映画『王妃の館』公開記念SP対談 浅田次郎×水谷 豊

更新日:2015/4/6

浅田さんの小説群のような俳優になりたい(水谷)

水谷豊さん

──浅田さんは水谷さんが警部・杉下「右京」を演じる『相棒』もお好きだそうですね。

浅田:毎週観てます。この前の、仲間(由紀恵)さんとの回もすごくよかったですね。お二人のコンビ、合いますね。

水谷:いやあ、そうですか。ありがとうございます。

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浅田:いつも楽しく拝見しております。

水谷:恐縮です。「右京」食いの水谷です(笑)。

浅田:『相棒』でも『王妃の館』でも「右京」という名前が使われて、それを水谷さんが演じるというのは、全く偶然の一致なんですよね。実生活でそういう名前の人に会ったことないのにねえ(笑)。ここで一致するのは運命でしょうね。

水谷:本当に!

──浅田さんから見て、水谷さんはどんな俳優さんですか。

浅田:本当に上手な俳優さんですよねえ。どんな役でもこなせる。ただ『相棒』の右京を観ていると特に思うんですけど、あそこまでかっちりしたイメージを演じるのって普通は……恥ずかしくてできませんよね?

水谷:……っ(コーヒーを思わず吹き出しそうになりながら爆笑)!

浅田:いや、「エリート刑事」っていう役は今までにも沢山あったと思うんですよ。でもあそこまでっていうのはねえ。喋り方から何からすごくキャラクターがはっきりしているでしょう。紅茶しか飲まない、とかね。それもこんなふうに上からカップに注いだりして。

水谷:あははは(笑)。

浅田:『王妃の館』の右京もそうなんですが、あそこまで徹底してやっていただくとバシッとはまっちゃうから、観客は絶対に彼らの虜になりますよね。ほかのことを考えなくなる。そうさせるところが、やっぱり素晴らしい役者さんだと思います。

水谷:ありがとうございます。僕ね、昨日取材で「俳優として目指すものはありますか」と聞かれたんですが「浅田次郎さんの小説群のような俳優になりたい」と答えたんですよ。どういうことかというと、浅田さんの小説というのは、フランスの話があれば中国の話もあって、場所も、時代も、内容も違う。そしてエッセイを読むと「こんなことを考えていらっしゃるんだ!」とまた違う面が見える。どれだけの世界が、浅田さんの中にあるのだろう、といつも思うんですよ。僕はそのことに長い間虜になっているんだな、と思いますね。だから僕も、あの世界もあり、この世界もあり、という俳優になりたいんです。

浅田:光栄です。

『相棒』の誰かになって対抗しようと思っていました(浅田)

浅田次郎さん

──映画の中で、右京の書いた小説を登場人物たちが夢中になって読むのを、17世紀の世界を実際に覗きこむようにして描くシーンがとても印象的でした。浅田さんはそういった「読者」という存在をどう捉えていらっしゃいますか?

浅田:あまり読者を意識して書いたりはしません。わかりやすいように、とは考えていますが、書く時に過剰な読者サービスをしたりはしないですね。でも……「販促」はまめにやるんだよなあ(笑)。サイン会とか講演会とか、映画の宣伝だとか。何もしない作家のほうが普通だと思うんですが、僕ね、「営業」の仕事が長かったんですよ。

水谷:ああ、なるほど。

浅田:読者は昔でいう「お客様」っていう感覚が多少あるのかな。書いている時は意識しないと言いましたけど、書き終わったらサービスはしなきゃいけないもんだって思ってるんですかねえ。今日もそうですが、呼ばれるとつい出てきちゃうんです。なんなんでしょうね、このクセは。

水谷:あははは、クセですか。

浅田:販促グセですかね。なんとなく義務感があるんですよ。

水谷:僕も結構「販促俳優」なんですよ(笑)。なにか販売しているわけじゃないから変な言い方なんですけど。でも、そうなってしまうんですよね。

浅田:やらない人はやらないでしょう、俳優さんでも。

水谷:そうかもしれませんね。僕はできる限りのことをやっておきたいタイプ。

浅田:やっぱり作家と俳優は似ているところがあって。神秘性っていうのが大切なんですよ。それなのに生の人間が舞台挨拶とか、『ダ・ヴィンチ』の誌面にこうやって出てくるとね、その神秘性を侵しているような気がすることありませんか?

水谷:あります、あります。

浅田:本当はどこで何をしているかわからない、私生活がわからない、素顔が見えないっていうのは、かなり得なことなんです。真似できないんだけど。

水谷:ただ出れば出るほど、本当のところがわからなくなる人というのもいますからねえ。どんどん神秘的になっていくような。そこをちょっと狙ってみたいなとは思っていますが。

──水谷さんはまさに本当のところはわからない、と思わせる俳優さんだと思います。

水谷:よく言われます。「こんなに出ているのに、わからない」と。浅田さんの場合は、やはりどうしてあんなに多岐にわたる作品群になるんだろう、と思ってしまいますからね。そこが神秘的なところですよ。

──今回実際にお会いになってみてどんな印象を持たれましたか?

水谷:最初にお会いした時に一瞬で「楽しく時間を共にできる方だ!」と思っちゃったんです。昔ね、「ブロック崩し」っていうゲームがありましたでしょう。僕、あれが結構得意だったんですけど、今もブロックしている人の壁を崩すのが得意なんですよ。ミスターブロック崩し(笑)。でも浅田さんは、全くブロックなさらないんですよねえ。最初に撮影現場にいらした時にふっとご挨拶しただけで、すごくいい空気ができた。年代が近いからかなとも思うんですけれど。

浅田:僕は『相棒』のイメージが強かったので、杉下右京の感じで来られたらどうしようと思っていました。どういうふうに対抗しようかな、と。『相棒』の他のどのキャストのようになろうかなと頭の中でずっと考えていました。

水谷:(爆笑)。

浅田:お会いしてみたらとても気さくな方で、よかった!

水谷:僕も同じように、難しい人だったらどうしようと思っていたので、本当によかったです(笑)。

取材・文=門倉紫麻 写真=山口宏之

 

映画 『王妃の館』公開記念
作家・北白川右京推薦! 浅田次郎フェア

映画の公開を記念して、劇中の天才小説家、北白川右京が推薦する浅田次郎作品を集めたフェアを、全国参加書店にて実施中。帯に記載された、右京の推薦コメントもご紹介!

紙『王妃の館』(上・下)

集英社文庫 上680円、下620円(ともに税別)

「パリが誇る至高のホテル。美と伝統と虚構にまみれた『王妃の館』こそ私の最高の仕事場である」(北白川右京)。
ルイ14世が寵姫のために建てさせたというパリの老舗ホテル「王妃の館」を訪れた個性豊かな日本人ツアー客と添乗員を描いたコメディ。映画版とは違う大団円に注目! 右京の書く小説内小説「ヴェルサイユの百合」にも心を奪われます。
 

紙『プリズンホテル』夏・秋・冬・春(全4巻)

集英社文庫 560〜730円(税別)

「極道ホテルで展開される 愛と笑いと感動のドラマ。寝食を忘れて一気読みしてしまいましたよ。」(北白川右京)。

極道小説家・木戸の叔父で大親分の仲蔵が営む温泉ホテルに集う人々を描く。3度にわたり映像化された。
 

紙『ま、いっか。』

集英社文庫 495円(税別)

「『以和為貴』とは、かの聖徳太子の偉大な教え。いい加減であることは、人生のスパイスとなる。」(北白川右京)。

恋愛・結婚について、旅について、言葉について……ビューティ誌『MAQUIA』連載分を中心に編んだエッセイ集。
 

紙『あやし うらめし あな かなし』

集英社文庫 580円(税別)

「恐怖を煽る物語とはかくも美しいものか。怪談の奥深さを思い知らされましたよ。」(北白川右京)。

心中したものの、生き残った女。伯母からその話を聞かされた少年は……(「赤い絆」)。静かに語られる7つの怪異譚。