早見沙織さんが選んだ1冊は?「描き出される今を生きることの刹那が美しく、涙がこぼれてしまった」

あの人と本の話 and more

公開日:2023/6/15

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年7月号からの転載になります。

早見沙織さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、早見沙織さん。

(取材・文=立花もも 写真=干川 修)

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 最初に読んだのは学生時代。それからどれほど時を経ても、読み返すたび早見さんを号泣させるのが、江國香織の短編集『つめたいよるに』。

「刺さる物語はそのつど違います。今回、改めて素敵だなと思ったのは『夏の少し前』。女子校の中学に入学したばかりの主人公が放課後の教室でぼんやりしていると、いつのまにか未来にタイムスリップしてしまうという不思議なお話ですが、人生って本当に一瞬の積み重ねで巡っていくのだなということが感じられるんです。あんなに楽しかった学生時代も気づけば遠く、好きな人と結婚して幸せを嚙みしめていたら、今度は子どもの、そして気づけば孫の手を引いている。新鮮な表現で描き出される、今を生きることの刹那が美しく、涙がこぼれてしまったんです」

 たくさん本を読むタイプではないというが、何度も深く味わえる一冊との出会いがいかに尊いものか、早見さんはよく知っている。

「素敵な小説って、想像力を働かせようとしなくても、勝手に脳裏に映像が浮かんで、まるで自分がその時、その場所を生きているかのような気持ちになります。現実に何かを体験するのと同じだから、読むときの自分がどんな状態かによって感じ方が変わる。でも、心がぐわっと動かされることに変わりはなくて、その蓄積が声優としての表現力にも繋がっているんじゃないかなと思います」

 今を生きることの刹那に共鳴したのは、劇場版「美少女戦士セーラームーン Cosmos」に出演したからかもしれない。セーラー戦士にとって最後の戦いとなる今作、早見さんはセーラースターメイカー/大気光を演じた。

「ふだん照れて口にできないようなまっすぐな想いが、いかに尊いものなのかが伝わってくる物語ですよね。自分が自分として生きていく上で何を大事にしなくてはならないのか、私は子ども心に『美少女戦士セーラームーン』から学びました。大気光を含め、セーラースターライツの3人は確固たる信念の持ち主。火球皇女を守る使命だけでなく、未来のために何ができるのかを考え、おそれず敵にも立ち向かっていく。なんてカッコよくて美しいんだろう、と思いました。今作はシリーズ中で最もつらい試練がうさぎちゃんに襲いかかるし、特に後編は涙なくして観られないのですが、あのころ私が憧れて、人としての礎を築いてくれた物語が、今も変わらない輝きを放っていることが嬉しくて仕方なかったです」

ヘアメイク:樋笠加奈子 スタイリング:桶田圭織 衣装協力:U-013A Raglan Stack Shirt2万6400円/Uttrykk(info@uttrykk.com)、clip necklace L1万3200円/nanagu(info@nanagu.co.jp)、
SR-39 リング2万2000円/AGU(https://agu-acce.com)、ネックレス3万6300円/MASANA(https://masana-jewelry.shop)*すべて税込

はやみ・さおり●東京都生まれ。声優。アニメ『ONE PIECE』『SPY×FAMILY』『鬼滅の刃』など多数出演。歌手としても活躍し、今作で演じた大気光は表向きアイドルのため、劇中で歌う場面も。最新アルバムに『白と花束』。

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劇場版「美少女戦士セーラームーン Cosmos」

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声の出演:三石琴乃、野島健児、福圓美里、金元寿子、佐藤利奈、小清水亜美、伊藤 静、皆川純子、大原さやか、前田 愛、藤井ゆきよ、水樹奈々、井上麻里奈、早見沙織、佐倉綾音、林原めぐみ 原作・総監修:武内直子 公開日:前編6月9日(金)、後編6月30日(金)より全国公開
●アメリカに留学するはずだった衛は、うさぎの目の前で何者かに消滅させられた。そんなうさぎの前に新たな敵が出現し、衛と同じように仲間を次々と消されていき……。
(c)武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーン Cosmos」製作委員会