「目隠ししても、レスリングできますよ」 海外人気も高まる黒いショートタイツの侍・鈴木みのる インタビュー【プロレス特集番外編】

エンタメ

2018/8/17

 2017年9月、アメリカ・ROH世界王座戦。鈴木みのるの入場曲『風になれ』のサビが流れると、現地のファンは一斉に叫んだ。「カ・ゼ・ニ・ナ・レ!」――。派手なコスチュームを身につけることもなく、わかりやすいパフォーマンスをするわけでもない。それでも黒のショートタイツの侍を、世界中が求めている。

――いま、世界中からオファーが鳴り止まないそうですね。

鈴木みのる(以下、鈴木) 海外の選手に「日本は格闘技の国だ」って言われるんです。空手、柔道、相撲の発祥の地であり、ボクシングもレスリングも強い。それで、もともとが忍者と侍じゃないですか。そのイメージって、俺とぴったりなんですよ。だから売れてるんじゃないかという気がしてます。

―― 鈴木選手は、“関節技の鬼”藤原喜明さんや、“プロレスの神様”カール・ゴッチさんから、昔ながらのグラウンドテクニックを学んでいますが、みなさん、その点もご存知なのでは?

鈴木 昔ながらのテクニックに見えるのは、観る側の問題だと思いますよ。Aボタンを押すとパンチが出る。Bボタンを押すとキックが出る。そこに差はないんです。たとえば、新人のボテッとした奴が殴るのと、俺が何十年もトレーニングしてきて、ボンッと打つのとでは明らかに違うのに、「パンチ」「キック」という認識でしかない。

――デビュー当時から、使う技はあまり変わっていないのですか?

鈴木 技自体は変わらないですが、単純に相手の後ろに回るという動作にしても、今はデビューした頃の30倍くらいの速さで回れます。トップレスラーと言われるレスラーよりも遙かに速いという自信がある。理屈はいらないんですよ。俺のプロレスはたった一言、「すげー!」「速えー!」。それでいいんです。それがお金になるんです。

――鈴木選手の動きは、理にかなっているという気がします。

鈴木 それは、こねくり回して見る人の見方ですよ(笑)。

――カール・ゴッチさんやビル・ロビンソンさんは、レスリングをチェスや将棋に例えていましたね。

鈴木 レスリングはそうかもしれないですね。将棋で「相手がこう指すだろうから、これを置く」というのと、レスリングで「相手がこう来るのを予測して、自分がこう動く」というのは似ています。けど、プロレスはちょっと違う。インチキしちゃえばいいですから。

――なるほど(笑)。

鈴木 お客さんにはきっと伝わらないですが、俺は目隠ししてもレスリングできます。肌がくっついてさえいれば、目をつぶっていても相手の手の位置、足の位置が分かります。どのレスラーよりも練習してきましたから。俺の1年は、他の人の一生分くらいだと思います。それくらいの自信はありますね。

――それだけのスキルがあれば、もっと派手な技もできるのでは?

鈴木 もともとは、投げ技が得意だったんですよ。でも投げ技って、力の無駄じゃないですか。もちろん、首のケガをして使えなくなったというのもあります。そうすると、必然的にできるもので構成する。エルボーとかチョップとか張り手とか、だれでもやりますよね。そういう基本の技が、俺は圧倒的に強いんです。世界中のレスラーを集めたって、俺より速い張り手を打つ奴、俺より速いキックを打つ奴はいないですよ。

プロレス界の大物たちにぶつかってきた人生
「プラスに思ってんのはお前だけだよ」(天龍源一郎)

鈴木 デビューした時から、日本のプロレス史における重要人物たちと関わってきたのも大きいと思います。最初はアントニオ猪木の付き人をして、藤波辰爾に後ろ足で砂をかけて、坂口征二に食ってかかって、前田日明に生意気を言って、高田延彦に反発して、親父みたいな存在だった藤原喜明ともうまくいかなくなって、天龍源一郎に唾を吐いて。彼らとぶつかってきたことが、プラスになっていると思うんです。……っていう話を天龍さんにしたら、『プラスだと思ってんのはお前だけだよ』と言われましたけど(笑)。

――(笑)。海外の試合会場で、入場曲『風になれ』の大合唱が起きている映像を観て、鈴木選手はカリスマだなと思いました。

鈴木 人気とか、カリスマともまた違うんです。たぶん、ただ怖い。「スズキー!」って叫んでいたお客も、俺が前を通ると神妙に敬礼しますから。怖いみたいですね。

――確かに、鈴木選手の魅力の一つとして、「怖さ」というのはあると思います。

鈴木 怖がらせようと思ってますからね。ケガをした翌日、足が痛くても練習します。「どんな状況でもこいつには敵わない」という意識を植え付けようと思って、毎日生きてます。他のレスラーにもファンにも、弱いところは見せない。

――鈴木選手が怖いと思うことって、あるんですか?

鈴木 プロレスができなくなることですね。あと一人になるのは怖い。だれかと一緒にいたいという気持ちは常にあります。一人で釣りに行くのも好きだし、一人で映画館も行きますよ。でも、だれかといたほうが楽しいですよね。

――鈴木軍のメンバーと一緒にいるのも、楽しいからですか?

鈴木 楽しいから、これだけ長く続いてるんです。プロレスのグループとして、過去最長だと思います。もう7~8年です。普通は2年くらいで解散しますからね。

――個性的なメンバーが集まっていますね。

鈴木 ものの見事にバラバラですね。デイビーボーイ・スミス・ジュニアとランス・アーチャーなんて、真逆ですから。スミスはお父さんが世界的に有名なレスラーで、プロレスの英才教育を受けたボンボン。ランスはテキサスの田舎町から出てきたヒゲ面(笑)。スミスは日本のプロレスオタクです。四天王プロレスとかUWFの動画をずっと観ていて、そこから自分の存在をイメージしているみたいです。

――6月に開催されたデビュー30周年記念フェスティバル「大海賊祭」はすごく盛り上がりましたね。1日目は豪雨でしたが、それが逆にドラマチックな空間を作っていたというか。

鈴木 『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎さんに、「さすが、“持ってる”ねえ」と言われました。雨の中、大観衆の前で決闘。これ、格闘マンガの最高演出だよと。俺の試合の時間帯が、あの日一番の降水量だったんです。天気までが味方してくれたんじゃないかという気がします。

――30年間の格闘技人生を振り返ると、どんなことを思い出しますか?

鈴木 振り返らないですよ。部屋にトロフィーを飾っていた時期もありますけど、いまはまったく興味がないです。自分の試合映像を観ることもほとんどない。常に次の試合のことだけを考えています。プロレスファンは過去を財産にしますけど、俺はそれを表現する側なんだということを認識してから、過去には興味がなくなりました。よく『生涯のベストバウトは?』と聞かれるんですけど、ベストバウトは一番最近の試合です。どんなにいい試合だったと言われても、その次の試合で更新されるんです。

取材・文:尾崎ムギ子  写真:江森康之