『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』『十年屋』の著者・廣嶋玲子の新作! ダークファンタジー『はざまの万華鏡写真館』刊行記念インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2023/11/8

はざまの万華鏡写真館
はざまの万華鏡写真館』(廣嶋玲子:作、橋賢亀:イラスト/KADOKAWA)

ここは、万華鏡写真館。大切な人に届ける写真。人生最後の記念撮影。未来の自分。過去の自分。現実ではありえない瞬間……。

どんな写真も、ぼく、リューにお任せください。さあ、どうぞ中に入って。あなたが「必要としている」1枚をお撮りいたしましょう。

ただし、その写真をお渡しするかわりに――、“あるもの”をいただきます。

「第3回“こどもの本” 総選挙」で第1位、アニメや舞台にもなり、文字通り「みんな読んでる」大人気シリーズ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズの著者・廣嶋玲子さん。2023年は「NHK全国学校音楽コンクール」小学校の部の課題曲を作詞したことでも話題となっています。勢いが止まらない廣嶋さんの最新作『はざまの万華鏡写真館』(KADOKAWA)の発売を記念してお話を伺いました!

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――道沿いの生け垣の間を抜けた先にある、小さな洋館。新作の舞台はそんな「写真館」ですが、舞台に選んだ理由を教えてください。

廣嶋玲子さん(以下、廣嶋):写真館で写真を撮ることは、特別な感じがあります。私自身、七五三や成人式などの際には写真館に行きました。その時の「特別な自分を撮る、特別な場所」という感覚は、今もはっきり覚えています。あの魔法のような不思議さを表現するには、やはり写真館しかないなと思いました。

――緑のトンネル、白と灰色のレンガ造りの古い建物、紫と白の花を咲かせるブルンフェルシア……想像するだけでドキドキワクワクするような「写真館」の描写に心を掴まれました。モデルになった建物や、イメージした場所などはあるのでしょうか?

廣嶋:私の家の近くに、小さくて古びた写真館があります。ブーゲンビリアの生け垣が見事で、花の時期になると、赤紫色の花がみっしり咲いて、目を引きます。でも、それ以外の時は目立たなくて、ついつい見落としがちなのです。そこがモデルとなりました。

――今や写真は、携帯電話やスマートフォンのおかげでとても「身近な」存在になっています。廣嶋さんは普段、どんな写真を撮ることが多いですか? 今までに撮った写真で印象的なものがあればお伺いしたいです。

廣嶋:やはりスマートフォンのカメラ機能が便利で、何かと使っています。よく撮るのは、家族の写真ですね。印象的なものは……「これぞ最高の夜桜! 花も盛りで、しかもバックには月!」と思って撮った桜の写真が、ピンボケしていてがっくりしたことでしょうか。

――主人公のリューという少年は、誰もが「美しい」と感じる顔、なぜか黒眼鏡で隠された目、歯車やぜんまいのついた洋服と、とても不思議で魅力的です。そしてまだ明かされていない秘密もあるのではと想像もしてしまいますが、リューの設定を決められる際に、どんなことを考えられていたのですか?

廣嶋:歯車やぜんまいというものが昔から好きで、スチームパンクファッションを着こなせるキャラクターを描きたいと思いました。リューの最初のイメージは、「体の中から時計のような音がする少年」です。

――リューの瞳の色が「万華鏡」のように、空色、月色、スミレ色と場面によって変わっていくのが非常に印象的です。先に触れたブルンフェルシアの「紫」「白」をはじめ、廣嶋さんの作品は「色」が非常に丁寧に描かれている印象がありますが、ご執筆の際に意識されていることはありますか?

廣嶋:はい。私は色彩の描写にはとても力を入れています。自分の頭の中にある風景や人物を、読んでくれる人にも「見て」もらえるようにするには、やっぱり「色」は欠かせません。

――表紙に描かれたリューはもちろん、リューが撮った写真もイラストになっていて、1枚1枚がとても魅力的です。イラストを描かれた橋賢亀さんとはこれまでもお仕事をされていらっしゃいますが、橋さんのイラストの魅力はどんなところでしょうか? また、本作のイラストをご覧になった時の印象はいかがでしたか?

廣嶋:橋さんのイラストは、繊細でありながら力強さを持ち合わせています。様々な色の重なり、キャラクターの複雑な感情を秘めたまなざしには、はっとさせられます。また、かわいらしい描写だけでなく、時にぞくっとするような「闇」を描かれるところに、これまたたまらなく魅力を感じます。カバー絵のリューを拝見した時は、「これこそリューだ!」と、拍手を送りたくなりました。

――本作の最大のポイントは、リューが、お客さんが「必要とする」写真を撮ってくれるところだと感じました。この設定はどのように思いつかれたのですか?

廣嶋:写真館に行く人の願いは、「今現在の自分を保存したい」だと思います。その願いに、もう一歩踏み込み、「必要」というキーワードを組みこんだらどうなるか。そう考えたら、どんどん物語が浮かんできました。

――ではもし廣嶋さんが「万華鏡写真館」を訪れたら、どんな写真を撮ってほしいですか?

廣嶋:スレンダー体型になった姿を撮ってもらいたいです! 過去、現在にいたるまで、ずっとどすこい体型なので。たぶん、未来もそうでしょう……。

――最後に、読者の方へのメッセージをお願いいたします。

廣嶋:『はざまの万華鏡写真館』には、様々なお客がやってきます。彼らに自分を重ねたり、あるいは自分が撮ってもらいたい写真を思い浮かべたりして、『万華鏡写真館』の世界に浸っていただけたらと思っています。


ひろしま・れいこ
©jyajya

ひろしま・れいこ●作家。『水妖の森』(岩崎書店)で、ジュニア冒険小説大賞受賞。主な作品に、「おっちょこ魔女先生」シリーズ、『こちら、ハンターカンパニー 希少生物問題課!』(すべてKADOKAWA)、「魔女犬ボンボン」シリーズ、『神様ペット× 幸運のノラネコ』『世界一周とんでもグルメ はらぺこ少女、師匠に出会う』(すべて角川つばさ文庫)、『送り人の娘』『火鍛冶の娘』(ともに角川文庫)、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ(偕成社)、「十年屋」シリーズ(静山社)、「鬼遊び」シリーズ(小峰書店)がある。

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