連載＆単行本執筆秘話　様々な実験といたずらを仕込んだ『僕が愛したMEMEたち』

『メタルギア』ファン必読！
監督に影響を与えたMEMEがこの1冊に凝縮

――新刊単行本『僕が愛したMEMEたち』には、これまで監督が読んできた本がいかに作品づくりの中に遺されているかを語られています。また、紹介する本に合わせて文体や一人称表現を変えたり、監督自身のエピソードが内容と絶妙にリンクしていたり。それらを読み取っていくと、さらに本書を読む楽しさが増します。

小島　そこを読者に気がついていただけるとうれしいですね。語り口もまたMEMEなんです。僕がその作品をどう読み、どう語るのか。文章であっても、実際に会って話すときであっても、そこにはその本のMEMEと伝える人のMEMEの両方が掛け合わされています。そうやって物語のMEMEは時代や距離を超えて伝播していくんですね。今、僕たちが住むリアルな世界は沈滞しています。日本と日本人にエネルギーが足りなくて、どんどんダメになりつつある。だからこそ、今、エネルギーを与えてくれる物語（MEME）が必要。『僕が愛したMEMEたち』には僕に創作へのエネルギーを与えてくれた、本と映画と音楽にまつわるエッセイが所収されています。これらの作品と出逢えたから、僕はこれまで生き続けてこられたし、ゲームデザイナーになったといってもいいです。

――本書、特に第4章の「小島秀夫のMEME　次の世代に何を遺せるのか。何を伝えるのか」には全世界大ヒットとなったゲーム『メタルギア』シリーズのMEMEが語られています。これはファン必読ですね。

小島　所収エッセイそれぞれにその作品と僕がゲームデザイナーという創作の仕事とのつながりが書かれているので、読んでいただけるとうれしいですね。過去の作品だけでなく、今、話題の本やコミックも取り上げています。その作品が僕の中に遺すMEMEはストーリーだけではありません。創りたいものを「どう表現するか」。文章や映像のスタイル、事象の切り取り方もまたMEMEなんです。MEMEというと文化遺伝子、模倣子と日本語に訳されているので狭い意味で捉えられる傾向がありますが、僕はMEMEが指し示すものはもっと広いと考えています。人間を含め多くの生物が自分のDNAのコピーを次世代に受け継いでいく。MEMEとは物理的な確定はできませんが、私たちを取り巻くあらゆるものに宿っています。そして僕のゲームや原稿には、これまで触れてきたあらゆる創作物のMEMEと僕のMEMEが含まれていて、次の世代に受け継がれていきます。これは何もクリエイターに限られてはいません。みなさんひとり一人の言葉や行動、意志の中にMEMEがある。そのMEMEには、青臭い意見かもしれませんが、世界をいい方向に変えていく力がある。だからもっと本を読んでほしいし、本だけでなく映画、音楽、コミック、そしてゲームとあらゆる物語に触れてほしい。そして、たくさんのMEMEを取り込んで、自分のMEMEと掛け合わせて、前に進んでいこう、と。

――第3章の「Creators, Cross the Border　開拓者クリエイターとのMEME対談」は、まさに創作者たちのMEMEの遭遇を体験できる対談です。他に、今ではなかなか読めない『papyrus』（幻冬舎刊）での連載も所収され、内容の濃い1冊ですね。

小島　これまで書いてきた原稿をようやく1冊にまとめることができて、よかったです。第3章の対談では『プリンセス・トヨトミ』の万城目学さん、『こびとづかん』のなばたとしたかさんら、対談してくださったクリエイターから刺激を受けました。本が好きな人、ゲームが好きな人、創作をしたいと思っている人、そして時には生きることや前に進むエネルギー不足になる人は、ぜひ本屋で手に取ってみてください。この本の向こうに、まだ知らない物語世界への扉がたくさんあるはずです。やっぱり物語は僕らにエネルギーを与えてくれるんですよ。

取材・文＝東海左由留（SCRIVA）　写真＝鈴木慶子　ヘアメイク（小島監督）＝古賀寛基

【特別企画1】本がないと、生きていけない。そんな監督があなたに伝える、人と世界を変える物語＝MEME
【特別企画2】ゲームも小説も、MEMEは未来へと伝えるバトン

シリーズのMEMEを受け継ぐ、新しいメタルギア
『メタルギア ライジング リベンジェンス』

長谷敏司さんが小島監督からMEMEを引き継いで新たな「メタルギア」を書くように、また違ったかたちで監督のMEMEを受け継ぎ、生まれたゲームがある。2月21日に発売された『メタルギア ライジング リベンジェンス』（以下『MGR』）。本作は『メタルギア ソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』（以下『MGS4』）から4年後の世界を舞台に、『MGS4』ではサイボーグとなり登場した「雷電」を主人公とし、サイボーグ対サイボーグの人智を超えた戦いを描く。シナリオおよび設定監修は小島プロダクションが担当するが、数々のアクションゲームを手がけてきた「プラチナゲームズ」が開発したアグレッシブかつ壮快感あふれるアクションは、まったく新しい「メタルギア」と言えるだろう。

『METAL GEAR RISING REVENGEANCE』
KONAMI　アクション　PlayStation®3
パッケージ版：6980円／ダウンロード版：6480円　2月21日発売
(c)Konami Digital Entertainment Developed by PlatinumGames Inc.