12万人の小学生が選んだ“こどもの本”総選挙 1位『ざんねんないきもの事典』今泉忠明さんインタビュー

エンタメ

2018/5/5

 全国の小学生が選ぶ「こどもの本総選挙」(ポプラ社主催)で見事1位に選ばれたのは、『ざんねんないきもの』(高橋書店)。動物園で人気の動物や百獣の王ライオンにだって「ざんねん」な一面がある。面白い着眼点が人気となって、子どもだけでなく、大人のみなさんも、目にしたり耳にしたりしたことがあるのではないだろうか? 本作の監修をつとめた動物学者の今泉忠明さん興味深い話を伺うことができた。

■“最近の子どもたちが本を読まなくなった”はウソ

――『おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』と『おもしろい! 進化のふしぎ 続・ざんねんないきもの事典』が、シリーズ177万部を突破してまだまだ売れ続けています。この大ヒットをどんなお気持ちで受けとめていますか?

今泉忠明さん(以下、今泉) こんなに売れるなんて、想定外でした。私が今まで出した本で一番売れたのは1万8000部で、日本には動物好きがそのぐらいの人数しかいないと思っていましたから。切り口さえ面白ければ、動物に興味を持つ人がたくさんいることがわかって嬉しいですね。一方で、「動物のことは、こんなにも知られていなかったんだ!」という別の驚きもありました。

 最近の子どもたちはゲームばかりしていて、本は読まなくなったと思い込んでいましたが、ゲームよりも面白い本があれば読むんですよね。つまり、子どもが本を読まなくなったのは、本をつくる大人が知恵を絞っていなかったということ。私も含めて、今まで努力が足りずにすみませんでした、と反省しています(笑)。

――この本をつくることになったきっかけは?

今泉 今までつくってきた図鑑などでは、生き物の“すごさ”にスポットライトを当てることがほとんどでした。しかし、高橋書店の編集者と生き物のことをいろいろと話しているなかで、「そんなすごい生き物達にも“ざんねん”な一面があり、それが子ども達にとってはたまらなく面白いのではないか」と、提案いただいたのがきっかけです。長く動物学をやってきた私にとっては普通のことでも、まだまだ知られていない情報はいっぱいあったんですよね。ですから、今までの本には載っていなかった「どうしてそうなった!?」と、思わずつっこみたくなるような情報を、チームのみんなでたくさん集めて、この本をつくりました。

■「すごい」と「ざんねん」の対比が面白い

――ヒットした要因はどういうところだと思いますか?

今泉 どんな生き物も、進化する過程ですぐれていった面もあれば、反対にダメになった面もあります。例えば、ゴリラは知能は発達したけれど、繊細でお腹が弱くなってしまって下痢ばかりしています。一匹オオカミも、言葉としては聞こえがいいけど、オオカミ界では一匹でいるとすごく弱い立場なんですね。すべてカンペキな生き物なんていないわけです。そういう風に、強いところと弱いところ、すごいところとざんねんなところを、対比させた切り口が面白かったのでしょうね。

 僕は、そういうことはずっと前から知っていましたから、自分が思いつきもしない発想を持っている人と組んでつくったのもよかった。イラストや文章も面白くてわかりやすいでしょう? いろいろなアイデアを持った人がチームワークでつくりあげたこともポイントだと思います。

――人間のすごいところと、ざんねんなところは?

今泉 人間の強みは脳です。脳で考えて、想像して、予測して、アイデアがひらめく。主観と客観を使い分けて理論的に考えられる。そういう脳の力はどんどん伸ばしたほうがいいですね。チームワークができるのも、人間の進化のなかで特に素晴らしい点だと思います。しかしその反面、集団行動をするといじめが起きることもあります。進化には必ず良い面と悪い面があるので、そこを認識したうえで物事を進めることが大事ですね。

 逆に人間のざんねんなところは、すぐに腰が痛くなったりする体の構造と、心が弱いところです。体のほうは仕方がない部分も多いけれど、心は鍛えたほうがいい。心を鍛えるためには、できるだけたくさん失敗することです。トラだって10回中1回ぐらいしか狩りに成功しませんからね。失敗を怖がらなくなると心が強くなりますよ。それと、自分も自然の一部だと思うこと。どんな生き物も、最後は一人なんですよ。そう思って精神を鍛えていかないと、いざというときに慌てますからね。僕も、いつ死んでもいいやと思って生きています。

■動物学者の立場から“人間”を考えると…

――人間の子どもを“いきもの”として見ると?

今泉 人間の子どもは無限の可能性を持っています。動物界でもそうですが、生まれてきた赤ちゃんに一番影響を与えるのはお母さん。お母さんが社会のルールの範囲内で、できるだけ子どもを自由に育ててあげるのが大事ですね。人間は群れで生活する生き物ですから、お父さんの一番の役目はエサをとってきて、家族をしっかりと守ること。動物学者の立場で考えると、そういうことになります。

――子どもの頃は、どんな本を読んでいましたか?

今泉 『シートン動物記』や、ロシアの動物児童文学者ビアンキの『森の新聞』が好きでよく読んでいました。中学時代は「怪盗ルパン」や、「シャーロック・ホームズ」のシリーズものが好きになりましたが、結局、子どもの頃に好きだったことが、今の仕事につながっていますね。

――最後に、「ざんねんないきもの」シリーズの読者に向けて、メッセージをお願いします。

今泉 人間も、みんながみんな何かすぐれたことをして、舞台の上に立って目立つ必要はありません。人間界にも、ずっと動いていないと死んでしまうマグロ型人間と、深海でじっとしているのが好きなヒラメ型の人間がいますよね。どちらも地球上では大切な存在で、その2つの間には無限の多様な生き方があります。

 ですから、基本的に人間も好きなことややりたいことをやればいい。もちろん社会のルールの範囲内ですが、好きなことを続けていれば基本的に楽しく生きられます。そういうことが、この本を通して子どもたちに伝わると嬉しいですね。ただ、僕の経験上、好きなことは最低でも5年は続けないと、本当の面白さはわからないので、そこがむずかしいところですが……。

 もし、この本を読んでくれたお子さんが、何かで失敗して、お母さんに叱られたときは、『ざんねんないきもの事典』を読んでもらってください。そして、「動物だっていっぱい失敗してるでしょ! 失敗は悪いことじゃないんだよ!」と教えてあげたほうがいいですよ(笑)。大人だっていっぱい失敗していますし、ざんねんなところもありますから。ノーベル賞を受賞した科学者だって、失敗からすごい発見をした人が何人もいますからね。失敗から学ぶことが、実はとても世の中の役に立つことなんですよ。

取材・文=樺山美夏 撮影=内海裕之

「小学生がえらぶ! “こどもの本”総選挙」ベスト10結果発表!

イラスト:ヨシタケシンスケ

1位:『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(今泉忠明:監修/高橋書店)
2位:『あるかしら書店』(ヨシタケシンスケ:作・絵/ポプラ社)
3位:『りんごかもしれない』(ヨシタケシンスケ:作・絵/ブロンズ新社)
4位:『おもしろい! 進化のふしぎ 続ざんねんないきもの事典』(今泉忠明:監修/高橋書店)
5位:『おしりたんてい かいとう VS たんてい』(トロル:作・絵/ポプラ社)
6位:『おしりたんてい いせきからのSOS』(トロル:作・絵/ポプラ社)
7位:『このあとどうしちゃおう』(ヨシタケシンスケ:作・絵/ブロンズ新社)
8位:『ぼくらの七日間戦争』(宗田理:作、はしもとしん:絵/KADOKAWA)
9位:『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』(廣嶋玲子:作、jyajya:絵/偕成社)
10位:『りゆうがあります』(ヨシタケシンスケ:作・絵/PHP研究所)

※近日、5 月5日(土)に「ゆいの森あらかわ」で開催された“こどもの本”総選挙授賞式の模様をお届けします!