『新耳袋』『残穢』…松原タニシと朝宮運河が選ぶ! 注目の「物件ホラー」ブックガイド

文芸・カルチャー

更新日:2020/8/17

事故物件を転々と移り住み、いまや東京と大阪、沖縄にワケアリな自宅をもつ芸人・松原タニシさんとおそらく日本初の物件ホラーアンソロジーを編んだ怪奇幻想ライター・朝宮運河さん。インタビュー(こちら)では〝家の怖さ〟について語っていただいた。松原さんと朝宮さんオススメの物件ホラー作品を一挙に掲載。松原さんが執筆に際し影響を受けた本もご紹介!

松原さんのセレクト

『現代百物語 新耳袋 第六夜』

『現代百物語 新耳袋 第六夜』
木原浩勝、中山市朗 角川文庫 590円(税別)
「第九章、京都の幽霊マンションについての話がおすすめ。自分たちを見せ物にしようとする人間には、若い女の幽霊が『来たら後悔させてやる』と脅しをかける。離れていても行動を逐一見張られていることがわかったりもして、事故物件の中でも図抜けて気持ち悪いです」(松原)

 

『わざと忌み家を建てて棲む』

『わざと忌み家を建てて棲む』
三津田信三 中公文庫 700円(税別)
「忌み地とされている場所に、凄惨な過去をもつ家を移築して合体させる。まさに事故物件のラスボスをつくりあげたらどうなるか、を検証した小説。そりゃあ、いやなことばかり起きるに決まってます。検証過程には共感するところも多く、解説文を書けて光栄でした」(松原)

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『お引っ越し』

『お引っ越し』
真梨幸子 角川文庫 560円(税別)
「伊藤潤二さんの『道のない街』は部屋に無数の覗き穴を開けられる話ですが、この本に収録される『扉』も壁に開いた穴を見つけるところから怪異が始まる。引っ越し先がこうだったらいやだ、と思うことだけでなく、人間のいやなところが容赦なく描かれている短編集です」(松原)

 

『怪談びたり』

『怪談びたり』
深津さくら 二見書房 1400円(税別)
「“怪談と結婚した女”である深津さんが集める実話怪談。柔らかいゼリーのような感触がして幽霊が身体をすり抜けていったとか、捨てても捨ててもひきだしからとろろが溢れてくるとか、どこかユーモラスで、体験した人ならではの実感に満ちているのがおもしろいです」(松原)

 

【番外編】松原さんが影響を受けた伊藤潤二さんの作品

『伊藤潤二コレクション』 『伊藤潤二コレクション』 『伊藤潤二コレクション』

『伊藤潤二コレクション』
伊藤潤二 電子版のみ
「伊藤潤二さんはとにかく絶望を描くのが巧い。たとえば、隣の家の奥さんが夜ごと声をかけてくる『隣の窓』。物干棹で部屋を繋ごうとするのもヤバいけど、窓ごとせり出してまで部屋に侵入しようとしてくるのもヤバい。家の時空が歪んで、人殺しであるもう一人の自分に出会う『押切異談』。人を殺して、部屋の窓から誰も入れない路地裏に落としていたら、自分も落ちて出られなくなってしまう『路地裏』。救いがないのに夢中になる作品ばかりです」(松原)

 

朝宮さんのセレクト

『私の家では何も起こらない』

『私の家では何も起こらない』
恩田 陸 角川文庫 560円(税別)
「舞台は丘の上に建つ古い館。この家では過去に悲惨な事件があって、近所では幽霊屋敷と呼ばれています。住人は“何も起こらないですよ”と言うのですが、信用できるわけありませんね(笑)。イギリスの児童文学のような雰囲気のある、エレガントで不穏なお屋敷ものです(朝宮)

 

『ししりばの家』

『ししりばの家』
澤村伊智 角川ホラー文庫 680円(税別)
「家に響く謎の音と、なぜか床に積もっていく砂。最初は怯えていたのに、当たり前のこととして受け入れていく住人。友人である主人公も、一度足を踏み入れたがゆえにどんどん怪異に蝕まれていく。どこにでもある一軒家を幽霊屋敷として描いた着想とテクニックが光ります」(朝宮)

 

『忌み地 怪談社奇聞録』

『忌み地 怪談社奇聞録』
福澤徹三、糸柳寿昭 講談社文庫 600円(税別)
「怪談実話を蒐集している『怪談社』のお二人の取材プロセスを、福澤徹三さんが書き起こしたという異色のドキュメント。インパクトがあるのは、大島てるさんが『これまでで最悪の事故物件』と呼んだという某マンション。周辺住民への聞き取りから怪異の連鎖が浮かびます」(朝宮)

 

『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』

『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』
宮部みゆき 毎日新聞出版 1800円(税別)
「江戸時代が舞台の怪異譚シリーズ。宮部さんは多くの物件ホラーを書かれていますが、この表題作の屋敷は最強レベル。姿を変え続けてどれだけ歩いても脱出できない。しかも怪異が襲って次々と人が死んでいく。パニックホラー映画のような味わいのある作品です」(朝宮)

 

『残穢(ざんえ)』"

『残穢(ざんえ)』
小野不由美 新潮文庫 590円(税別)
「小野さんとおぼしき人のもとに寄せられた手紙をきっかけに事故物件を調べはじめ、前の住人だけでなく、その前、さらに前と遡りながら理詰めで検証していくドキュメンタリー・ホラーです。人間にとっての恐怖は死の穢れに触れることだと知らしめる、力作であり傑作です」(朝宮)

 

『事故物件7日間監視リポート』

『事故物件7日間監視リポート』
岩城裕明 角川ホラー文庫 560円(税別)
「事故物件に住んだらどうなるか、という検証を小説で試みた、まさに“松原さん以降”といえる作品です。いかに松原さんの実体験とは異なる怪異が描かれるかがポイントで、じらしたりずらしたりしながら意表をつくラストに辿りつく。エンタメ性の高いホラーです」(朝宮)

 

『丘の屋敷』

『丘の屋敷』
シャーリイ・ジャクスン:著 渡辺庸子:訳 創元推理文庫 760円(税別)
「ゴシックホラーの古典的名作。丘の上の幽霊屋敷に、心霊学者と協力者の一団が泊まり込みで調査しに行くんですが、もともと心が不安定なところのある主人公は、屋敷にとり憑かれるように魅了され、破滅の道を辿っていってしまう。お先真っ暗な話ですが、そこがいいんです(笑)」(朝宮)

 

『たてもの怪談』

『たてもの怪談』
加門七海 エクスナレッジ 1500円 (税別)
「家を買いたい、と思うも加門さんは視える人。しかも風水・家相にもこだわりがある。怖い目にあわず運気のいい家とは?と、検証しながら家に関する怪談を語っていくのですが、その視点がまず新鮮。結果的に引っ越し先にもおばけはいるというのも、おもしろいです」(朝宮)

 

『山岸凉子スペシャルセレクションⅡ 汐の声』

『山岸凉子スペシャルセレクションⅡ 汐の声』
山岸凉子 潮出版社 1200円(税別)
「霊能少女がテレビ番組の企画で幽霊屋敷に泊まり込むのですが、そこに潜む霊とある共鳴をして、怪異にとりこまれていってしまう。山岸さん自身も幽霊を視た経験のある方で、フィクション・ノンフィクション問わず描かれていますが、その中でもピカイチに怖い話です」(朝宮)