ネコをもっと好きになる電子写真集『ちょっとネコぼけ』

新刊著者インタビュー

更新日:2014/4/17

岩合さんのネコへの愛情が伝わってくる音声解説

――iPadアプリ版の『ちょっとネコぼけ』を拝見して、写真集の楽しみ方が変わりました。岩合さんの肉声での解説を聴くと、自分自身がその現場に立ち合っているかのように感じられます。もっと言うと、カメラの存在が消えて、自分が岩合さんの「目」になった気分になる。ご自身は音声解説について、どのように考えていらっしゃいますか?

【岩合】音声解説でたくさんお話ができると、読者はその写真が持っている物語を受け入れやすくなるのではないでしょうか。カメラというのはよくできた機械で、シャッターを押した瞬間に完成されたものが仕上ってしまいます。誰でも撮れるけれど、自分の世界に観る人を引きずり込むのがプロの写真家。考え方にもよるでしょうが、写真家自身が語ることは必要だと考えています。

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――読者としては、音声解説が想像以上に大きな満足を得られると感じました。なぜかというと、解説を最後まで聴きたいからじっくり写真を眺める。そこにパラパラとページをめくったときには気づかなかった新しい発見がある。電子書籍は写真を観る喜びをさらに深められるのではないでしょうか?

【岩合】とてもうれしいことですね。解説にそんな効果があったとは気づきませんでした。写真家は「この一枚」を観ていただくために撮影しています。デジタルカメラだと枚数を多く撮影できるので、紙面の制限がない電子書籍だと連続カットをもっと使えるかもしれない。しかし連続カットを多く使うことに対しては賛否両論があるでしょう。やたら点数を多くしても写真が与える印象は半減してしまいますから。それに、紙の写真集には載せられなかったエピソードやそのときのネコの印象、そういうネコが住む街の「色気」みたいなことを常々もっと話したいと思っていたのです。

ネコと出会ったとき、必ず挨拶する岩合さん。それに応えて一緒についてきたのが、こちらのカイロのネコ。岩合さんがどんな風に撮影しているかを音声解説で知ることができる

 

ネコが住む街には「色気」がある。人の暮らしが見える

――岩合さんの写真はネコのかわいらしさやしなやかさだけでなく、その街が持つ空気まで感じられます。どのように撮影されているのですか?

【岩合】とにかく時間を費やして、歩きまわります。1日20~30㎞歩くこともしょっちゅうで、足がちぎれそうになるくらい。そうやって歩いていると、誰かにじっと見られている気がよくするんです。あたりを見回すと、ネコが僕を見ている(笑)。こっちが撮影しようと探し回っているのですが、それより先にネコちゃんのほうが僕を見つけているんです。「よっ!」とか「おはよう!」とか挨拶すると、近くに寄ってきてモデルになってくれたり、時には道案内してネコが溜まっている場所に連れていってくれることもあるんです。そういうネコの住む、色気のある街を訪ねるとほんとにうれしくなりますね。

――再現性の高いiPadのディスプレイで岩合さんの写真をじっくり眺めていると、そのネコの毎日の生活まで見えてきますし、街の息遣いまで感じられます。それが街の持つ「色気」なのでしょうか?

【岩合】ネコがいると、風景がまったく変わってきます。それが、僕の言葉だと「色気のある街」。ネコを見ていると、人が見えてきます。人が見えてくると、その街が見えてくる。ネコの居心地の良いところは、夏涼しく、冬暖かい土地です。大げさに言えば、ネコを見ていることを積み重ねていくと、もっともっと人の暮らしが素晴らしく、住みやすい場所に変わっていくのではないでしょうか。『ちょっとネコぼけ』にも書いたとおり、ネコが幸せになるればヒトが幸せになり、地球が幸せになる。ちょっとどころじゃなく、僕は本当にネコぼけになっていますかね(笑)。

 

「日本らしい風景にネコがいるとたまらなくうれしくなる」と岩合さんは、インタビュー中、何度も「ネコちゃん」と表現し、愛おしげに話します

 

岩合さんの写真に登場するネコはつくりものでない素のままの魅力がたっぷり。後編では、『ちょっとネコぼけ』に出てきたネコのエピソード、ネコ写真撮影のアドバイスなどを詳しくうかがいます。ネコ好き必読!