「ランキングに入らないような本もおすすめしたい」。子どもに本を寄付できる「ブックサンタ」、大型書店の強みとは?〈ジュンク堂書店インタビュー〉

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/11/21

 さまざまな事情で大変な境遇にいる子どもたちに、書店で購入した新刊の本を届ける「ブックサンタ」という試み。2017年から始まったこの活動に、現在参加している書店は1,683店舗。過去6年間で累計14万435冊の本が子どもたちに届けられている。主催のNPO法人「チャリティーサンタ」の想いに共鳴し、ジュンク堂書店も2019年から毎年参加。池袋店で児童書を担当し、ブックサンタにも取り組む山﨑瑠美さんに、その想いを伺った。

(取材・文=立花もも)

山﨑瑠美さん

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――山﨑さんは、2019年から毎年、ブックサンタのためにセレクトした絵本棚もつくっているんですよね。

山﨑瑠美さん(以下、山﨑):今年の取り組みの期間は9月23日からの開始ですが、10月にはハロウィンもありますので、例年本格的にプッシュしはじめるのは11月から。でも、今年は開始日当日に「ブックサンタの本を買いたいんだけど」とご来店してくださるお客さんがいて、驚きました。毎年必ず棚をつくっているおかげか、少しずつだけど、着実に浸透しているんだなと。

――やっぱり、絵本を購入される方が多いんですか?

山﨑:そうですね。サンタさんからプレゼントをもらうのって、だいたい未就学児や小学校低学年までがじゃないですか。参加される方もそのイメージが強いのか、絵本や図鑑を選ぶ方は多いです。でも、小説で何かお薦めはありますか、と聞いてくださる方もいますよ。とある作家さんは著作を自分で買って寄付してらっしゃいました。自分の本を、子どもたちに読んでもらえたら嬉しいから、って。

――子どものためになるかとか、読ませていい本かどうかとか関係なく、純粋に読んでほしい本をプレゼントできるのもブックサンタのいいところですよね。

山﨑:本も安くはないですし、今は大人たちでさえ、本を買うということに躊躇しがち。ふだん、児童書コーナーにいらっしゃる親御さんも、お子さんが興味を示した本を「図書館で借りようね」と帰っていくことが、昔より増えたような気がします。どうせ買うならタメになるものを、と思われるみたいで、絵本や物語はなかなか購入に繋がりにくい。だから、みんなが読んでいる人気の本でも、親が読んでほしい本でもない、誰かが「おもしろいよ」とすすめたくて買った本が子どもたちの手に届くのは、すごくいいなと思います。

――古本ではなく、新刊をプレゼントするっていうのも、いいですよね。

山﨑:そうなんですよ。確かに図書館でも本は読めるけど、手元にずっと置いておける自分だけの本ってやっぱり特別じゃないですか。「この本を、自分の好きなように、好きなときに読んでいいんだ」と思えることは、子どもたちの心にゆとりを生むきっかけの一つになるんじゃないかと、個人的には思います。

――なるほど。ゆとりがあるから本を読むのではなく、本をもらうことでゆとりが生まれる。

山﨑:読まなきゃいけない、ではなくて、この本を読んでみたいなと思ったら、おのずとそのための時間をつくろうとするじゃないですか。別に、素敵な空間をしつらえなくてもいいんです。私自身、仕事と関係なく自分で選んだ本を読むときは、たとえ電車で移動中の短い時間でも、心にちょっと隙間をつくって、楽しもうとしている気がするんです。だから、子どもたちが「本を読みたい」と思うことそれじたいが生み出すものがあるんじゃないのかな、と。

山﨑瑠美さん

――山﨑さんは、子どもの頃に本を読むことで救われた経験はありますか?

山﨑:具体的に何があったわけではないんですが、魔法使いや海賊が出てくるような、ここではないどこかに連れて行ってくれる物語は好きで読んでいました。結果的に何かのタメになったり、学んだりしたことはあるかもしれないけれど、純粋に心から「おもしろい」と思える。その経験は、ものすごく大事だったんじゃないかと思うんです。わからない言葉があったら調べて、急展開を見せたら何度も読み返して、反芻しながら時間をかけて楽しむ時間は、子どもたちにぜひ味わってほしい。

――大人になってからも、児童書は好きだったんですか?

山﨑:いえ、全然詳しくなくて、担当になってから改めて読むようになりました。子どもの本って、すごいんですよね。大人になった私の視点では「これの何がおもしろいの?」と思うようなことも、全部、ちゃんと子どもたちの琴線にひっかかるように、練られてつくられている。一見、意味のなさそうな言葉でも、音として味わうのが楽しくて、つい口にしてみたくなったり。

――まさに、その時間は「ゆとり」ですね。

山﨑:だと思います。ブックサンタをきっかけにお店にきてくださった方が、自分が子どもの頃に大好きだった本に再会したり、今はこんな本があるんだと興味を持ってくださったり、改めて児童書に触れるきっかけになってくれているのも、見ていて嬉しいですね。

――今年はどんな本をセレクトしたんですか?

山﨑:今年は、ブックサンタの本部が、小学生向けの推薦図書リストをつくってくださいまして。絵本もいいんですけれど、読み物ももっと普及したいよねということで、物語も多めに選んでいます。たとえば『銀杏堂』(橘春香/偕成社)は、小学1年生の女の子が骨董屋のおばあさんに出会い、おばあさんが集めてきた幻の品にまつわる冒険の話を聞くというもの。その一つひとつが波瀾万丈で、おとぎ話のようでもあり、おもしろいんですよね。私が子どもの頃に好きだった『エルマーのぼうけん』や『魔女の宅急便』など、いわずとしれた名作たちも、もちろんおすすめしたくはあるんですが、ふだん児童書を読まない人たちは知らないような物語を、できるだけプッシュしていきたいなと思っています。

――『銀杏堂』、おもしろそうですね。一冊のなかにたくさんの話が詰まっている、というのもいい。

山﨑:わくわくしますよね。だから、たとえば宮沢賢治の本でも、私は短いお話がいくつも収録されているようなものを選びたいんです。それと、イラストが入っているもの。『銀杏堂』は装丁も中も素敵なんです。イラストがあるほうが想像する手助けをしてもらえるし、子どもたちにとっては読みやすいと思います。あとは、読み物ではないのですが、『世界一楽しい 遊べる鉱物図鑑』(東京書店)。図鑑=勉強のイメージがありますけど、遊べるっていうのがいいなと。

――最近は、切り口のおもしろい図鑑も増えていますよね。

山﨑:そうですね。『ざんねんないきもの事典』なんかは、子どものために本を買いに来たはずの大人たちも興味を惹かれている印象です。そういう出会いがあると、ブックサンタに関係なく、また書店に足を運ぼうと思ってくださるみたいで。ありがたいことに、ブックサンタを始めてから、児童書全体の売り上げも増えています。ブックサンタに限らず「プレゼントするにはどういう本がいいでしょう」と声をかけてくださる方も増えていて、垣根が低くなっているのもいいのかな。

ジュンク堂書店

――ちなみに、ブックサンタ全体の売り上げはどれくらいなんでしょうか。

山﨑:池袋店は、去年は1,748冊でした。

――そんなにもたくさんの人が、直接の知り合いではない子どもたちのために本を買う、ってすごいことですね。

山﨑:自分にできることをしたい、と思っている人はたくさんいるんだと思うんです。でも、たとえばお金を寄付するとなると、実際何に使われるのかわからなかったり、信用できる機関を選ぶのが難しかったりもする。でも、ブックサンタは、自分がおもしろいと思った本、読んでほしいと思った本が、子どもたちの誰かに必ず届けられる。参加したお客さんの想いと一緒に。それがいいんじゃないかな、と思います。

――読んでもらうための本を選ぶのって、楽しいですしね。

山﨑:購入してくださる方に、お礼を言われることもけっこう多いんですよ。「参加できてよかったです」って。その本にまつわる自分の思い出や、この本を読んだら夢中になるんじゃないかなという願いを、参加する人はまっすぐこめているんだな、と思います。子どもたちのためでもあり、自分のためでもあるっていうのは、素敵ですよね。だから、希望する人には、お手紙を添えることができるしくみがあってもいいんじゃないかなと思っています。本を読んだ子たちの感想をもっと聞く機会があったらいいのにな、とも。

――山﨑さんが、取り組みをする側として、意識していることはありますか?

山﨑:できるだけ、にこやかにしてなきゃいけないなと。クリスマスもあるので、年末の児童書売り場は1年でもっとも忙しく、スタッフはみんな切羽詰まっていることが多くて(笑)。せっかくお客様からいただく優しい気持ちを、私たちも受け止められるよう、余裕を持ちたいなあと思っています。ブックサンタをきっかけに、はじめて児童書売り場に来たお客さんが、怖がって逃げちゃわないように(笑)。

――(笑)。

山﨑:あとは、大型書店の強みをいかして、先ほども言ったように、みんなが知っている名作以外の本もおすすめしていきたいなと思います。もちろん、まわりのみんなが読んでいる本を自分も読みたい、という気持ちも子どもたちにはあると思うので、ベストセラーを届けることも重要だとは思います。そういう本は、図書館でも順番待ちが多くて、読める時にはブームが去っているということもありますからね。でも、せっかくうちの書店には、多種多様な本があるのだから、いわゆるランキングに入らないような本もおすすめしていけたらな、と。

山﨑瑠美さん

――山﨑さんは、ブックサンタのバッジを胸元につけていらっしゃいますが、そういう方にはどんな本を買えばいいか、ご相談してもいいんですよね。

山﨑:もちろんです。つけていない人にも、声をかけていただいてかまいません。どんな本をおすすめしたいのか、お客様ご自身がどんな本がお好きなのか、いろんなお話をうかがったうえで一緒に選べたらと思っています。もちろん、ブックサンタ以外のときも。逆に、自分からブックサンタに参加しますと言いづらいときは、「参加しますカード」を置いているので、レジで出していただければそれだけで大丈夫です。他の書店さんが実施していた取り組みを真似させていただいたのですが、できるだけ多くの方たちに気軽に参加していただいて、一人でも多くの子どもたちに本を届けられたらいいなと思っています。

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