違法サイトにどう対抗?『ドラゴンボール』鳥嶋さん、マンガ好き吉田尚記アナの答え

マンガ

更新日:2018/4/5

■正規版購入につながる“愛着”

桶田大介弁護士(以下、桶田):マンガと比べ、アニメは電子配信への対応がうまくいっています。定額動画配信(SVOD)サービスによりマーケットが海外まで広がったおかげで、作品間の厳しい競争はありますが、産業全体としてみれば売上は全体として増加傾向にあるといってよいように思います。

 マンガも、海賊版サイトの稚拙な訳で読んでいる世界中の読者数を考えれば、世界に広がるポテンシャルは十分にあると思います。日本の市場に依拠している限り、人口減少による縮小は避けられません。専ら海外市場に向け、ネットワークとスマートフォンに適したなんらかの形でマーケットを広げる努力はあってしかるべきではないでしょうか。

鳥嶋:そうなんですよね。海外に関していえば、流通の問題もあって「日本のマンガが読みたいけど手に入らない」という人は結構多いんですよ。

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桶田:一部無料やポイント制でうまくいっている電子配信サイトやアプリは出てきていますが、それらの多くは出版社やマンガ誌ごとに別々で、互いに連携していないので違う作品を読もうとする度にアプリやサービスの切り替えが必要になります。1つのサービスで様々な作品が楽しめる音楽や映像のサービスに慣れたユーザーの立場からすると、使い勝手がいいとはいえません。理屈の上では、海賊版サイトのように1つのサービスでなるべく多くの作品を楽しめることが理想です。それが難しければ、サービスは個別のままであっても、複数のサービスを束ねて利用できる統一ビューワーやプラットフォーム的なものが提供できれば、利便性はかなり良くなるでしょう。

 マンガファンのなかには、海賊版サイトに対抗するために出版社サイドも広告収益モデルで無料配信をやればいいという声も散見されます。もちろん、今のマンガ産業はコミックスの売り上げに大きく依存しているわけで、広告モデルによる売上が紙と電子のコミックスの売上を代替するほどの規模となり得るかを考えれば、そんなに簡単な話でないことはわかるとは思うのですが。

鳥嶋:そういう方向に舵を切っていくと、やはり紙媒体のマンガ誌は解体することになるでしょうね。

桶田:全盛期のように数百万部という部数が毎週売れるようなことはなくなるでしょうが、電子配信とは切り離されたところで利便性はあるし、紙は紙で媒体の形として残ると思います。同じ理由で定額配信制が広がったとしても、コミックスを買う人は買うと思います。冒頭の吉田さんの立ち読みの話もありましたが、タダで立ち読みをしていても愛着のあるコミックスは買っていましたよね? 実際、SVODが定着しつつあるアニメでもブルーレイが売れている作品は売れています。

吉田:海賊版サイトを超える利便性の高いサービスを提供することも大事ですが、ちゃんとお金を払って正規版を読んでもらうためには愛着の問題が一番大きいんじゃないかと思うんです。音楽の世界はもう15年以上前からデジタルデータ化が一般的になって、CDが売れなくなってきています。今ではみんなスポティファイを利用して、世界中の音楽から自分の好みの曲を見つけている状況です。ただ、ふと思ったのが“愛着のあるCD”っていくつもありますけど、“愛着のあるMP3データ”ってあるのかな、と。

鳥嶋:ないでしょうね。

吉田:ないんですよ。マンガも同様に愛着のあるコミックスはもちろん何冊もあるんですが、僕のKindleに入っている1000冊以上のデータの中に同じような愛着があるものがあるかといわれれば、それはやっぱりかなり少ないんです。作品の面白さそのものは電子書籍で読もうがコミックスで読もうが、それこそ海賊版サイトで読もうが変わりません。プラシーボ効果的なものも少しはあるかと思いますが、基本的にお金を払うか払わないかは面白さに関係ない。そこで、やっぱり読者が愛着を感じてないと、お金を出してコミックスは買ってもらえないと思うんです。

鳥嶋:今のマンガ界がダメなところは、そういう愛着の持てる子供向けマンガがちゃんと作れてなくて、少なくなってきていることですよ。

桶田:そもそも子供がマンガのコミックスにアクセスする方法自体がなくなってきてますよね。書店が減り、コンビニに置かれることも少なくなって、店頭に置いてあってもシュリンクされていて立ち読みもできず、新刊をあれこれ試し読むこともできない。個人的な体験になりますけど、神保町の高岡書店をよく利用しているんです。コミックスがシュリンクされていないから、連載時に呼んでいなかった作品も単行本をパラパラとめくってみて「これ良さそうだな」と感じたものを買うんですが、そういうことができる書店はほとんどありません。

吉田:今、ちゃんとお金を払ってマンガを買って読んでいる人はやっぱりマンガに愛着があって、マンガを支えようという意識が少なからずあると思うんです。でも、そうやってせっかくマンガを買った人をもてなそうという感じがないなーと思います。正規版を買うインセンティブが弱いんですよね。それと音楽ならスポティファイのようなサービスが主流になっていっても、愛着のあるファンが集まるライブやイベントがありますが、マンガだとそういうところも難しいですし。

鳥嶋:そこも悩ましい問題ですね。昔の話になりますけど、『ドラゴンボール』のコミックスを作ったときに背表紙を一枚絵にして分割し、7巻揃えると神龍の全身ができるようにしました。あれは制作作業の効率化ということもあったのですが、子供たちがコミックスを揃えたくなる効果がとても大きかったんです。そういうことを含めて、コミックスを手に取る楽しみをもう少し考えていかなくてはいけないですね。あと、ファンにお礼という気持ちでやったのが“ジャンプフェスタ”ですね。あれは完全に持ち出しになってしまうけど、入場無料にしました。

吉田:仕事柄、いろんなイベントに行く機会があるのですが、ジャンプフェスタほど10代の若い子が多くいるイベントはないですよ。そういう意味では若い世代のマンガに対する意識を高めるきっかけになる可能性もありますよね。

桶田:昨年から海賊版サイトの閉鎖や摘発の報道が続いたので、どんどん通報してつぶしていけばいいと思う人もいるのですが、運営者の特定は相当に困難ですし、検索エンジンでの遮断やサイトブロッキングという手段の実現に向けた動きもありますが、ハードルは相当高いといわれています。もちろん、マンガ・アニメ海賊版対策協議会としても、経済産業省による協力の下、削除通知を中心とした個別対応は続けており、一定の効果は上げていますが、撲滅というところまでは難しいのが現状です。ですから、対症療法として海賊版サイトへの対策を続けていくのは当然として、読者の利便性を高め、より愛着を持ってもらえるようなサービスの制度設計を考えていく必要があるのではないでしょうか。

鳥嶋:そうですね。そもそも出版社として「どんどん新しくて面白いマンガを出していきます」ということが前提になっていないと「海賊版サイトで読まないで」といえません。なかでもマンガの豊かな土壌を作る子供向けマンガでどれだけ良いものを多く作っていくことができるのかがポイントになってくると思います。その上で海賊版サイトよりも快適で面白いマンガ体験を提供できるよう出版社サイドも協力していきたいですね。

(左から)吉田尚記氏、鳥嶋和彦氏、桶田大介氏

取材・文=橋富政彦 撮影=内海裕之

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