異常だけれど、ありえなくはない 初めて書いた「愛」の物語です

新刊著者インタビュー

2014/2/6

『SMAP×SMAP』や『Qさま!!』『お試しかっ!』など数々の人気バラエティ番組を手掛ける、放送作家の鈴木おさむ。私生活では、女性お笑いトリオ「森三中」のメンバー、大島美幸の夫でもある。「『いい夫婦の日』パートナー・オブ・ザ・イヤー 2009」に選ばれるなど、理想の夫婦としても有名だ。

鈴木おさむ

すずき・おさむ●1972年、千葉県生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳でデビュー。数多くの人気バラエティを手掛ける。2002年、お笑いトリオ「森三中」の大島美幸と結婚。結婚生活を綴ったエッセイ『ブスの瞳に恋してる』はベストセラーに。本作『美幸』は、自ら作・演出を務めた舞台を基に書きおろした小説。
 

 昨年、実写映画化された『ボクたちの交換日記』の原作『芸人交換日記』など、小説の執筆も続ける彼が、およそ3年ぶりとなる長編を発表した。タイトルは、『美幸』。妻の名前だ。

「3年前に僕が『芸人交換日記』を書いたきっかけは、自分の周りに売れない芸人さんがたくさんいて、彼らの文句とか愚痴とか悲しみとかを面白おかしく聞いていくうちに、このことをなんとか表に出したい、出せるなら僕しかいないと思ったからなんです。『美幸』を書こうと思ったのも同じ感覚ですね。うちの奥さんが子供の頃イジメられていた話を聞いているうちに、彼女の経験を取り入れたお話を書いてみたいと思ったんです」

 妻と小説の主人公は、同一人物ではない。だが、二人の心は、さまざまな形で繋がっている。

「うちの奥さんはイジメられていた時、バレないように復讐をしていたんです。小説の中にも書きましたけど、イジメたやつの縦笛におしっこを付けるとか(苦笑)。そういう話を聞いていたら、イジメられた仕返しに、復讐する女の物語というイメージが湧いてきました。あと、うちの奥さんは、イジメられた経験をテレビなんかでは面白おかしくしゃべってるんですけど、大人になった今なおつらい記憶として心に深く刻まれてしまっているんですね。だからこそ、イジメを見た時の反応が異常だし、イジメに対しての嫌悪感がものすごいんです。

 以前、僕がある仕事相手とトラブルで揉めてへこんでしまったことがあります。一週間ぐらい仕事を休んだんです。その時うちの奥さんは、僕に何も言わずその人のところへ行って本気でぶん殴ってやろうと思ったらしくて。後からそれを聞いて、未遂で良かったなと思ったんですけど(笑)、子供の頃にイジメられた経験があるから、僕の似たような経験に対してそこまで反応したと思うんですよ。喜びよりも、人の怒りに同調した時って、すごいパワーになるじゃないですか。そうなった時の彼女のイメージも、小説の中に入ってきていると思います」

 今の話の中には、「復讐」の他にもう一つ、この小説を語るうえでは欠かせない大きなテーマが潜んでいる。「愛」だ。

「僕にしか書けないような、僕なりの恋愛小説が書きたかったんです」

かわいそうだから好きになる恋もある

 主人公の名前は、五味美幸。刑務所の中にいる彼女が筆ペンを手に取り、手紙を書き出すシーンから物語は始まる。彼女は自らが犯してしまった罪を、「あなた」に宛てて告白する。

〈愛の字源って知ってますか?? 愛ってこっそり人を好きになることが字源だそうです。だとするならば、私のあなたへの愛は……字源通りかもしれませんね。〉

「あなた」とは、同じ会社で働いていた星野雄星。被害者の、夫だ。美幸は「あなた」のために、罪を犯したのだと記す。そして、「私」のことを知ってもらいたいんだと、30年あまりの半生を綴っていく。

 美幸は中学3年生の時、新聞社主催の書道コンテストでグランプリを獲得した。自分で造語して書いた「顔晴(がんばる)」という文字のオリジナリティが、審査員たちに絶賛されたのだ。「天才書道少女現る」。マスコミはフィーバーし、校内一の有名人となる。それに反発したのが、クラスの女子だ。調子に乗っていると無視され、やがてイジメはエスカレートしていく──。文体は読みやすく軽やかだが、展開は極めてダークだ。

「この小説は文字が重要なアイテムになってるんですけど、イジメられた美幸がクラスメイトの名前の上に、“豚女”“豚男”と念を込めて書いていくシーンがあります。美幸のねっとり感を出すには、“全員分書きました”の一文で済ませちゃうんじゃなくて、ちゃんと全員分書いたものを見せきゃダメだなと思ったんですよ。“豚女”“豚男”を43名分ずらーっと並べて、ひとりだけワケあって“豚勃起”(笑)。それを実際に書いたものを見たら、自分でもものすごく気持ち悪かったんですよね。この羅列した文字の気持ち悪さを、読者の人にも味わってもらうのは大事だったなと思いました。特に前半は、美幸の人生をいかに体感させて、彼女の性格とシンクロしてもらえるかを意識しながら書いていったんです」

 最悪の中学生活を終え、心機一転、高校生になった美幸にも、災厄は降り掛かる。そして専門学校を卒業後、タレント事務所の事務員として働き始めて8年目のある日、雄星と出会うことになる。彼は、悪質な上司にイジメられる存在だった。

「役者を目指したけど1番になれず、夢を諦めたかわいそうな男なんです。人の好きになり方って、いろいろだと思うんですよね。かわいそうだから好きになる、ということもある。美幸の雄星に対する思いは、まさにそれでした」

 ところが、彼には愛する妻がいた。叶わない恋だと知った美幸はどうしたか? 見返りなど要らない。ただただ彼のために、彼に気付かれないよう注意しながら──途中からは気付かれたい、という気持ちでパンパンになりながら──上司への復讐を「代行」したのだ。

「美幸の気持ちは、ホストの番組を作った時の経験が生かされていると思います。ホストクラブに通う女の人は、自分が楽しむために行くんじゃないんです。自分が誰かの必要な存在でありたいがために、ホストに金を払うんですよ。僕ね、それを知った時、愛だなと思ったんです」