“監督とは千早群像” 劇場版「アルペジオ」岸誠二監督が語る作品づくりの流儀

アニメ

公開日:2015/2/11

悔しさが監督を成長させた

 作品設計に力を入れ、各パートはそれぞれのスタッフに任せる。パッケージとしての作品を忠実に作り上げる姿勢は、まるでプロデューサーのようだ。監督とは、アーティスト気質の職人と見られがちだが、そのような着眼点に至ったのはなぜか。

「何年も前ですが、映画監督のお話をいただいたことがありました。残念ながら、その企画は実現できず…。そのときのスタジオプロデューサーに言われたのが、“もっとプレゼン力を磨いたら”という言葉です。作品をどんな表現で誰に向けてつくるのか。それをプロデューサーやクライアントに対して魅力的に説明できていませんでした。そしてこの企画進行の話はなくなりました。これは相当悔しい経験でしたね。作品を公開してヒットしなかったなら自分の力不足ですよ。でも、公開するというスタートラインにも立てなかったのです。自分なりに頑張ったつもりでしたが、全く通用しなかった。その経験から頭がカチンっとシフトしました」

 作品を作るには、出資してもらうクライアントを動かさなければならない。なぜならクライアントは、常にリスクを取っているからだ。制作費に見合うだけのヒットがなければ、損益を被るのは彼らだ。

「100万部売れている作品をアニメ化しても、それがヒットするとは限りません。リスクは常にあります。プレゼンとは、メリットだけを提示するものではありません。リスクを魅力的に見せることだと思います。私は“新しいこと”“おもしろいこと”が大好きなのです。いつも新しい企画が持ち込まれると、ワクワクして、どんな新しくておもしろいことをしてやろうかと考えます。お客さんも新しいなにかに注目してくれるかもしれません。そんなワクワクするものを提示できれば、リスクを取って一歩を踏み出す勇気になるのかと思います」

 もちろん、クライアントやプロデューサーもいろいろで、一概には言えない。けれど常に心踊るエッセンスを盛り込むのが岸監督の流儀だ。

▲『アルペジオDC』にて監督がワクワクしたシーンとは…?

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