地獄のような日々を潤してくれたオールナイトニッポン。『あの夜を覚えてる』ノベライズに込められた深夜ラジオ愛と“忘れられない放送”を語る【小御門優一郎×山本幸久×石井玄インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2023/10/6

ひとりで聴いていても、孤独にさせない

――ところで、松坂は昔聴いていたラジオのことを鮮明に覚えている描写があります。このあたりも共感する読者が多いと思うのですが、皆様は記憶に残っている深夜ラジオって何かありますか?

小御門:有名な神回よりも、何でもないような回のちょっとしたくだりが頭に残ってるんですよね。その数秒間が、バーン!と思い出されたり。いま思い出したのは「オードリーのオールナイトニッポン」で、若林さんが「おーい、ぶっとばすぞ〜」って遠くから呼びかけるみたいに言うのに対して、春日さんが「なんで川向こうから言うのよ」ってツッコむノリ(笑)

石井:あったね。一時期、ずっとやってたね。(笑)。

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――山本さんはいかがですか?

山本:本当にどうでもいいようなことばっかり覚えていて。「中島みゆきのオールナイトニッポンで「家族の肖像」という家族に関するネタコーナーがあったんです。そこで紹介された「うちのお母さんが松田聖子の『フレッシュ、フレッシュ、フレーッシュ』のところを『せっせっせっー』と勘違いして歌う」というハガキで。別におもしろかったわけでもないんだけど、いまだに松田聖子さんの「夏の扉」を聴くたびに「せっせっせっー」だな、と(笑)。

一同:(笑)

――作中でも言及されていましたけど、ファンは特別な発表がある回やスペシャルウィークよりも通常回が好きだったりしますよね。

石井:毎週の放送はやっぱり日常なんですよね。ラジオの通常放送って日常を作ることだと思っていて、肩をぶん回した放送ってうまく行かなかったりするんですよ。日常をちゃんとやって、イベントやスペシャルウィークのような「非日常」がたまにあるというサイクルでラジオって続いていくものだと思うんです。

――石井さんはリスナーとして何か覚えている放送はありますか?

石井:僕もいま急に思い出したんですけど、伊集院光さんのラジオで、群馬県に後輩を連れてって、一緒に何かをやろうとした途端に車のドアをバタン! と閉めて走り出して置き去りにするという。それがいま、音しか聴いてないはずなのに、映像で頭のなかで再生されて自分でもビックリしました。

小御門:ラジオって映像で脳内再生されますよね。

石井:見えないから記憶に残る、っていうのはあるんでしょうね。現代は、写真や動画が撮り放題で「これは覚えておこう」という感覚がなくなっている気がするんですよ。ラジオは耳で聴いて頭のなかでイメージを膨らませる分、記憶に定着しやすいのかもしれません。

――改めて皆様にお伺いしたいのですが、深夜ラジオの魅力ってどんなところにあると思いますか?

山本:魅力というか、中学高校の頃に聴いたラジオが、いまも自分の核にあることが再認識できてよかったです。どうやら僕にとって、テレビや映画、演劇とはちょっと違う意味合いがあるみたいなんです。ラジオを聴くたびに40年前の記憶が蘇るというか、人生にラジオがあってよかったな、と。

小御門:最近だと今年の春、星野源さんがオールナイトニッポンのなかで、抗がん剤の治療をはじめるっていうリスナーのメールを読んだんですね。そうしたら「安易に『大丈夫だよ』とは言えないけど、いま、この放送を聞いてる何万というリスナーが、あなたのことを考えているということに思いを馳せてください」といった内容のリアクションをしていて。みんなひとりで聴いていても、孤独にさせないところが深夜ラジオのよさなんじゃないかと改めて思いましたね。

石井:僕はもう、ラジオの何がおもしろいのかわからなくなっちゃって(笑)。でも「あの夜」を通して、メール送って参加してくれたり、パーソナリティやスタッフの感情が揺れ動いているのを見て、SNSやチャットで一喜一憂してくれたり。そうやって作り手と聴き手がそれぞれ発信してみんなで一緒に作るのがラジオの魅力なのかもしれないと思ったんです。

石井玄さん

ずっと続きそうなラジオだって急に終わる

――最後に10月14-15日の次回公演「あの夜であえたら」について教えてください。

小御門:番組終了が決まっている、とあるオールナイトニッポンの最後の番組イベントが舞台になっています。「あの夜を覚えてる」ではリスナーだった視聴者は、今回はイベントの観覧に来たお客さんになります。深夜ラジオって、ずっと続くんじゃないかと思うような番組でも急に終わったりするじゃないですか。期待やプレッシャーとの折り合いがその裏側にきっとあって。作品全体としては「“好きなこと”の継続性」みたいなことがテーマになっています。

石井:前作はニッポン放送のなかに閉じこもったことにおもしろさがありました。でも、いまラジオってピンチなので、閉じこもってるばっかりじゃダメなんですよね。パーソナリティやスタッフ、リスナーたちが東京国際フォーラムという大きな会場に集まったら、きっと何か新しいものが生まれる気がして。アキレス腱を断裂した三四郎の相田さん以外はみんな縦横無尽に有楽町を走り回るので(笑)、楽しみにしていてください。

――ラジオがピンチだと仰いましたが、ラジオ好きを公言する人も増えていますし、オードリーさんの東京ドームイベントをはじめ、リアルイベントも規模がどんどんおっきくなっていいます。むしろ上り調子なのかなと思うのです。

石井:よくそういう風に言われるんですけど、そもそも儲かってたらこんなことやりませんから。ラジオの広告媒体としての価値は下がっていますし、減っていく売り上げをなんとか補填しなきゃいけないんです。『あの夜であえたら』、オードリーの東京ドームがコケたら会社が傾きます(笑)。ノーミーツも小御門くんも運命共同体です。

小御門:運命共同体の仲間に山本さんが入ってくださって(笑)。

山本:ありがたいです(笑)。

石井:そう。山本さんという、一緒に作品を考えてくれる頼りになる仲間がひとり増えたことが本当にありがたいんです。実際、小御門くんは小説で追加した設定やストーリーを続編に盛り込んでいます。

小御門:そうなんですよね。山本さんのおかげでシリーズ全体に厚みが加わったと思います。やっかいなことに巻き込まれちゃったと思っているかもしれませんが、もう乗りかかった船なので、これからも頼りにしています。

――今日はありがとうございました。『あの夜であえたら』も楽しみにしております。

小御門山本石井:ありがとうございました!

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