船越英一郎さんが選んだ1冊は?「渡辺くんのすべてが詰まった一冊。彼と友達になった気持ちになりました」

あの人と本の話 and more

公開日:2023/6/13

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年7月号からの転載になります。

船越英一郎さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、船越英一郎さん。

(取材・文=倉田モトキ 写真=TOWA)

advertisement

「渡辺くんは、僕がこの世界に入った頃から常に一歩先を走っているような存在でした。なぜか共演する機会に恵まれず、やっと叶ったのが約10年前。深く言葉を交わさなくても、芝居で心が通じあえたのを覚えています。その後、お互いギラギラした年齢も過ぎ、そろそろ杯を交わしながら、いろんなことを腹を割って話したいなと思っていたのに、残念ながら先に旅立たれてしまって……」

 そんな時に手にしたのがこの本だ。

「聞きたかったことが全部書いてありました。なぜ役者になったのか、どんな壁を乗り越えてきたのか、大切にしているものや役者としての夢は――。優しい語り口調で書かれた文章も素敵で、まるで目の前で会話をしているような気持ちになり、読んでいて目頭が熱くなりましたね」

 感銘を受けたのは、渡辺さんが結婚式前夜に父親から言われた言葉。

「《家ではたくさん会話をしろ。会話というのは聞くことなんだ》と。その通りで、まずは相手の心を知るところから関係は始まる。僕もこの本を通して多くの彼の言葉を聞かせていただきました。彼が講演会などで人生や子育てについて語った内容をまとめた一冊ですし、彼の人柄や生き様がここに凝縮されていて。今は“もっと仲良くなりたかったな”という思いより、“いい友達ができた”という気持ちでいっぱいですね」

 同じ時代を生きてきた役者仲間。その存在は「とてつもなく大きく、愛おしくもある」と船越さん。が、現在演じている熱護大五郎は、少々仲間とは呼び難い存在。かつて「二時間サスペンスの帝王」と呼ばれながら、今は仕事のない崖っぷちの男だ。

「どこかで聞いたことのある過去を持ってますよね(笑)。今回の企画は船越英一郎という役者を使って何ができるだろうというところから始まったものでした。もともとウェルメイドなコメディをしたくて役者を目指した僕としては、ようやく訪れたこの役を聞いて狂喜乱舞でした」

 頑固で口の悪さでも知られる熱護。しかし実は人情に厚く、俳優の仕事を誰よりも強く愛する一面も。

「彼の言葉にはハッとさせられるものが多くあります。《大事なのは視聴者に楽しんでもらうこと》《神は細部に宿る。役者の仕事は始まる前に始まってるんだ》という台詞は僕自身も大切に思っていること。そんな矜持を抱いた彼が再び返り咲く。また、周囲の人たちも巻き込んで、みんなが成長する。そうした再生を描いたドラマにしていきたいですね」

ヘアメイク:細谷千代子

ふなこし・えいいちろう●1960年、神奈川県生まれ。82年、俳優デビュー。民放5局すべてで2時間ドラマの主演を務め、「サスペンスの帝王」と呼ばれる。近年の出演作にドラマ『ひとりぼっち -人と人をつなぐ愛の物語-』『十津川警部の事件簿シリーズ』『赤ひげ4』『警視庁考察一課』『クロサギ』『混声の森』など。

あわせて読みたい

『テイオーの長い休日』

『テイオーの長い休日』

脚本:入江信吾ほか 演出:吉川鮎太ほか 出演:船越英一郎、戸田菜穂ほか 毎週土曜23:40〜東海テレビ・フジテレビ系にて放送中
●俳優・熱護大五郎は、かつて「二時間サスペンスの帝王」と呼ばれながら、1年以上仕事がなく長い休日の真っ只中にいた。そんな彼の前に新たなマネージャー候補が現れる。手腕を振るってきた彼女にも現場に復帰しなければいけない理由があり、雇用の条件として熱護の再起を約束する。