「今回はあえて曲調を変えたイメージ」これまでとは全く異なるタッチで書き上げた新作『特撮家族』のバックにあるものとは。小説家・髙見澤俊彦さんインタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/15

高見沢俊彦さん

 ロックバンド・THE ALFEEのリーダーとして知られる“タカミー”こと高見沢俊彦さんは、小説家・髙見澤俊彦として青春小説の『音叉』(2018年、文藝春秋)と大人の愛を描いた『秘める恋、守る愛』(2020年、文藝春秋)の2冊の著作を持つ。そしてこのほど3冊目となる『特撮家族』(文藝春秋)を刊行。「特撮」×「戦国時代」×「神様」という髙見澤さんの趣味全開ながら、「家族」というものの面白さに迫る本作はどのように生まれたのだろう? 髙見澤さんにお話をうかがった。

取材・文=荒井理恵

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音楽のように違う「曲調」に挑戦した『特撮家族』

特撮家族
特撮家族』(髙見澤俊彦/文藝春秋)

――まずは、書き始めたきっかけから教えてください。

髙見澤俊彦さん(以下、髙見澤):今回は、これまでに書いた2作とはまったくかけ離れた物語を構築してみようというのが、そもそものきっかけですね。音楽でも曲のパターンって違うじゃないですか。THE ALFEEは3人ともリードボーカルがとれるんで、激しいのとバラードとミディアムの3パターン作れますが、小説もそのイメージ。今回はコミカルなタッチで、あえて全然違う曲調にした感じですね。

――小説でそうした書き分けをするのは難しいですか?

髙見澤:曲を作るのは慣れてますから、ある程度は作れますけど、物語の書き分けはやったことがないので、とっかかりは結構難しいですよね。今回は僕が子どもの頃から好きな「戦国時代」と「特撮」を全部ぶっこんで、それにつながる人間のドラマを書きながら作っていったんですが、メインは特撮で、主人公は歴女にしようとははじめから決めてました。ただ、あまりにも自分が好きな世界なので、逆にそこだけいっちゃって物語に欠落部分が出るといけないので、恋愛なのか家族の愛なのか、そういったディテールをどう絡めるかはちょっと考えましたね。物語には死んだ父親が幽霊で出てきますけど、「父ゴースト」っていうのも特撮っぽいし、怪獣も幽霊も出していいや、みたいな(笑)。主人公の美咲は朝倉氏が好きですけど、三英傑(信長、秀吉、家康)とかはすごいって日本人はみんなわかってることで、それはもう面白くないので、あえて逆の脇役的な感じの、華々しい人たちの横にいて彼らを際立たせた人たちを出した感じです。

――確かに「特撮」や「戦国時代」ネタも盛りだくさんですが、父の死をきっかけに家族がつながる物語もきっちり描かれていますね。

髙見澤:家族って一番身近で一番遠い存在ですよね。あまり話をしなくなっちゃう時期とかあったりしても、何があっても許せる関係だったりして。物語では最後はバラバラだった兄妹がまとまっていきますけど、そこに父親の愛情があって、それが未来につながっていく。そんな基本的な家族のかたちみたいなものを、ちょっとでも感じてもらえるといいな、と。

――ちなみに書き始める前にいろいろ考えておくタイプですか?

髙見澤:そういうのって意外とないんですよ。書き始めるとどんどん動くんですよね。大体のプロットはありますけど、そこから先というのは書き始めてから。主人公の性格とか、家族の関係とか、そういうのも書き始めてからある程度ついてくるもので。父親の学生時代を挟んだのも、時代感を出したかったし、書きながらこうしたら面白いかなって。

知っているようで知らない「神道」の面白さ

――今回は「神道」も大きなキーワードですね。

髙見澤:僕はミッションスクールで聖書を結構勉強してきましたけど、「神道」って面白いなって最近興味を持ちました。神社ってどこにでもあるじゃないですか。ツアーで行くどこの街にもあるし、気がついたらある。ずいぶん前に若いバンドの連中に「THE ALFEEっていつ頃から知ってた?」って聞いたら、「いつのまにか知ってました」って言われて、それって神社みたいなもんだなーって(笑)。長くあるとそういう感覚ってあるじゃないですか。なんだかよくわからないけれど、日本人の心に根付いてるものなんでしょうね。鳥居なんかもいろいろあるし、そんなことから興味を持ちました。

――東京の神田明神を舞台にされていますが、それはなぜですか?

髙見澤:徳川家康が関ヶ原の戦いに行く前にあそこで戦勝祈願して勝ったんで、これはいいなと思いました。東京が舞台なので、江戸の総鎮守ですしね。そこで祀られている少彦名命(すくなひこな)を登場させました。いわゆる恵比寿様なんですが、いろんな呼び名があって、お酒の神様であり商売繁盛の神様でもあり。

――神田明神は平将門も御祭神ですが、歴史好きならそちらにいくのかと……。

髙見澤:ちょっと将門さんはこの小説だと違うかなと思いまして(笑)。ほかに大国主命も祀られている三本柱ですから、そこはひとつにしぼりました。見た目は一番かわいい神様ですよね。

――物語を書く上で、一番難しかったのはどんなことですか?

髙見澤:やっぱり神様の話し言葉とかですかね(笑)。それと神社の一般ですね。知っているようで知らないし、どこまで書いていいのかとか、神様ということをどう言ったらいいのかとか自分ではわからなかったので、神田明神さんに取材に行きました。それで禰宜さんにお会いしてお話しさせて頂いたら、「ああ、もういいですよ、ご自由に」みたいな感じで(笑)。そこから大分楽になりましたね。触れてはいけないのか、とか、「罰当たりめー!」とか言われたら困っちゃいますから。

――さらにご自分でも研究されたんですか?

髙見澤:本はいろいろ読みましたね。神道だとか歴史だとか、それこそ古くは蘇我氏と物部氏の戦いなんかもありましたし。結局は日本の文化というか精神というか、「おもてなし」など神道からきてる部分ってすごくありますよね。神道って神の「道」ですからね。神教じゃなくて、華道や柔道とかと同じなんですよ。

――考えてみたら不思議ですよね。

髙見澤:「人生」みたいなものですよね。自分と一緒に寄り添っていくもので、神社とかが力を与えてくれる。でも僕が一番面白いと思ったのは、「神様には誰でもなれる」ってことです。秀吉だって神様になっちゃったし、古くは菅原道真だってそうですよ。祟りがおこったら、「ごめんね、神様として祀るから」って、怨霊も神様にしちゃう(笑)。でもそれでいいんですよ。そういうフレキシブルなところは、僕らは学ばなきゃいけないなと思います。

――もともと日本人ってそういうとこありますよね。

髙見澤:ありますよね。「善処します!」とか、はっきりしないじゃないですか。「善処ってなんだよ」って。「前向きに考えます!」とか、「それってYesなの?」みたいな。でも、それはそれでいいんじゃないかなって、最近は思います。そういう日本人の持っているものが、神社の中に多少あるような気がするんですよ。コロナで如実に表れたじゃないですか。だって、マスクさせるのも海外だと罰金制度にしないとダメなくらいだったのに、日本人は政府が「しましょう」っていったら、みんな「はい」ってするじゃないですか。これは同調圧力ではないと思うんですよ。やはり人に迷惑かけちゃいけない、っていう文化ですよね。そういうのが逆にいいなあって思うんです。

――それぞれの内側から立ち上がってくる気持ち、みたいな。

髙見澤:そうそう。もうそれでいいんじゃないかなと。白黒はっきりさせることももちろん大事ですけど、それだけじゃないし、グレーゾーンがあってもいいじゃないかと。

――そのグレーゾーンのゆるさというか、広さというか、それがこの本のバックにありますね。

髙見澤:ありますよね。たとえば拝み方とかもはっきりしたものは決まってないらしいですね。「どうやったらいいですか?」って聞いたら、「自由でいいですよ」って言われてしまって。え?自由でいいの?ほんと?みたいな(笑)。もちろんお伊勢さんとかやり方が決まってる神社もありますけど、何も考えずに手をあわせるだけでいいって言われて、「なるほどー」って。素晴らしいですよね。

音楽も小説も「二刀流」で!

――さて本作は『オール讀物』(文藝春秋)に連載されていたわけですが、音楽をやりながら小説を書く、しかも連載というのは難しくなかったのでしょうか?

髙見澤:もう慣れた感じもありますね。小説を書く感覚も音楽を創る感覚も僕の中では一緒です。いま二刀流が流行っているので、それにあやかって(笑)。

――過去のインタビューで「作家になりたいけどなれるわけないと思っていた」とありました。

髙見澤:ありましたね。高校時代は本が好きだったので、小説家というものに対して憧れがありましたから。でも、自分には書けないよなーとずっと思ってたんです。ところが文藝春秋の編集の方に背中をぽこっと押されたら「書けた!」みたいな(笑)。

――いざ書いてみたらどんどん筆が進んだと?

髙見澤:いやー進まないときもありますよ。音楽でもそうなんですけど、できないときは逃亡癖が出ちゃって、いろんなことやっちゃうんですよね。映画を観に行ったり、サブスクでドラマを観たり、漫画を読んだり、全然進まないんですよね。そういうときに限っていろんなことが重なったりしますしね。

――でも二刀流ができるということは、瞬発力というか、いざとなると強いタイプでしょうか?

髙見澤:そう、追い込まれると何か頭にピンときて、そこに短時間でもばっといけちゃうって感じですね。

――とはいえ今回は、髙見澤さんご自身がすごく楽しんで書かれてる感じが伝わってきました。

髙見澤:つまるときはありますけどね。「ここからどうしたらいいだろう」ってのがあるじゃないですか。結末も決めてなかったし、右に行くか左に行くかですごく迷ったりしますよね。そういうのって音楽と一緒で、ここで転調するのか、抑えるのか、サビをどう展開していくのかで、曲の感じが変わりますから。

――音楽と同じ「リズム」みたいなのもありそうですね。

髙見澤:ありますね。音楽もリズムとメロディが大事ですけど、小説も読んでてリズム感のあるのが好きですね。読んでる方がすーっと入っていく、そして行き着く。途中で止まったりしてもいいんですが、リズムはすごく大事にしてます。

――ちなみに、こういうの書きたいというアイディアは常にご自身の中にいっぱいある感じなんですか?

髙見澤:プロットみたいなものは、自分の中でも小説を書こうと思ったときからいくつか書いてあるんですよね。1行2行でもありますけど、この世界を膨らませようみたいな。『特撮家族』は本当に、自分の中で子どもの頃から好きだったものを自分で思い返したときに、小学校のときから怪獣映画観てたしなーとか。戦国は大河ドラマの影響ですね。家族揃って大河ドラマを観るのが高見沢家の日曜の夜の団欒でしたから。

――これから作家としては、どんな挑戦をされていきたいですか?

髙見澤:いろんな物語を書いていきたいですね。今回、スピンオフで『特撮家族』の短編を書いたんですが、短編も面白いなと思いました。ただ長編も短編もどっちもそれなりに大変で、ヤバいって時もありますが、達成感は両者とも同じくらいありますね。

――ますます楽しみです。最後にこの本に関して読者にメッセージをお願いできますか。

髙見澤:非常に楽に読めますので、ぜひ小説を読んだことがない方も、特撮に興味のない方も読んでいただきたいと思います!

――ありがとうございました。今日は音楽も小説も軽々とこなしてしまう「リアル高見沢さん」はどんな方なのかと、実はお話しするのが楽しみでした。

髙見澤:普通ですよ。フツーの人ですよ(笑)!

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