宮田愛萌「実用的じゃない勉強に、生きるうえで大切な何かがある」。日向坂46卒業後に発表した小説集『きらきらし』を通して伝えたかった“夢中になることの大切さ”

文芸・カルチャー

公開日:2023/3/14

宮田愛萌さん

 元日向坂46・宮田愛萌さんの小説集『きらきらし』(新潮社)が2月28日に発売された。本作はアイドル活動と並行して大学で学んだ万葉集をテーマに、歌から想像を膨らませて書かれた5つの短編が収録されている。

 5つの短編はバラエティに富んだフィクションでありながらも、大学を舞台にしたラブストーリーや、万葉集を研究することへの想いを綴ったものなど、宮田さんが実際に経験したことであるかのような切実さが詰まっている。

 本インタビュー記事では、作品にかける想いや古典を学ぶことの意義、そして作品作りの裏に隠されたファンへの想いなどを真摯に語っていただいた。

(取材・文=金沢俊吾 撮影=金澤正平)

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卒業後は遊びまくり!

――日向坂46を卒業されて2ヵ月ほど経ちました。最近はどのようにお過ごしですか?

宮田:最近は……遊びまくっています(笑)! 毎日のように舞台を見に行っています。今年に入ってから『地獄楽』『刀剣乱舞』、劇団四季の『アナと雪の女王』、みーぱんさん(日向坂46佐々木美鈴)出演の『ぴーすおぶけーき』。今度、渡邉美穂の出演するミュージカルも観に行きます。

――これまでがお忙しすぎて、舞台を観に行く時間もなかなか取れなかったですよね。

宮田:そうですね。アイドル時代は1ヵ月以上前に休日が確定することなんてほとんどなくて、舞台のチケットもなかなか買えなかったんですよ。

――忙しかった日々が恋しくなることはありますか。

宮田:まだないですね。メンバーの森本茉莉ともちょくちょく会っているので(笑)。純粋に自由な時間を楽しんでいます。

授業中に小説を書いていた

――ここからは『きらきらし』について聞かせてください。過去には恋愛小説アンソロジー『最低な出会い、最高の恋』に短編を書きおろしましたが、もともと小説を書いたりすることに興味はあったのでしょうか?

宮田:学生時代に遊びで書いたことはありました。授業中に辞書を開いて、パッと目についた3つの単語を使って、ルーズリーフにお話を書くんです。あんまり好きではない授業中にずーっとやっていました(笑)。

――それは誰かに読んでもらったりしたのですか?

宮田:親友にちょこっと見せたりはありましたけど、基本的には誰にも見せていないです。だから『最低な出会い、最高の恋』で小説を書いてたくさんの人から感想を頂いたとき、自分が書いたものを人に読んでもらえるのはすごくうれしいことだって知ったんです。だから、また書けたらいいなとずっと思っていました。

――『きらきらし』は万葉集の歌から想像を膨らませた5つの物語が収録されています。モチーフとなった5つの歌は、どのように選ばれたのですか?

宮田:万葉集の巻で決めようと思ったんです。万葉集全20巻のうち、今回選んだ5つの歌は巻9~10に収録されています。『きらきらし』を読んだ人が万葉集に興味を持ったとき、全部揃えるのは大変ですけど、巻9、10にまとまっていれば手を出しやすいかなと思って。

――『きらきらし』をきっかけに万葉集を読んでほしいという想いが強いからこその選定理由ですね。

宮田:そうですね。そういう人がたくさん現れることを願っています(笑)。

宮田愛萌さん

もし私がアイドルになっていなかったら

――モチーフとなる歌が決まり、そこからどのように作品を組み立てていったのでしょうか?

宮田:どの短編も最初にキャラクターを作りました。そのうえで、自分が監督になって、頭の中で演じてもらったことを書いていくような感覚で進めていきました。

――レギュラー出演していたテレビ番組「日向坂で会いましょう」では、様々なシチュエーションのショートドラマをご自身で作り演じていました。それに近いような感覚でしょうか?

宮田:確かに、似ているかもしれないですね。今回も「もし私がこのキャラだったら、きっとこんなことを言うだろうな」なんて考えながら、台詞は実際に自分で声に出してみたりして書いていました。

――読ませていただいて、どの短編の主人公も宮田さんがモデルのように感じたのですが、そういった作り方をされたからなのかなと思いました。

宮田:やっぱり、主人公たちは自分とどこか似ていると思います。特に「紅梅色」で描かれるキャンパスライフとか、本当にこういう経験をしたように錯覚するぐらいでした。書き終わってから「こんな青春あるわけがないな」と気付くんですけど(笑)。

――創作でありつつ、宮田さん自身が経験したかのような感覚で書かれていると。

宮田:そうですね。「もし私がアイドルになってなかったら、きっとこういうキャンパスライフ送ってたんじゃないかな」なんて思います。登場人物の大学生活を想像するために授業の時間割を作ったんですが、それも自分の過去の時間割を参考にしたんですよ。

宮田愛萌さん

実用的じゃない勉強に、生きるうえで大切な何かがある

――最後に収録されている「つなぐ」は素晴らしい短編だと思いました。大学で万葉集の研究をしていた亡き叔母の日記を主人公が辿っていくという作品で、宮田さんの私小説のようにも読めました。「なぜ万葉集を研究するのか」という問いに、自分自身で挑んでいるような印象を受けました。

宮田:ありがとうございます。なぜ研究するのかという問い……そうなんです。「文学の研究は社会に必要ない」みたいな風潮が、私は本当に納得できないんですよ!(笑)。

一同:(笑)

宮田:「おもしろい」が学ぶ理由でいいじゃん! と思うんですよね。私が高校3年生のとき、卒業前最後の古典の授業で「古典や文学は社会に要らないと言われているけれど、人生に文学のような娯楽は絶対に必要だ。勉強したい人は気兼ねせずに続けてほしい」と先生に言われたことをずっと覚えているんです。

――自分の話で申し訳ないのですが、私も大学の文学部に入って「就職にも会社でも役に立たないよ」と言われ続けました。

宮田:本当にいろいろな人からたくさん言われますよね。でも、役に立たないから学ばないっていうのも違うかなと思うんです。実用的じゃない勉強に、生きるうえで大切な何かがあるんじゃないかなって。

――叔母さんの日記を通して描かれる「学ぶことの喜び」は、読んでいてグッとくるものがありました。

宮田:私は万葉集というコンテンツに出会ってのめり込んだわけですが、何かに夢中になった経験がある人はたくさんいるはずです。そうしたものに触れたときの感覚を思い出していただけるといいな、と思いながら書きました。

――万葉集に興味を持ってほしい想いはありつつ、それがなくても読者が共感できる何かを残したかったのですね。

宮田:そうなんです。『つなぐ』は、主人公も叔母をきっかけに万葉集に興味を持つところで作品が終わりますが、文学部に進まなくても、いろいろな可能性を見たうえで自分の将来を決められるのが一番いいなと思うんです。アイドル時代、ファンの方から「進路に悩んでいます」みたいなお話をよく聞いていたので、少しでもこの作品で勇気付けられたらいいなと思っています。

――ファンからそうした声が届くのも、宮田さんがアイドルと学業と両立して自分の道を切り拓いてきたからですよね。

宮田:そうだったらうれしいですね。握手会で「どうやって学部決めた?」とか、すごくたくさん聞かれたんですよ。多分、私のことをアイドルじゃなくて学校の先輩か何かだと思ってたんじゃないですかね(笑)。

宮田愛萌さん

声がかからなくても、勝手に書きます

――『つなぐ』は、万葉集のなかでも挽歌がモチーフになっています。「死」というテーマを扱ううえで、そういったことも日ごろから意識されるのでしょうか?

宮田:はい、やっぱり、それはいつも頭の中にあるような気がしています。「終わりがあるから美しい」みたいなことは絶対にあると思うので、そこは日ごろから意識するようにしてます。ちょっと話が変わってしまうのですが「人間の死体を大事にし続けたら付喪神が宿るのかな」と、ずっと考えてた時期もありました(笑)。

――古典好きならではの思考ですね(笑)。「死」に限らず、日ごろから「終わり」への意識があるということですね。

宮田:そうですね。「散り際」に興味があるのかなと思います。

――宮田さん自身、アイドルとしての散り際を迎えて、新しい生活がスタートした段階だと思います。これからはどんな活動をしていきたいか、最後に教えてください。

宮田:やっぱり、書くことは続けていきたいです。またお声をかけていただいて書ける場があればうれしいんですけど、声がかからなくても勝手に書きます(笑)。

――アイドル時代からのファンは、きっと宮田さんのお写真や動いている姿も見たいと思いますが、あまりご自身が表に出ていくことに興味はないですか?

宮田:え、需要ありますかね……?

――絶対にあると思いますよ。

宮田:そうなんですね。あんまり分かっていなかったかもしれないです。インスタグラムも、自撮りより、景色やオススメの本を載せたほうがみんなうれしいんじゃないかと思っていて。

――もちろんそれらもうれしいと思うのですが、やっぱり宮田さんのお姿が見たい人も多いはずです。

宮田:写真を撮られることは好きなんです。でも、それを公開することにはあんまり興味がなくて。でも、需要があるならもうちょっと載せようと思います(笑)。

――ぜひよろしくお願いします。次回の著作も楽しみにしていますね。ありがとうございました。

宮田:ありがとうございました!

宮田愛萌さん

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