『それいけ! 妖怪旅おやじ』刊行記念座談会 村上健司×多田克己(+編集R)【お化け友の会通信 from 怪と幽】

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/7

妖怪を通じて旧知の仲にある三人のおやじが、妖怪伝説を訪ねてあちらこちらを旅してまわる――。
『怪と幽』の連載をまとめた単行本『それいけ! 妖怪旅おやじ』は、そんなおやじの旅の記録になっている。ふざけつつもマジメに妖怪と付き合うおやじたちは、今までの取材で何を感じ、今後は何処へ赴くのだろうか!?
著者の二人に加えて、毎回の旅に同行した『怪と幽』編集長のRも参戦して旅を振りかえる。

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構成・文:レオ☆若葉
写真:内海裕之



写真左から多田氏、編集R、村上氏。

おやじたちの旅を振りかえって

村上:企画発案者として単行本の出来はどう? 単行本に収録された14回分の連載で、当初の思惑からはずれちゃったなあとか、こういうことができなかったなあとか、そんな話でも。

編集R:おかげさまで最高に面白い本になりました。思惑と違った部分でいうなら、新型コロナの影響で、連載中は自由に取材ができなかったことです。近場にしか行けないという制約は厳しかった。あとは連載1回分にしては内容を詰め込みすぎちゃった部分もあるかもしれませんね。

村上:ホントだよ。詰め込みすぎ(笑)。

多田:コースの近場だからといってかなり寄り道したからね。

編集R:それでも、こういう旅ものの妖怪本は最近あまりないですし、充実した内容になりました。

村上:
コロナ禍で遠くには行けなかったけど、コロナ禍って縛りがあることで、頭をひねれば近場でも面白い取材ができることが分かったし、自分的には得るところが多かったんだけどね。

編集R:単行本に収録されている「房総半島の天狗を訪ねる」もそうですし、「江戸の七不思議の妖怪部分だけを訪ねる」も近場で工夫していただきました。

多田:千葉県での天狗は意外すぎたよ。天狗信仰と関係のある修験道場もいくつかあった。

編集R:多田さんは後書きで、房総半島の天狗について「勉強になった」と書いていますよね。

村上:多田さんの後書き、修正前の原稿を読ませてもらったら、行きたいところに行かせてもらえないとか、待ち合わせ場所までの交通費がかかりすぎるとか。さすがに編集Rもへこんでた(笑)。

編集R:そりゃあそうです。「多田さん、もしかしてこの企画はやりたくないのかも……」って、悲しくなりましたよ。

多田:(爆笑)。妖怪についてはコラムにしっかり書いたけど、個人的な感想が書けなくてナーバスになっていた。

編集R:あのままでは読者だって後味悪いだろうし、さすがに直してもらいましたけど。

村上:本当はイヤなの? 『妖怪旅おやじ』の取材?

多田:そんなことないよ(笑)。

編集R:この企画がいいなと思うのは、定番スポット以外にも行くところ。九尾の狐がテーマのときに、那須の殺生石というメジャーなスポットに行きましたけど、それ以外にも福島県まで足をのばして、あまり知られていない殺生石を何カ所も巡りましたし。

村上:九尾の狐の取材は、訪ねる場所が増えたかもしれなかったんだよな。会津の伊佐須美神社の権禰宜さんから教えてもらった殺生石の中には、我々も知らなかった場所があったからなあ。

多田:あと5、6カ所は増える可能性があったよね。

編集R:現地を訪ねると、ネットや書籍で調べただけじゃ出てこない情報が手に入りますからね。酒吞童子がテーマのときにも、現地だから知り得た情報があったじゃないですか。

多田:単行本のコラムにも書いたけど、僕はずっと平安時代に成立した鬼門のことを調べていて、新潟にある国上寺と酒吞童子は比叡山の鬼門の信仰に関わりがあるんじゃないかなって思っていた。国上寺でお寺の方に話を聞いたらそれがドンピシャ。資料を読むだけじゃ分からなかったよ。

編集R:岩室民俗史料館で酒吞童子が生まれた屋敷跡の場所も特定できましたし。

多田:あれは史料館に行かなかったら絶対に分からなかった。完全に行き当たりばったりだったから(笑)。

村上:やっぱり現地に行かないと分からないことってあるね。今はネットで地元のことを熱心に調べて書いている人もいるけど、それでも我々が知りたい情報が網羅されているとはいえないし。

おやじたちの“旅”はこんな感じ

村上:ここからは自分の“旅”を語ってみるのはどうだろう。妖怪関係じゃなくてもいいし。最後に自分の旅をひと言で表現する│とか無理難題をいってみたり。

編集R:僕の場合、編集者になる前からお二方と一緒にあちこち出かけていましたよね。

多田:出会ったころは学生だったもんね。仕事じゃないから気楽だった?

編集R:以前から割と妖怪が好きだったので、家族旅行とかプライベートで出かけたときに、空き時間を利用して妖怪や伝説に関連する場所まで足をのばしたりしていましたよ。

多田:ホントにぃ?

編集R:本当ですよ(笑)。妖怪スポット巡りもそうですけど、基本的に知らない場所を歩くのが好きなんです。ひと言でいうなら、知らない文化に触れたいってことですね。妖怪に限らず、郷土料理とかご当地のものって、現地に行かないと分からないじゃないですか。

多田:僕は神社と寺の研究をしていたので、聖地巡りをよくしていた。
式内社っていって、平安時代の『延喜式』に書かれた神社に行くことをライフワークにしていたし、あとは御神体の山に登ったりとか。そのあとに妖怪と聖地巡りがセットになった感じ。ひと言で表すなら、「異界探し」みたいなもんですよ。古墳時代とか奈良・平安時代という古くから続く伝説は、石碑、古墳、御神体山、それから磐座が残っていることがある。そういう、歴史はあるんだけどあまり人が行かないところに行くのが好き。

村上:なるほどなあ。自分も二人と同じで、多田さんのいう異界探しもそうだし、編集Rの知らない文化に触れたいというのもある。とにかく知らない場所、知らない文化、見たこともない景観を目の当たりにして、興奮したいんだと思う。だから、自分の場合はただの観光旅行も聖地巡りも妖怪スポット巡りも、同じような感覚。妖怪伝説探訪でいうと、伝説の場所とか物を自分の目で確認したいというのがあって、触ってもOKな物ならば触って、土地の雰囲気を味わいつつ「昔はここにこんなお化けが出たのかぁ」と夢想するわけ。

多田:知りたいだけじゃなくて、体験したいんだね。

村上:自分の旅をひと言でいうと「興奮したいから」ということになるけど、それだと誤解されるから、脳みそに刺激を与えて活性化させる手段の一つといっておきます(笑)。

おやじたちの行ってみたいところ

村上:『妖怪旅おやじ』の行き先って、基本は多田・村上が行きたい場所ってことになっているけど、『怪と幽』の特集に合わせるとか、編集Rが決めることもあるじゃんか。

多田:僕が行きたいといって採用されたのは、新潟の酒吞童子と茨木童子だけだよ。

編集R:そうでしたっけ(笑)。

村上:だからここで、今後行ってみたい場所を出し合ってみよう。自分はベタベタクッゾコって妖怪のいい伝えがある福岡県大川市と、あとは石川県に猿神退治みたいな話に出てくる猿神の祠があるみたいなんで、そこにも行ってみたい。

多田:実現が難しいけど、沖縄で妖怪日(*ヨーカビー。旧暦8月8日から15日ごろに行われる民間行事)のときに火の玉が上がって、昔は櫓を建てて見物したっていう話があって。

村上:そういう観測会みたいなの、今もやっているの?

多田:もしやっていたら行きたい(笑)。それから鹿児島の悪石島。ボゼ(*盆行事の最後に登場する来訪神の一種)を見たいね。

編集R:僕はもう一度台湾に行きたい。『怪と幽』3号で台湾を特集したとき、本当は『妖怪旅おやじ』で行くつもりだったんです。でも多田さんは来れなかったじゃないですか、直前にパスポートなくして。あとは釣りに行きたい。

多田:釣りに!? 佐渡島で臼負い婆でも釣る?

編集R:釣りと妖怪がテーマだと、訪ねる先はどこになるんでしょうね。長崎の平戸とか?

村上:平戸だと船幽霊関係!? 月末とか年末とかお盆とか、海に出てはいけないという日にわざと出かけて妖怪出現を待つとか、そんな地元の人にイヤがられるネタならできそうだけど……。編集長が「今回は釣りがテーマです!」って強くいうなら、それはそれで案を考えますよ?(笑)。

編集R:できませんか? それにしても、行きたい場所には結構行けていますよね? 伊豆大島に福島に……。あ、思い出した。みんなでナマハゲ検定を受けに行きましょうよ!

多田・村上:ケンテイーッ!?

編集R:ナマハゲ伝導士認定試験だったかな? そういう検定があるんですよ。試験を受けて、さらに秋田の伝説地を巡れば。

村上:こんな感じで行き先をぶっこんでくるんだよな(笑)。

多田:勉強しなくちゃ……。

「ダ・ヴィンチ」2023年12月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載

プロフィール

村上健司(むらかみ・けんじ)
1968 年、東京都生まれ。ライター。日本全国の妖怪伝承地を巡る趣味が高じて文筆家となる。編著書に『妖怪事典』『日本妖怪大事典』『日本妖怪散歩』『手わざの記憶』『怪しくゆかいな妖怪穴』『がっかり妖怪大図鑑』「10 分、おばけどき」シリーズなど。

多田克己(ただ・かつみ)
1961 年、東京都生まれ。作家、妖怪研究家。カルチャーセンターにて妖怪学に関する講座の講師を務めている。編著に『竹原春泉絵本百物語 桃山人夜話』『暁斎妖怪百景』『妖怪図巻』、著書に『百鬼解読』、村上健司らとの共著に『ひどい民話を語る会』など。

編集R
お化け好きに贈るエンターテインメント・マガジン『怪と幽』編集長・似田貝大介のコードネーム。お化け好きおやじとして『それいけ! 妖怪旅おやじ』の取材には毎回同行している。

書籍紹介

『それいけ! 妖怪旅おやじ』
村上健司、多田克己
鬼のスーパースター・酒呑童子と茨木童子の出生地を探して新潟へ。高い山が少ない房総半島で、あえて天狗を訪ねる。『稲生物怪録』の舞台・広島には京極夏彦氏も参加。九尾の狐と殺生石を求めて栃木と福島へ――。一喜一憂しながら「妖怪馬鹿」が各地を廻る。村上健司による探訪記&多田克己による解説で、ゆるく、深く楽しめる!

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怪と幽紹介

2023年12月22日発売予定
『怪と幽』vol.015
特集 怪と湯
小説:京極夏彦、小野不由美、有栖川有栖、恒川光太郎、山白朝子、澤村伊智
漫画: 諸星大二郎、高橋葉介、押切蓮介
公式X(旧Twitter) @kwai_yoo
https://www.kadokawa.co.jp/product/322201000344/