京極夏彦、“4形態同時発売”を語る

新刊著者インタビュー

更新日:2013/8/9

電子書籍はまだまだ発展途上の商品。
市場を熟成させるためには、未完成でも出していかなくちゃいけない


 単行本・ノベルス・文庫は、一ページあたりの文字数が異なる。そのため、それぞれの体裁に合わせて文章が加工されている。作品の雰囲気や台詞のテンポが変わらないように微調整が施されるわけである。 ただ、電子書籍の場合は勝手が違ったという。

「現状、ルビも自由につけられない、フォントも選べない、字組みも変わってしまう。これじゃあ手の入れようがありませんよね。電子書籍には、読みかた読ませかたの指針がまったくないんです。電子書籍はまだまだ発展途上の商品なんですよ。ブックリーダー上で読みやすいスタイルはどうあるべきなのか、電子書籍の利点を生かした作品をどう作るのか、出版社はまだそういうことを考えるレベルに及んでいないんですね。紙の本の後追いをしているだけ。手間とコストの削減しか頭にない。でも、市場を熟成させるためには、未完成でも出していかなくちゃいけません。いまできる最善の形、程度になっちゃいますけど」

 電子書籍に対してはかなり厳しい見解を示す京極氏。しかしそれは、未熟な商品をよりよくしていこうという前向きな姿勢からの発言に他ならない。 今後、電子書籍の可能性が広がって行けば、電子書籍ならではの仕掛けがほどこされたルーガルーの世界が楽しめるかもしれない。

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取材・文=村上健司 写真=首藤幹夫

※次回更新は10月21日(金)。後編では、シリーズ2作目の内容について聞きました。

電子ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔(上・下)

講談社/各700円

近未来。少女・牧野葉月たちは閉じた世界の中、携帯端末(モニタ)という鎖に縛られて生きていた。そこは窮屈ではあるものの不純物のない安全な檻――のはずだった。が、その世界に突如現れた連続殺人犯。少女たちは、殺人犯とその背後に聳える巨大組織との対決を余儀なくされる。
驚愕の事件から数ヵ月。世間は一時、安定を取り戻したように見えた。
前回の事件の被害者として、この世界に漠然とした不安を抱えていた少女・来生律子のもとに、小瓶に入った謎の毒を持った作倉雛子が訪ねてくる。雛子は毒を律子に託し姿を消す。奇妙な毒の到来は、新たなる事件の前触れなのか--。
「突如凶暴化する児童たち」「未登録住民達の暴動」「奇怪な製薬会社」「繋がる過去と、現在の事件」すべての謎が明かされるとき、新たなる扉を開けた少女たちは何を想う!?

作品を読む

『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔』
単行本・ノベルス・文庫本(上・下)