ベストセラー『困ってるひと』の続編は、いとしきシャバをサバイバル【大野更紗インタビュー】

新刊著者インタビュー

公開日:2014/8/6

声もあげられない嵐の中にいる時が一番苦しいから

「言葉にできる仕事っていうのが一体なんなのかなってことは、自分が病気になってからも1回どーんと考えたし、震災の後もどーんと考えました。言葉ってそもそも道具じゃないですか。人間にとって最も基本的で大事な道具だと思うんですけど、難病に限らず、たとえば親の介護や看取りにしても、本当に大変な人って、何が問題で、どういう支援が必要なのか、自分が抱えている大変さを言語化することすら難しいんだと思うんです」

 電動車いすの申請にしても、なぜこんなにも複雑で不親切なシステムなのか憤ってしまう。当事者にならないとわからないことばかりで、大野さんはそれを「見えない障害」と呼ぶ。

「カオスの中、嵐の中にいる時って、普通声も出せないと思うんですけど、そういう状況にいる時っていうのが一番苦しい。この社会状況だと、スタバでトールラテとか飲みながら“うちのおじいちゃんの痰の吸引が大変で”って話をしても別にフツーだと思うんですけど、でもそれをしにくい、会社とか学校で私事を出すのはよくないみたいな風潮もあるのかもしれない。みんな、それぞれに問題を抱えていて、苦しい、話したい、伝えたいってことを誰もが思ってる時代なのかなっていうのはすごく思いますね。だからあまり作家っぽい考え方ではないのかもしれないけれど、私だけじゃなくて、みんな、もっと声をあげたらいいのにと思ったんです」

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 ウェブサイト「わたしのフクシ。」を立ち上げ、メールマガジン『困ってるズ』を発行。

「どこまで書いてくれるのか、未知数だったけど、まるで今までせき止められていた堰が決壊するみたいに言葉が噴出する場面があったりして。みんな、語る場所すらない状況の中で出す回路を求めていて、そのふたをちょっと開けたのかなって」

 東日本大震災が起こったのはウェブサイトを立ち上げた直後のことだった。福島の実家とは連絡がとれなくなり、難病も抱えたまま、ツイッターから情報を発信し続けた。

「人間って、私も含め、非常に利己的で他人にあまり関心がない冷徹な側面がある一方で、ものすごく利他的で人の役に立つことに情熱を燃やす側面と両方あって、それは誰しもが持っている顔だと思うんです。“世の中を変えるんだ”って、私もずっと思ってますけど、毎日思い続けると結構疲れるんで(苦笑)。こうしてものを書いたり、ほかのこともやりながら、時々はシャキッとなるぐらいでちょうどいい。違うなと思ったら、やめたっていい。まずは興味関心だと思うんですよね」

 昨年、大学院を受験。見事合格し、現在は難病人、物書き、研究者の「三位一体」の日々。

「もしあのままミャンマー研究を続けていたらどうなってただろうって思う時があって、でもその自分よりは今の自分のほうがたぶん好きかな。あの頃教わったこと、経験したことも役に立つな、つながってるなって。大変だけど、やっぱり愛しきシャバだなって思っています」

取材・文=瀧 晴巳 写真=下林彩子

 

紙『シャバはつらいよ』

大野更紗 ポプラ社 1300円(税別)

2010年6月末、9カ月間の入院治療の日々を送った病院を退院。週2回通院しながら、シャバで自立して生きる道を探り始める。発病後の体で何ができて、何ができないのか。ヘルパーさんの助けを借り、電動車いすを申請し、目の前の今日に対処する日々。そんな中、東日本大震災が起こる。すべての「難」のクジをひいた人にエールを送る待望の続編。

 

好評既刊
紙『困ってるひと』

大野更紗 ポプラ文庫 640円(税別)

ビルマ難民を研究していた大学院在学中に原因不明の難病に。自らが「難民」となり、日本社会をサバイブするはめになる。想像を絶する過酷な状況を命がけのユーモアをもって描き、患者をめぐるお金や制度の現実もつまびらかにしてみせた究極のエンタメエッセイ。