ここがホラー小説の最前線! 『領怪神犯』木古おうみ×『対怪異アンドロイド開発研究室』饗庭淵 カクヨムWeb小説コンテスト受賞者対談

文芸・カルチャー

更新日:2024/1/9

今、カクヨム発のホラー作家が熱い! 最先端アンドロイドが怪異に挑む野心作『対怪異アンドロイド開発研究室』で、第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞を受賞した饗庭淵さんも、注目の“カクヨム勢”の一人。同賞の1年先輩で「領怪神犯」シリーズが話題の木古おうみさんとのスペシャル・ホラー対談をお届けします。

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構成・文=朝宮運河

『領怪神犯』木古おうみ×『対怪異アンドロイド開発研究室』饗庭淵 カクヨムWeb 小説コンテスト受賞者対談

ゲームや海外ドラマの要素を盛り込んだ
『対怪異アンドロイド開発研究室』

木古おうみ(以下、木古):特別賞受賞おめでとうございます。饗庭淵さんの『対怪異アンドロイド開発研究室』、とても面白く読ませていただきました。

饗庭淵:読んでいただきありがとうございます。

木古:人智の及ばない怪異と科学の結晶であるアンドロイド、そのふたつを組み合わせてホラーになるのかな、というところがあったのですが、見事にホラーになっていましたね。アンドロイドを主人公にしてホラーを書こうと思ったのは、どんな理由があったんでしょうか。

饗庭淵:ホラーは主人公のリアクションで恐怖を表現することが多いと思うんですが、まったく怖がらないアンドロイドが主人公だったらどうなるだろうと思いついたんです。しかもホラーのお約束を逆にして茶化すのではなく、ちゃんと怖いホラーにできたら面白いかなと思いました。

木古:饗庭淵さんがゲームを作っていらっしゃるからというのもあるんですが(※饗庭淵さんはゲームクリエイターとしても活躍中)、ホラーゲームを連想させる書き方だなと思いました。ゲーム内で怖がっているキャラクターを一歩引いた視点で見ながら、「後ろ、後ろ!」とプレイヤーが言いたくなるのに似ています。ホラーゲームに親しんでいる人なら、「ここにこれがあったら、こうなるよね」というお約束を楽しめるし、ある意味すごく読者を信頼した書き方をされている作品ですよね。

饗庭淵:ホラーゲームを何作かやっていると、お約束のパターンが見えてきますよね。その一歩引いて楽しむ感覚と、プレイヤー自体が感じる怖さを共存させたいなという狙いはありました。でも実はゲームっぽさについてはそこまで自覚的じゃなくて、むしろ意識したのは『X-ファイル』などの一話完結型の海外ドラマなんです。毎回ある程度までは真相に迫ることはできても、謎を残したまま終わるタイプのホラードラマですね。ウェブで連載するにあたって、見せ場を何回か作る必要があったので、『X-ファイル』のような連作短編形式が参考になりました。

木古:舞台も心霊スポットの廃村だったり、「きさらぎ駅」のような異界駅だったり、都市部のビルだったりとバラエティ豊かで、確かに一話完結ものの海外ドラマの面白さがありました。この作品、アリサ視点の怪異調査シーンも怖いんですが、それを支える研究者たちのパートもすごくいいんですよね。新島ゆかりという大学生の主人公は、怖がりだけど意外に胆力があって、怪異に遭遇しながらも逃げない。白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』のヒロインの市川さんをちょっと思い出しました。

饗庭淵:その喩えは嬉しいです(笑)。新島ゆかりは連作の軸になるキャラクターとして作ったんですが、意外に好きかも、と書きながら感じていました。

木古:アリサを開発した白川教授も気になるキャラクターですよね。人智を超えたものを誰より恐れているからこそ、それを躍起になって否定して、一層科学にすがろうとする。そういう二面性が感じられて、過去に何があったのか知りたくなります。

饗庭淵:この世には科学で解明できないものはないだろう、という科学万能主義的な気持ちは、僕の中にもあるんですが、その世界観を保つためには怪異を科学で解明し続けなければいけない。教授のベースには、怪異に対する深い怯えがあるんです。

木古:アンドロイドと怪異という両極端の世界があって、人間はどちらにも踏み込むことができない。その微妙なバランスが、印象的なドラマを作り上げていると思いました。

人智を超えた存在との共存を試みる
『領怪神犯』

饗庭淵:人智が及ばないといえば木古さんの『領怪神犯』もそうですよね。公的組織のメンバーが〈領怪神犯〉と呼ばれる現象を調査していきますが、相手は神様なので倒すこともできず、経緯を見守るしかない。日本各地に異形の神々がいるという設定は、どうやって思いついたんですか。

木古:当初はもうちょっと日本神話的な神様をイメージしていたんですが、それだとネタを広げるのが難しいことに気づいて、もっと得体の知れない存在にしてみました。怪物っぽいものが神と呼ばれているのは、クトゥルフ神話の影響もありますね。

饗庭淵:主人公コンビが人智を超えたものに遭遇して、「あれは何だったんだ」と呆然として終わるというエピソードが多いですが、一話ごとにしっかり衝撃の展開が用意されていて、読み応えがあります。

木古:ありがとうございます! そこは映画などの三幕構成を参考にしていて、序盤で問題が出され、中盤でそれが解かれて、最後にもう一回ひっくり返しがある、という書き方をするように心がけています。

饗庭淵:取り扱いに気をつければ安全なんだけど、一歩間違うと大変なことになる。理解できる部分と未知の部分が混ざり合っている怪異の描かれ方がすごく好みでした。SCPっぽい雰囲気も感じましたね。

木古:そこは『ソラリス』などを書いたSF作家のスタニスワフ・レムの影響も大きいと思います。レムは人間の理解が及ばない領域があるということを、異星人とのファーストコンタクトなどの形でくり返し描きましたよね。

饗庭淵:レムは僕も好きな作家です。レムはSFにおける異星人とのファーストコンタクトは3つのパターンに分けられると言っています。人類と異星人が協調する、人類が異星人を侵略する、あるいは異星人が人類を侵略する。でもこのどれにも当てはまらず、結局コミュニケーションが取れずに終わっちゃうこともあるんじゃないか、という発想がレムにはある。この感覚に惹かれるんです。

木古:コロナ禍の影響もあって、個人の手に負えないものの存在がリアルに感じられる時代です。理解できてもできなくても、共存するしかないという感覚は、現代のホラーのキーポイントかもしれないですよね。

饗庭淵:人柱を扱った『領怪神犯2』の「すずなりの神」など民俗学的なネタも多いですが、その手のものもお好きなんですか。

木古:好きですね。ただ民俗学の資料を読んでいると、不気味に見える風習にもきちんとした理由があることが多いんですよ。それをそのまま書いたのではホラーにならないので、風習の裏に人間の生活があり、そのさらに奥には人智を超えたものがある、という三段構えで作るようにしています。

饗庭淵:それにしても1巻と2巻で主人公が変わるので、読んでいて驚きました。

木古:(笑)。主人公の交代には不安もありました。読者さんを戸惑わせてしまうんじゃないかなと。3巻では1巻のメンバーが再登場することになっています。

饗庭淵:2巻でこの世界の過去が語られたことで、1巻のキャラクターもさらに深みを増しましたよ。すごくいい構成だなと思いましたね。

木古:1巻は神様メインの物語で、2巻は人間たちの物語にしようとは決めていました。幸い2巻をキャラクターもの、バディものとして読んでくださる方が多くて、嬉しいなと思っています。

饗庭淵:2巻は確かに人間たちの話ですね。ネタバレになるので言えませんが、黒幕的な人物のやっていることなんて相当ひどい(笑)。ヒトコワ系のホラーといってもいいくらいです。

木古:それでも「結局人間が一番怖い」になってしまうとホラー好きとしては淋しいので、そんな悪人にも太刀打ちできないものが存在するという展開にしました。やっぱり怪異には強くあってほしいので(笑)。

饗庭淵:映画『来る』(原作/澤村伊智『ぼぎわんが、来る』)もまさにそんな感じでしたよね。人間の胸くそ悪い話も描かれているけど、それを呑みこむくらい強大な怪異が出てくる。あれに近いものを感じました。

木古:ホラー好きは怪異が好きだからこそ、アンドロイドや悪人や霊能者を出して、怪異の“耐久テスト”をしてみたくなるのかもしれませんね。「ほら、やっぱり怪異の方が怖いでしょ」と証明したくなる。

勢いを増すカクヨム発のホラー

――お二人をはじめ、カクヨムからデビューするホラー作家の方が増えています。最近だと背筋さんの『近畿地方のある場所について』もカクヨム発のホラーとして話題になりました。カクヨムとホラーの相性については、どうお考えになっていますか。

木古:他の小説投稿サイトだと異世界転生ものが主流だったりするんですが、カクヨムはそれ以外のジャンルも強いという特徴があると思います。ホラーだったりSFだったり恋愛ものだったり。それぞれのジャンルを追いかけている読者さんがいて、熱心なレビューがつく。タグで細かく検索できるので、自分の読みたいジャンルの作品を見つけやすい、というのもあると思います。

饗庭淵:ホラーとミステリを組み合わせた作品は増えていますが、『対怪異~』のようなSFホラーはまだそんなに多くない。カクヨムはもともとSF系に強いサイトですし、好きな人が読みにきてくれるので、安心して書けるという部分もあります。

木古:柞刈湯葉さんの『横浜駅SF』もカクヨムコン受賞作ですもんね。安心感といえば読者さんがしっかり読み込んでくれるので、考察してもらうことを前提にしたホラーが増えた印象がありますね。『領怪神犯』でも時代考証などに関わる部分でそういう書き方をしたのですが、伝わる人にはちゃんと伝わりました。

饗庭淵:木古さんはカクヨムで「領怪神犯」の第3部をスタートされたんですよね。

木古:はい。今なら追いつけますので、1部と2部を読んで気に入った方は覗いてみてください。饗庭淵さんは『対怪異~』の続編を書かれる予定はありますか? 白川教授の過去のエピソードなど、気になる部分がたくさんあるので、ぜひ書いていただきたいんですが。

饗庭淵:そのあたりもなんとなく構想はあるんですが、まだ具体的にはなっていません。原稿を最後まで完成させてカクヨムに投稿するというやり方なので、もうちょっと時間がかかると思います。

木古:一話完結型でもいいですし、劇場版アニメのようにスケールの大きい事件にアリサたちが遭遇する話も読んでみたいです。今日はカクヨムコンの先輩として少しでも役に立つ話ができればと思ってきたんですが、オタク目線で語りまくってしまいました。楽しかったです。

饗庭淵:こちらこそありがとうございました。少しでも早く続編を読んでもらえるようにがんばります。

プロフィール

饗庭淵(あえばふち)
1988 年生まれ。福岡県在住のゲームクリエイター、イラストレーター。オリジナルゲーム『黒先輩と黒屋敷の闇に迷わない』が話題を呼び、自身でノベライズも手掛ける。2023 年『対怪異アンドロイド開発研究室』で、第8回カクヨムWeb 小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞を受賞する。

木古おうみ(きふる・おうみ)
神奈川県出身。Web小説サイトで活動し、2022年に『領怪神犯』で第7回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉大賞とComicWalker漫画賞をダブル受賞してデビュー。著書に『領怪神犯2』『はぐれ皇子と破国の炎魔 ~龍久国継承戦~』、コミック版『領怪神犯』(漫画:足鷹高也)がある。

書籍情報

『対怪異アンドロイド開発研究室』饗庭淵
恐怖を感知しないアンドロイドが予測不能な「怪異」に挑む、新感覚ホラー!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322307001261/

『領怪神犯』木古おうみ
これは、人智を超えた危険な現象――領怪神犯に立ち向かう役人たちの記録。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322207001058/

『領怪神犯2』木古おうみ
危険な神々と対峙する特別調査課に秘された過去とは。話題作、待望の続編!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322302001401/