ねこの日に映画公開! 小学生から大人まで熱狂する『ねこねこ日本史』の魅力とは? そにしけんじインタビュー

マンガ・アニメ

2020/1/25

 2月22日、にゃんにゃんにゃんの日に映画化されることが決まった『ねこねこ日本史』。歴史上の人物を猫に見立てて歴史を語る、100万部突破の4コマ漫画シリーズで、2016年からEテレで放送されているアニメは、小学生に大人気! 『月刊ポピー6年生版』の「好きなマンガ・アニメ」アンケートでは、『名探偵コナン』『ドラえもん』『ONE PIECE』に続く4位を獲得している。ゆるくてかわいくて、でも意外と史実に添っていて勉強にもなる本作は、どのように生まれたのか。原作者・そにしけんじさんにうかがった。

■“偉人たち”דいい加減”!? 猫と親和性のある歴史の描き方

2月22日(土)公開映画『ねこねこ日本史 龍馬のはちゃめちゃタイムトラベルぜよ!』

――そもそもなぜ、猫で日本史を描こうと思ったんですか?

そにしけんじ(以下、そにし) 子供のころから歴史モノが好きで、NHKの大河ドラマや『水戸黄門』『遠山の金さん』といった時代劇をよく観ていて、受験のときも学習マンガを読んで勉強していたんですよね。ただ、学習マンガって使われる単語が意外と難しいじゃないですか。もっと小さな子供でもゆるく楽しめるものはないかなあ、と考えたとき、ぜんぶ猫にしちゃえばいいんじゃないかと思いついた。それでまずは、卑弥呼を主人公に1本描いてみたんですよ。

 そのときは4コマではなく、6~8Pのショートストーリーでしたけど、人となりのわかるエピソードが一つも残っていない彼女を軸に描けたならば、どんな人物もマンガにできるだろうと思って。それに歴史上の人物のはじまりといえばやっぱり彼女だから、卑弥呼を起点にちゃんと歴史に添ってやっていきたいという意味をこめて。それを各出版社の担当編集者に見てもらっていたら、何年か後に実業之日本社さんから「連載しよう」と言ってもらえた。

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――連載にたどりつくまではけっこう、歳月を要したんですね。

そにし そうですね。誰に頼まれたわけでもなく描いたものだし、すぐに仕事には結びつかなかった。その担当さんは、歴史と猫が大好きな方だったので、興味をもってくれたんです。ただ、実業之日本社は子供向けの媒体をもっておらず、猫好きが読むWEB雑誌の掲載を打診された。歴史好きの大人が読んでも楽しめるものを、と言われて今の4コマの形ができあがりました。

――卑弥呼が、魏からもらった金印を、価値がわからないまま、とりあえず大切なものだからと地面に埋めてしまう、という流れがすごくよかったです。実際、紛失したのはこういうことだったんじゃないか?という妙な説得力があって。

そにし 魏に向かう難升米(なしめ)たちが、到着前に船上で貢物をぜんぶ食べちゃうとかね。調べたら、実際、彼らは貢物を海に落としていて、到着したときにはどうも大したものを渡せなかったらしいんです。で、魏からもらったものも、大半を帰りに落としてる。すごくあやしくないですか?(笑) 盗んでも食べても、落としたって嘘をつけば証拠の残らない時代だし、事実を確認しようもない。そういういい加減さが、猫の性質に似ている気がして描きました。基本的には、子供たちがただ笑ってくれればいいと思っているんですけど、歴史の大事な流れは外さないようにしておくと、大きくなって授業で学んだときに「あ、これなんか知ってる!」って楽しくなってくれるかもしれないじゃないですか。だから、猫ならではのフィクション性をおりまぜながら、史実のリアルさも再現する、というのは心がけています。

――それって、めちゃくちゃ難しくないですか……。

そにし 難しいですねえ(笑)。だから意外と、膨大な資料を読み込んで下調べはしています。ずーっとテスト勉強しているような気分ですよ。でも調べたことをそのまま描いたら、ただのまじめな歴史マンガになっちゃうじゃないですか。だから調べたことをぜんぶ猫に置き換え、さらにギャグの要素をくわえていく。3段階必要なのでかなり時間がかかりますが、つくりこめばつくりこむほど、読んだ人は「くっだらねー」ってげらげら笑ってくれる。笑うときに「なんか難しいな」とか「どういうこと?」って引っかかるようじゃだめなので、そこがうまくいくとホッとしますね。

――描いているのはあくまで、ねこねこの日本史だと。

そにし あ、でもタイトルは猫の日本史という意味ではなく、「ねこねこ日本」の歴史という意味なんですよ。1話の一発目に「西暦200年ごろの日本にはたくさんのクニがあり日々争いをくりかえしていました」と、猫たちが小競り合いをくりかえす姿があるでしょう。あれは、猫の一匹一匹がクニというつもりで描いたんです。ものすごーく小さい猫の国のなかでのお話。それが『ねこねこ日本史』。だから多少史実とちがっていてもいいんです。これは日本史じゃないんですから(笑)。

猫一匹一匹が“クニ”として描かれている

■卑弥呼のもつ猫じゃらしは魔法のステッキ! かわいらしさの裏にある考え抜かれたこだわり

女の子に人気の卑弥呼が両手に持つのは猫じゃらし

――卑弥呼は読売KODOMO新聞で発表されたキャラクターの人気投票企画「ねこねこグニャンプリ」で2位でした。他の歴史マンガであまり見ない、『ねこねこ日本史』の魅力をあらわした結果のような気がします。

そにし 卑弥呼は、たぶん女の子人気が高いんじゃないかな。というのも、彼女は猫じゃらしを両手に1本ずつもっていますが、あれは小さな女の子が魔法ステッキを2本もっているのと同じ。魔法を使って人を遠隔操作し、ひれ伏させているという、ほぼ無敵の状態なんですよね。たぶん女の子には、同じように、男性に限らずみんなの言うことをきかせたいっていう願望があるんです。

――え、それって女の子特有の願望なんですか?

そにし もちろん個人差はあるだろうけど、そうじゃないかなあ、と思います。男の子はステッキよりも棒を渡すとものすごくいい顔をする。卑弥呼は猫じゃらしで誰かを叩いたりはしないけど、男の子にとってのそれは、つまり刀なんですよね。だから『ねこねこ日本史』において武将たちがもつ猫じゃらしは1本なんです。

――そんな細かい設定が……!

そにし キャラ造形にはけっこうこだわっています。丸いのか四角いのか、毛をふさふささせるか、つるっとさせるか……。目を大きくすれば愛らしさと同時に不気味さも増すし、ほんのちょっとの差で印象がずいぶん変わるんです。今回の映画に登場するキャラクターだと、一番苦労したのは坂本龍馬でした。写真が残ってはいるんだけど、見た目にきわだった特徴がないし、髪型ができたときになんとなくイメージがかたまって、来航するペリーを見たときの「異国の…猫ぜよ!」というセリフが決まったときに、イケるな、と思いました。あとは、わりと能天気なキャラに設定したので、目を少し小さめにしたのもよかったかな。

流れるような髪型が特徴的。坂本龍馬の目は少し小さめ

――キャラが決まると、すんなりエピソードは描きはじめられるものですか。

そにし いやー、猫とからめたギャグができるかどうかが、一番の勝負どころですね。たとえば5巻の朝倉義景の回で、浅井長政と同盟を結んでいるのを、「浅朝コンビ」として“猫しっぽぐるぐる”という技をみせて天下をとる、という芸人のような設定にしたのはうまくいったな、と思っています。くだらないと僕自身が思いながらも、そのひとネタを中心に歴史の流れをはめこむと、案外うまいこと運んでいく。あのエピソードを提出したときは編集者が「こうくるとは!」と大爆笑していて、そうなるとこっちのものですよね(笑)。

“猫しっぽぐるぐる”

――豊臣秀吉=猿とか、吉良上野介=犬とか、ちがう動物が絶妙に出てくるのも「ありなんだ!」とおもしろいですね。

猫ではなく猿として描かれる豊臣秀吉

そにし 秀吉は、ねこねこ日本の中では信長が連れているただの猿ですけど、豊臣(猿)社会の中にいればちゃんと言葉も話すし、意外とまじめにいろんなことを考えているのがわかる。豊臣秀長の回では、なぜ彼がわざわざ猫の中に入って天下をとりたかったのかを描けたのでよかったです。ただ笑える、が目的ですけど、ギャグマンガという根底を揺るがさずに、一歩深いところを描けたらやっぱりそれはうれしいですね。

■龍馬の平安ギャルコスプレは必見! 劇場版の見どころとは?

――映画では、オリジナルキャラクターの現代っ子猫・フクくんが、カラス型のタイムマシン・ヤッちゃんに乗って時空を旅しますが、デザインもされたんですよね。

ヤッちゃんとフクくんのおじいちゃん・茶々丸

バディ関係の龍馬とフクくんの猫種は対照的

そにし そうですね。フクくんは龍馬の相棒となる子なので、龍馬と対比的にちょっとふさふささせました。フクくんのおじいちゃん・茶々丸も、眉毛とか髭をふさふささせると老人感+博士感が出るし、同じ猫種だと家族っぽくてちょうどいいな、と。『ねこねこ日本史』では意外とふさふさした猫が出てこないので、目立っていいなとも思いましたし。

――猫の種類も、キャラクターによって描きわけているんですか。

そにし そこまで厳密ではないですけどね。『ねこ戦 三国志にゃんこ』(KADOKAWA)という作品では、劉備や張飛などのキャラクターごとにしっかり猫種を変えていますし、ペリーなど外国の猫が登場するときも意識していますけど、日本国内にいる猫は雑種が多いので。源平合戦を描くときにはじめて明確にわけたかなあ。源氏は長毛種で、平氏はつるっとさせているんです。

 キャラというより氏としての区別はなんとなくしていて、徳川家の猫たちは全員にトーンを入れていますし、北条氏は虎猫。僧侶は坊主感を出すためにスコティッシュフォールドなどの折れ耳系。それくらいですかね。

耳がポイントの平賀源内

 基本的には、肖像画が残っていて、一般に共通したイメージをもたれている人たちはそれをベースに描いています。平賀源内は、あのどう結ってるのかわからないちょんまげをした有名な肖像画をもとに、細長くてつぶれた顔を再現するため、耳の形をほかの猫とちょっと変えてみたりね。

――ものすごく簡単に読んでましたけど、膨大なご苦労のうえにできあがっているんですね……。

そにし それでいいんですよ。さっきも言いましたけど、さらっと読んで笑ってもらうための綿密な下調べですから(笑)。

――今回の映画では、キャラクターデザインだけでなく、そにしさんの案が採用されたエピソードもあると聞きました。

そにし 案というか、最初に脚本をもらったときに楽しそうだなあと思った場面を落書きしたり、こんなセリフを言いそうだなあと思って書き込んだりしたものの中から、スタッフさんがいくつか採用したという感じですね。

 たとえばタイムトラベル先の平安時代で、龍馬は平安ギャルたちについていくんですけど、新しいもの好きの彼なら自分も同じ格好をしてまざっちゃうだろうな、と書いたらコスプレシーンがくわわりました。

 あと、ヤッちゃんは、乗り込むとき以外は小さくなってフクくんの頭の上にのったりするのかなあ、とか、こうしたらもっとおもしろくなるな、と思ったことはわりと採用してもらってましたね。脚本自体にNGはなかったんですけど、映画では龍馬が生き生きとくだらないことをしているので、どんどん楽しさを足してほしいという気持ちでした。

――映画の完成版はまだ?

そにし ビデオコンテしか観ていないのですが、それぞれの時代のおもしろいエピソードを的確にとりあげ、キャラクターを壊さないようにはじけていて、見事だなと思いました。関ヶ原の戦いやクライマックスのシーンでは、ふだんのアニメにはない圧巻の迫力を見せつけられますし、フクくんと龍馬が旅した時代が“ある形”で結集するところなんて最高。一視聴者として、完成が楽しみでなりません。

■定説をくつがえす、まったく新しい偉人像を

――連載開始は大人向けの媒体でしたが、Eテレでアニメ化され、子供たちに愛されるマンガとなり、映画化によってますます読者層は拡大していきそうです。

そにし 歴史にくわしい世代が生まれつつある、というのがとても楽しみですね。けっこう未就学児も観ているらしいんです。『ねこねこ日本史』って、主人公を毎回変えなくちゃいけないのが一番大変で、そうなるとどんどんマニアックな人物をとりあげざるをえなくなってくるんだけど、子供にとっては織田信長だろうと松永久秀だろうと等しく知らない人だし、おもしろければ一般的な知名度なんて関係ない。『ねこねこ日本史』に親しんでいる子たちはきっと、ナチュラルにコアな知識を身につけていくわけで、その現象はちょっと、してやったりって感じですね。

――たしかに(笑)。子供たちに人気の、意外なキャラクターはいますか?

子供たちに意外に人気の日野富子

そにし けっこういるけど……そうだなあ。日野富子が一番好きってツイッターでつぶやいている子がいたときはうれしかった。彼女は悪女として描かれがちだけど、そうならないように苦心してつくったキャラクターだったので。

――そにしさん自身がお気に入りなのは。

そにしさんが一番描きたかった足利尊氏

そにし 一番描きたかったのは足利尊氏。学生のころから好きだったので、第1巻には絶対入れたかった。忠臣蔵も、よくドラマの題材にはなるけど教科書には載らないから、時代劇好きとしてはやっぱり描きたかったエピソードですね。徳川綱吉もおもしろかったな……。お犬様なんてネタ、ねこねこ日本では一番ありえないじゃないですか(笑)。一時期は江戸城に100匹飼っていたらしいので、どんなふうになっちゃうのかなあ、と思っていたけど、意外と辻褄のあう展開になって。

 豊臣秀長もそうですが、あまりスポットライトのあたらない人物が好きなんですよね。何か理由があるんじゃないか、誤解されているんじゃないか、と想像する余地があるから。どうにか今までの定説とはちがうキャラがつくれないかとはいつも思っているので、足利尊氏のとき「まったく新しい人物像だけどこれが正解なんじゃないか」という感想をいただけたのがうれしかったですね。

――今後、描いてみたいエピソードはありますか?

そにし 水軍戦は描きたいなあと思っていますね。猫は水が苦手なのに、どうやって戦ったんだろうって気になるので。あとは、島津義弘のときに描いた龍造寺隆信。「肥前の熊」と呼ばれた人なので大きい熊として描いたんですけど、おもしろいネタができそうじゃないですか。毎回ゼロから主人公をつくりあげなきゃいけないとはいえ、時代が重なればふたたび登場する人物もいるので、脇役が主軸になることもあれば、もう描くことはないと思っていた人に脇役として再会することもある。作者としてはそれがけっこう楽しいですね。

――では、連載はまだまだ続きそうですね。

そにし そうですね。変わらず「くだらねー」と笑ってもらいつつ、ちょっと勉強になるようなマンガを描き続けたいと思います。

取材・文=立花もも

(C) そにしけんじ・実業之日本社/「映画 ねこねこ日本史 2020」製作委員会