脚本家がライトノベル作家デビュー! 牧野圭祐の描くライトノベルSF『フリック&ブレイク』の魅力に迫る【レビュー&インタビュー】

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更新日:2015/6/26

作家インタビュー、脚本家だけでなく、ライトノベル作家としてデビューした牧野圭祐さんの仕事の流儀とは

━━ドラマや映画の脚本家をされていたと聞いていますが、これまで手がけたお仕事を教えてください。(仕事内容や作品名は、言える範囲で結構です)
牧野:連ドラ『新参者』、映画『さよならドビュッシー』、ゲーム『解放少女SIN』など、他にもジャンルや媒体問わず、いろいろ書かせていただいてます。

━━どうして脚本家からライトノベル作家を目指すようになったのでしょうか?
牧野:さかのぼれば、子供の頃から『スレイヤーズ』などの名作ライトノベルを読んでいました。もともとゲーム、漫画、アニメのような2次元フィクションで育ったというのが大きいです。実写作品をちゃんと見始めたのが高校2年以降でした。それで実写の仕事をするなか、実写では表現できないアニメ的な設定のものを書きたいとは思っていたんです。そんなときライトノベルの編集さんとお会いするご縁があり、大量の企画書を毎週送りはじめました。その結果、『フリック&ブレイク』が採用されたという経緯です。

━━それでは新人賞への投稿した経験はなかったのですか?(他の出版社の新人賞でもかまいません)
牧野:ライトノベルや小説は投稿したことがありません。脚本では計3回応募したことがあります。映画の城戸賞(最終候補)とTBS連ドラ大賞(入選)と、もうひとつ映画の新人賞に出しましたが、それは一次落ちだったこともあり……名前を忘れました。

━━今作『フリック&ブレイク』についてお聞きします。この作品の誕生秘話などがあれば教えてください。
牧野:担当編集さんと企画について話すなかで『現代性』というキーワードが挙がり、PCやスマホでニュース検索などしていて、ある日、ふと「だったらスマホそのものでいいのでは?」と気づきました。そして以前から「電波は見えないけど、色々な情報をのせて飛んでいるんだよな」と、ボンヤリ思ってたので、その2点がくっつき、「電波を知覚できる子供が、電波渋滞から発生する化け物をスマホで倒す」という根幹が生まれました。電波を使用した類似設定はなさそうだったのでいけるかと。その設定ありきで、舞台を「今年生まれた子供が高校生になっている2032年のスマートシティ」にして、電波を知覚するようになる覚醒理由も都市に結びつけ、「覚醒してしまったマイノリティの少年少女が、完全監視されたウェアラブル社会でいかに生きるか?」という話にしていきました。街を山梨にしたのは、リニアが開通予定だからです。また、近未来の設定は、いろいろな資料に基づいてリアルに作ってます。テーマは、あとがきにも書きましたが、ひとつ誤解されたくないのは現代都市批判ではないということです。ネットがなくなると困りますので(笑)

━━作品内に多くのソーシャルゲームが登場しますがゲームがお好きなんですか?
牧野:子供の頃はゲーム雑誌を購読して、RPGやシミュレーションをよくやってました。ただ、最近は仕事に支障が出ないように、かなり自制してます。作中に登場するソーシャルゲームの元ネタも、ハマりすぎないように注意してます。それから作品内に『電子ペットのエリマキトカゲ』というのが出てきますが、デザイン画を見たとき、製品化できるのでは……とか思いました。

━━ライトノベルの執筆とドラマや映画の仕事ではどのような違いがありますか?
牧野:初稿を書いたあと、気づいた大きな違いは『心情描写』『小道具や化け物の描写』です。この2点は、脚本では俳優さんや他スタッフさんの領域のため書き込まないので(注:説明すると長いため、ざっくり言ってます)、その癖が染み付いていたようで、書いたつもりでも全然足りていませんでした。同じ書き物でも、簡素に書く脚本とは正反対ということを意識せねばと思ってます。力を入れた点は、一人称視点でも『主人公がウェアラブル機器をとおして感じる視点』を大事にしました。映像でウェアラブルグラス越しの視覚を表現するのは簡単ですが、文字でやるとどうなるだろうと試行錯誤してみました。

━━作品作りについて自分なりのポリシーや信念はありますか?
牧野:新しい何かを提示しつつ、興味を持ってもらえるエンタメであることです。

━━ライトノベル作家になって何か変わったことはありますか?
牧野:まだ発売直後ということもあるのか、今のところ、とくに実感はないです。数ヶ月経てば、何か違いに気づくかもしれません……?

━━これからの仕事の展望を教えてください。
牧野:媒体にこだわることなく、これまでどおりやっていくつもりです。今現在も、映画の企画が進んでいたり、家庭用ゲームのシナリオを書いたりしてます。映画は原稿提出後の待機期間が長いので、その進行を待ちつつ、いろいろと進めるような形になるかと思います。相乗効果でおもしろいものができればと。

━━最後にこのインタビュー記事を読んでいる読者へ、一言おねがいします。
牧野:ライトノベルというと、パッと見で「萌え」「子供向け」という印象を持たれることが多いのですが、そういうものばかりではなく、『フリック&ブレイク』もこの記事内で書かれているような内容になってますので、WEBで試し読みをしたり、書店で手に取ってパラパラめくっていただけたらと思います。宜しくお願いします。

文=愛咲優詩