でやるしかないんですよね(笑)。

安達:そうなんですよ。私が1階でカフェをやって、夫が2階で民泊をやるっていうのもいいんじゃないかなって考えてます。地方創生につながるように、日本各地の特産品を使ったメニューを考えたり、店内で工芸品を売ったりしたいんですよね。

編集M:安達先生は料理もお上手ですし、本格的なカフェになりそうだから、『丁寧な暮らしをする餓鬼』を知らない人からも人気が出そうですね!

安達:ちなみに、今考えている目玉メニューは「餓鬼焼き」です(笑)。ガッキーの焼き型は南部鉄器で作っていただこうかと思っています。

餓鬼焼き
安達先生が描いた「餓鬼焼き」のイメージイラスト

––––いろいろお話ししていただいてありがとうございした! 最後に、『あおのたつき』第7巻と『丁寧な暮らしをする餓鬼』最終巻について、アピールをお願いします。

編集S:お互いの告知のためにコラボ漫画を描いていただいたり、同じ作家さんだからこそできるプロモーションをたくさん用意しているので、作品と併せて楽しんでほしいですね。

編集Mプレゼントキャンペーンも用意しているので、この機会にぜひ参加してください!

『あおのたつき』1巻〜7巻、『丁寧な暮らしをする餓鬼』1巻〜3巻
『あおのたつき』1巻〜7巻、『丁寧な暮らしをする餓鬼』1巻〜3巻

安達:2つの作品を並行して作るのはやっぱり大変で、正直なところ疲れたなっていうのが本音です(笑)。でも、おかげで気付けることもあったし、漫画家として成長できたと思います。少しでも興味を持っていただけたら、お手にとってもらえるとうれしいです!

©︎安達智/マンガボックス ©︎ChiriakutaKoji/KADOKAWA


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