鈴木おさむロングインタビュー 放送作家、脚本家として32年。その仕事を辞めるという決断をした理由とは?【ダ・ヴィンチ4月号で特集!】

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公開日:2024/3/16

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年4月号からの転載になります。

鈴木おさむさん

 発売中の『ダ・ヴィンチ』2024年4月号では「鈴木おさむと拓く、新しい道」と題した特集を掲載している。その特集のなかから鈴木おさむさんのロングインタビューの一部を公開する。

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『SMAP×SMAP』『めちゃ×2 イケてるッ!』『いきなり!黄金伝説。』『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』──。数々の人気バラエティー番組を手掛け、ドラマや舞台でも脚本を書き続けてきた鈴木おさむさんが、3月31日に放送作家業と脚本家業を辞める。それは、決して後ろ向きではなく、ポジティブな選択。「後悔はない」と語る放送作家人生、そして仕事の辞め方について語っていただいた。

取材・文=野本由起 写真=TOWA

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“辞める”という選択肢に気づくと強く生きられる

 傍から見ると順風満帆に見えるが、いつしか鈴木さんは仕事の引き際を考えるようになる。そして23年10月12日、放送作家業と脚本家業を辞めることを宣言。この決断に至った背景には、どんな思いがあったのだろう。

「48歳の頃から、自分の中でスイッチが入りにくくなりました。SMAPが解散して、120%の力が出にくくなっていたんです。そこで、50歳になったら辞めようと思いましたが、コロナ禍になり、一度はその考えを胸にしまうことにしました。その後、『小説「20160118」』を書いた時に、また辞めることを強烈に意識した。コロナ禍が明けたら、また以前のように放送作家業をやるんだと思ったら、自信がなくなってきて。そこで辞める決断をしました」

 これまで鈴木さんは、ワクワクするかどうかで生き方を選んできた。だが、40代後半になって自分の人生を俯瞰した時、最近面白く生きられていないと感じたという。

「僕は、19歳で放送作家になり、25歳で親の借金が1億円以上あると知って返済することになったり、30歳の時に交際期間0日で結婚したりと、自ら大きく人生の舵を切って生きてきました。でも、ここ数年は振り切って生きられていない。そんな時に意識したのが、尊敬する方々の生き方でした。秋元康さんは、47歳でAKB48をプロデュースし、50歳でブレイク。糸井重里さんは、50歳で『ほぼ日刊イトイ新聞』を始めました。映画監督の伊丹十三さんが、監督デビューしたのは51歳です。経験値が増え、熟練してくるのが50代。今こそ仕事を辞めて、新しいことにチャレンジしようと思いました」

 今年1月に刊行した『仕事の辞め方』は、“辞めること”にフォーカスした自身初のビジネス書。作中では、40代のしんどさについても言及している。

「20代で仕事が軌道に乗った人は、30代には自分の手で世の中を動かしているような全能感を味わいます。ですが、40代になると会社の事情を考えなければならないし、結局60~70代が世の中を動かしていることに気づきます。そういう現実を踏まえ、なんとかバランスを取って仕事をうまく回そうとするものの、その結果、若い世代の意見を妨げることもある。すると、“ソフト老害”になってしまうんですよね。大事なのは、そうなった時にどう振る舞うか。『俺は出世を目指すから、マインドチェンジするよ』と言い切れば、それはそれで筋が通った生き方です。もし出世のために生きるのが嫌なら、仕事を辞めてもいいと思います」

 だが、“辞める”という選択肢があることに気づいていない人は意外と多いという。

「30代で自分の価値を高めたら、そこが一番の売り時。『40代になって価値が下がる前に、辞めるのもアリなんじゃない?』というのが、この本のテーマなんです。辞めるという選択肢があることに気づけば、より強く生きられますから」
とはいえ、家族がいると、仕事を辞めたくてもなかなか難しい。「パートナーの理解を得られない」「金銭面に不安がある」というケースも多いのではないだろうか。

「家族とは、今後のビジョンをしっかり話し合うしかないですね。今の仕事はどうなのか。なぜ辞めたいのか。今後何をしたいのか。つらい状態のまま仕事を続けて、ストレスで病気になったら元も子もありませんしね。もちろん、仕事を辞めるならお金の見直しも必要です。僕も保険を見直したし、4月からはお金の遣い方も変わるでしょう。貯金以外の資産運用について積極的に考えることも大事です」

 辞めたとしても、自分の代わりは必ずいる。この考え方も、重要だと鈴木さんは話す。

「島田紳助さんが芸能界を引退した時、テレビ界はどうなってしまうのかと思いましたよね。でも、その後マツコ・デラックスさんが出てきた。誰かがいなくなれば寂しいけれど、いつかは必ず慣れるもの。それぞれ新しい人生を歩んでいくし、世の中も回るんです。だから、自分がいないと会社が回らないなんてことはない。自分がいなくなっても代わりはいるし、もしかしたら会社が良い方向に変わるかもしれない。そう考えるべきです」

今後のメディアには必死のアイデアが必要

 3月31日をもって放送作家業と脚本家業は辞めるが、仕事を引退するわけではない。今後は「若き起業家たちの応援のようなことをしたい」と話す。

 辞める前に、あと2冊の新刊も控えている。1冊は、テレビに向けた最後のメッセージとなる『最後のテレビ論』。鈴木さんが放送作家になった32年前と比べ、メディアのあり方は大きく変わり、テレビも出版も“冬の時代”と言われるようになって久しい。この先、マスメディアはどうあるべきだろうか。

「必死のアイデアが必要ですよね。今はテレビを持たない人、一切観ない人も多いです。視聴率100%の視聴者数は3000万人くらいかなと勝手に感じていますが、どうでしょう。その数字を明かしていないことが、一番の罪だと思うんです。スポンサー企業から『これしか観ていないの?』と思われるのが嫌なのでしょうけど、一度白旗を上げて楽になったほうがいい。そして、そこから新しい策を考えないと。CMで広告収入を得る以外にも、各番組でマネタイズ策を考えられるはず。毎週その番組で1億円稼ぐ方法があれば、1万人しか観ていなくてもいいじゃないですか。出版業界も同じです。例えば講演会に行ったら、そこで話されたことが本になって翌日届く、とかね。ビジネスを本気で考えて、今までと違う価値を生み出すべきだと思います」

 もう1冊は、まだ詳細を明かせないが、鈴木さんが覚悟を込めて書いた小説だ。

「心の底から自信作と言えますし、これを書けて良かった。人生で初めて、将来息子にも読んでほしいと思いました。『パパはこんな人たちと青春を繰り広げていたんだよ』って」

 放送作家として32年間書き続け、最後の最後まで走り抜いた。

「これでもう、すべて書き切りました。後悔は一切ありません」

鈴木おさむさん

すずき・おさむ●1972年、千葉県生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳でデビュー。バラエティーを中心に多数の人気番組を構成し、脚本家、作家としても活躍。2002年、お笑いトリオ「森三中」大島美幸と結婚。現在、脚本を手掛けたドラマ『離婚しない男-サレ夫と悪嫁の騙し愛-』が放送中。今年、企画・脚本・プロデュースを担当したNetflix『極悪女王』を配信予定。

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