フミコフミオ氏初インタビュー「強く見える人は戦い方を知っているだけ。」生きづらさに負けない考え方

小説・エッセイ

公開日:2019/10/24

「完全に破綻型の作家じゃないですか」by西浦さん

—新刊には特徴的な方が多く登場しますが、実在する方々なのでしょうか?

伊藤フミコフミオさんが実名じゃないので、実話に基づいてるとは書いてませんが…実話ですよね。

フミコ人間って普通に見てると平均化されて面白くないんです。表現や話し方のエッセンスを強調し、特徴を切り出すと面白くなっていく。僕の文章には極端な人間像がよく出てきますが、ある1点にフォーカスして執拗に追うと、どんなつまらない人でも面白くなるんです。

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西浦:キャラクター作りみたいなものですかね。

フミコ:かもしれません。目の前の人間のどこを抜くか、カメラの切り取り方を考えてます。それを悪意ととるか、変質者ととるかはわかりませんが(笑)。「周り変な人ばっかりですね」って言われるけど、他の人が見たら普通の人も多いと思います。

西浦:でも、嫌いな人のことをそのまま書いたら、悪口になってしまいますよね。どうやったら面白く書けるようになりますか?

フミコ:基本、本当に嫌いな人のことは書かないです。いじり芸みたいに、愛情は感じてますよ。「くっそー!」っていう「初期衝動(最初の火種)」は大切にしていて、それをそのまま書くのではなく、怒り(感情)のメカニズムを分析し、自分の言葉で言語化するようにしています。隠さずにかっこつけずに。かっこつけると純度が下がっちゃう気がしてるので。

西浦:フミコさんの文章にはちょっと理屈っぽいところがあるじゃないですか。そこにすごく共感しています。腹立つことを上手に言語化してくださっている。

フミコ:ありがとうございます。人の感情そのままだとカルピスの原液みたいなものなんです。それを美味しく飲めるようにちょうど良く薄めるのが僕の文章術かもしれません。あと、思い出しましたが、ガラケーで書いてるのも特徴の一つかも。

西浦:えーーー!?なぜガラケーで?

フミコ:PCで打つより、ガラケーで打った方が、他をシャットアウトして自分に集中できるので。PCで書いた原稿はことごとくつまらないみたいで、伊藤さんに「イマイチですね~」って言われたのはほぼPCで書いたやつでした(笑)

伊藤:2年前にメールしたとき、「私はガラケーで書いてますが出版できますか?」って言われて「そんなの絶対嘘だ!からかわれてる…」って思ったら、ガチでした。疑ってすみませんでした。

フミコ:だいたい信じていただけないんですよね(笑)

フミコフミオさんのガラケー(実物)

西浦:他人の目線をシャットアウトするのにガラケーがいいのか…これはすごく大事なハックかもしれない(笑)。たしかに自分の感情を書くのがエッセイなのに、他人の目線を意識しているちょっと嫌なにおいのする文章ってたまにありますね。

フミコブログでも本でも気取らずに、普段自分が使っている言葉を使うようにしています。じゃないと伝わらないし、純粋さがそがれてしまう。自分のことを「ヤベーオッサン」って書くのも自虐とは違って、変な小説の主人公にしてる感じです。

ネタは探さないから面白い

フミコさん笑うと息も苦しそうだから次回は口も開けてあげたい

—会社の就業時間中もネタを探していらっしゃいますか?

フミコ面白い文章を書こうとすると失敗しちゃうので、ネタ探しはしないほうがいいと思っています。

伊藤:常にみんなネタ探してますからね(笑)

フミコ「ネタフィルター」を通すとネタにならないと思った時点で落ちちゃうので、全てをフラットに見て、後から考えたほうがいいんです。ネタフィルターで落ちちゃったところが大事。ネタフィルターの上に来ることは、他の人もネタだと思うことなので差別化できない。これはどの仕事も一緒じゃないかな。

西浦:そもそもネタフィルターにすらかからない場合、どうキッカケを見つければいいのでしょうか?

フミコ:例えば、夫婦間の話ってつまらないですよね。後から「うちの奥さんが言ったことになぜムカついたんだろう?」と分析をしていくんです。すると、「自分のことを汚物扱いしてるからじゃないか?」ってなる。「じゃあ、なんで汚物扱いされるんだ?」を突き詰める。それが、だんだん面白くなり、普通の会話からネタが見つかるようになります。ネタは探求ですよ。

西浦:「ちょっとムカつく」や「ちょっと幸せ」を「なぜだろう?」で解明していくということですね。

フミコ:そうですね。氷山の上の一角は誰でもネタだと思うので誰が書いても同じですが、氷山の下に隠れているところの掘り方は人によって違うから差別化できる感じです。技巧より見方だと思います。

西浦:確かに!退職エントリとかみんな似たようなものになりがちですね。

伊藤:テクニックよりも感性ですね。

フミコ:そう。パンクバンドが全然テクニックなくても「表現したいことがデカい方がカッコいい!」「テクニックついちゃうとつまらなくなる」のと同じですね。手慣れないほうがいいんです。