クラシック音楽と少女たちの戦いが共鳴する──アニメ&スマホゲーム『takt op.』キャラクターデザイン・LAMインタビュー

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更新日:2021/9/22

takt op.Destiny
TVアニメ『takt op.Destiny』テレビ東京系6局ネット・BSテレビ東京にて、10月5日より毎週火曜24時より放送 (C)DeNA/タクトオーパスフィルハーモニック

『takt op.(タクトオーパス)』は、DeNAとバンダイナムコアーツによる大型新規プロジェクト。クラシック楽曲をモチーフに、音楽の力を用いて戦う少女「ムジカート」と彼女たちを率いる指揮者「コンダクター」の物語が描かれていく。10月からTVアニメ『takt op.Destiny』の放送が始まり、スマートフォンゲーム化も発表されている。

原作は、「サクラ大戦」シリーズで知られる広井王子氏。キャラクターデザインにLAM氏、キーピアニストにまらしぃ氏、背景コンセプトアートにわいっしゅ氏を起用するなど、豪華クリエイターの参加も話題を呼んでいる。アニメは、MAPPAとマッドハウスの共同制作だ。

そんな一大プロジェクトを、クリエイターやキャストへのインタビューを通して深掘りしていく特集企画がスタート。第1回にご登場願ったのは、キャラクターデザインを手掛けるイラストレーター・LAM氏。ベートーヴェンの「運命」、ホルストの「木星」など、クラシック楽曲を擬人化した「ムジカート」のデザイン、イラストレーターとして目指す未来について、お話をうかがった。

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クラシックの持つ高級感、美しさ、儚さ、歴史をキャラクター化しました

──LAMさんが『takt op.』プロジェクトに関わることになったきっかけを教えてください。

LAM:2018年に、DeNAさんからメディアミックスを前提とした新プロジェクトの打診をいただいたんです。その後、原作の広井王子先生とお話をさせていただき、「ぜひやらせてください」となりました。その時点で、クラシック音楽を題材にするなど基本的なコンセプトは固まっていました。

──広井さんの印象はいかがでしたか? どんなお話をしたのでしょう。

LAM:僕はもともと「サクラ大戦」シリーズが大好きだったので、お会いできて光栄でしたね。尖った才能をお持ちのクリエイターさんなので厳しい人なのではと緊張していましたが、実際にお会いしたらすごく気さくな方で。年下の僕にも敬意を払ってくださり、「こんなプロジェクトにしたい」というアイデアから「なぜLAMを起用しようと思ったのか」ということまで、いろいろとお話ししてくださいました。中でも、「『takt op.』を広井王子の新しい看板にしたい」と溌剌とおっしゃっていたのが印象的でした。

──LAMさんに声がかかった理由については、どのようにお話しされていましたか?

LAM:僕の絵の特徴である目元の表現、キャラクターデザインの独自性を買っていただけたのかな、と思いました。僕自身、キャラクターデザインをする際、どうすれば人の印象に残るのかを考え、フックになる仕掛けを入れることを心がけています。だからこそ、尖った作品を作りたいという広井さんの意向に合致したのかもしれません。

──LAMさん自身が、このプロジェクトに参加しようと思った決め手は?

LAM:理由は3つあります。ひとつめは、僕にとって大きなチャンスだと思えたこと。当時、僕は前職のアトラスというゲーム会社を辞めて、まだ1年くらいというタイミングでした。もともとゲーム畑にいたので、いつか自分がメインで関わるゲームコンテンツを作ってみたいという思いがあって。『東京クロノス』というVRゲームで願いは叶いましたが、ソーシャルゲームにもチャレンジしたい気持ちがあったんです。そんな中、いきなり大抜擢していただけたので、ぜひ挑戦したいと思いました。

ふたつめは座組です。広井王子さんをはじめ、素晴らしいクリエイターやスタッフの皆さんと自分を並べていただけることがとても光栄でしたし、座組を見てDeNAさんの本気度を感じました。

3つめは、純粋に面白そうな作品だと感じたから。僕も音楽を聴きながらクリエイティブをすることが多いので、音楽をモチーフにした作品だと聞いて興味が湧いたんです。クラシックの持つ高級感、美しさ、儚さ、歴史をキャラクターでビジュアライズするというのもワクワクしました。

──「音楽を聴きながらクリエイティブをする」ということですが、普段はどんな音楽を聴いていますか?

LAM:J-POP、洋楽、アニソン、ゲームミュージックなど何でも聴きます。クラシックを作業の合間に聴くこともありますが、この企画に参加する前は曲名も作曲家もよくわからないまま聴いていましたね。知識は、一般の方と何ら変わらないレベルでした。

目元のお化粧、髪型、服装は、僕の好み全開です

──『takt op.』には、クラシック楽曲をモチーフにしたムジカートという少女たちが登場します。楽曲から、どのようなイメージを膨らませてキャラクターを作っていったのでしょう。

LAM:最初にデザインしたのは、メインヒロインの「運命」でした。広井さんは原典を大事にされる方なので、まずは楽曲の解釈をしっかり深めようと思いました。「運命」って、一般的には「ダダダダーン」のイメージじゃないですか。でも、あのフレーズ以外の部分もたくさんあるんですよね。改めて曲を最初から終わりまで通して聴き込んでいったところ、最初に思い描いていたイメージとは違って、悲しさ、優しさ、楽しさみたいな感情も感じられました。その時点で、「あ、これは単純な話ではないな」と気づいたんです。

人によって楽曲から受け取るインスピレーションは違うし、百人百様の「運命」像がある。聴けば聴くほど、「運命ってこうだよね」とみんなが感じる共通イメージをキャラクター化するのは不可能だとわかってきたんです。そこで『takt op.』では、“LAMの考えた「運命」”を皆さんに見ていただく方向に舵を切りました。そう割り切ってからは、スルスル描けるようになりましたね。

──そういえば、キャラクターデザインを手掛けるにあたってドイツまで取材に行ったそうですね。

LAM:2019年の10月に、1週間くらいベルリンに行きました。コロナが蔓延する半年ほど前だったので、本当に奇跡的でした。現地では、ベルリンの街を歩きつつ、楽器の博物館や作曲家ゆかりの場所を回りました。信じられないくらいのハードスケジュールで、観光はゼロでした(笑)。

でも、登場人物がどんな空気を吸い、どんな気候で暮らし、何を食べていて……と想像が膨らむ実りある取材でした。街並みにある模様、伝統的な造形、色味など、すべてがキャラクターデザインに活かされましたね。実際、現地でデザインしたキャラクターも何人かいました。

──それはどのキャラですか?

LAM:「木星」と「ワルキューレ」です。

──シナリオや背景CGだけでなく、キャラクターデザインにおいても舞台となる場所の空気感を知ることは大切なんですね。

LAM:そうですね。宮殿や城、教会に置かれた椅子の意匠、金装飾、テキスタイルなど、すごく勉強になりました。なんとなく花柄のイメージがあったけど、実際はこういう紋様なんだ、こういう素材感なんだ、と。例えば「ワルキューレ」のブーツには、現地で見た宮殿の椅子に彫られた紋様を参考にして、金の装飾をつけました。「木星」は緑色がキーカラーですが、それも宮殿にあった緑の部屋がヒントになっています。緑色の部屋に金色の壁紙が貼ってあったので、その色味を取り入れました。

──LAMさんらしさを出すために心がけたことは?

LAM:僕に声をかけてくださったからには、僕じゃなきゃ描けないものにしないと意味がないと思いました。なので、大前提として僕の好み全開でやらせていただいています。目元のお化粧、髪型、服装には、僕が好きな要素を入れています。高級感のあるデザインにしつつ、色のバランス、LAMらしさはモリモリに盛り込んで提案させていただきました。

目はキャラクターの命。目元で差別化を図るのが、僕の武器です

──LAMさんのイラストと言えば、やっぱり目が特徴的ですよね。目元の描写へのこだわりについてお聞かせください。

LAM:目は、キャラクターの命だと思うんです。僕自身、小さい頃から目の描写に惹かれましたし、目力の強いキャラを好きになる傾向があって。例えば、僕が好きだった作品のキャラクターには、アイシャドウやアイラインが入ってたんです。そういうコンテンツに触れてきたので、自分が描く絵も自ずと目力が強くなりました。お化粧やネイルは絵にする時に省略されがちですけど、僕としてはしっかり描きたいんですね。今回はファンタジーなので、整合性はあまり気にせず、モリモリに描かせてもらいました。

──どのキャラにも、目の周りにポイント付けがありますよね。こうしたメイクは、ファンタジーという非現実的な世界観だから描けたのでしょうか。

LAM:僕には、現実/非現実の垣根ってあまりないんです。例えば「目元にオレンジ色のアイラインを引きたいな」と思ったら、現実世界のキャラでも引いちゃう。黒髪も黒一色で塗らなきゃいけないルールはないので、赤を入れてみたり。「ここにこういう色が欲しいな」と感じた色を自由に入れるのが、普段からのスタイルです。だから、僕の絵は嘘も多いんです。

──なるほど。それが、独特の味にもなっているんですね。

LAM:中でも、ムジカートは人間ではない特別な存在なので、僕の描くお化粧が活きるんじゃないかと思いました。広井さんからも僕の強みを褒めていただけたので、お化粧をマストで入れることは最初から決めていました。激しい化粧が似合いそうな子は激しく、化粧っけがないほうがかわいいタイプはさりげなく色味を差してあげて、キャラクター性を重視しながらデザインしていきましたね。そこでも、大切にしたのは楽曲から得たインスピレーションです。曲を聴いた時に思い浮かんだ色をキーカラーとして目元に入れて、目だけ見ればキャラクターが判別できるようにしています。目元で差別化を図るのが、僕の武器でもあるので。

──ムジカートの衣装にも、それぞれの個性が表れていますよね。衣装に対するこだわりは?

LAM:最初に「運命」を描いた時に、ドレスを着せたんです。舞台がヨーロッパですし、オーケストラの高級感、美しさを表現するためにも、全員にドレスを着せようというのはその時点で決めていました。ただ、全員が同じようなドレスを着てもつまらないですよね。衣装も曲からイメージを膨らませて描きました。「運命」だったらやっぱり運命の赤い薔薇が思い浮かんだし、「ワルキューレ」は戦乙女の翼がモチーフになっています。楽曲を聴いて「この曲はカチッとしている」「この曲はフワフワしているな」など僕なりのイメージから探っていきました。

──アニメやゲームのキャラクターをデザインする場合、動きをつけたり3Dモデルにしたりするため、ある程度制限があるのが一般的です。そのあたりは問題なくクリアしましたか?

LAM:僕もゲーム畑の人間なので、いつかゲームやアニメになることを考慮する必要があるだろうと思ったのですが、「とりあえず気にしなくていいです」と言われました。なので、薔薇をたくさんつけちゃったんです。ただ、「運命」は一番よく描くメインキャラなので、毎回描くのが大変で。結局、自分の首を絞めることになりました(笑)。

──ムジカートを指揮する主人公の朝雛タクトは、普通の人間ですよね。彼はどのようにデザインしていったのでしょう。

LAM:ゲームの主人公って、すごく重要ですよね。僕もそうですが、主人公が好きになれないと作品にのめり込めません。

ゲームの主人公には、ほとんど喋らず自分自身を投影する“ネームレス”と、第三者的なキャラクターとして顕現する“ネームド”の2タイプがいますよね。ゲーム『takt op.』のタクト君は後者に当たります。キャラクターとして魅力的に描きつつ、感情移入もできるギリギリのラインを狙いました。ニュートラルに見えるけれど美しい、かっこいいというバランスですね。

──全体を通して、デザインに苦戦したキャラはいますか?

LAM:「きらきら星」と「カルメン」です。普段僕が描く女性キャラクターは、10代中盤から20代。子どもっぽいキャラやお姉さんキャラを描くことはあまりないので、新鮮でした。描く時に参考にしたのは、こういうタイプのキャラが好きな方の意見。DeNAに「きらきら星」や「カルメン」のようなキャラが好きなスタッフがいたので積極的に意見をもらいました。僕はそういった方々の感覚を信用していますし、逆に言えばそういった方々に刺さらないキャラではダメ。たくさんヒントをいただきながら、等身や顔のバランスを調整していきました。

ただ、僕自身がかわいいと思えなくなる領域まで持っていくと、当初掲げたLAMらしさを全開にするという理念から外れてしまいます。そのラインを探りながら、試行錯誤していきました。

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右脳と左脳を両方使ってキャラクターをデザインしています

──作家性の強いイラストレーターさんの中には、自分の内側からあふれるものだけを描きたいという方もいます。LAMさんは、自分らしさを追求しつつも、「こういうキャラを描いてください」というオーダーに応えることも楽しんでいる感じがしますね。

LAM:同じことばかりやっていると、飽きちゃうんですよね。今までできなかったことができるようになったり、見たことのないものをお見せしたりする経験は、クリエイティブにおいてすごく重要だと思っています。そういう意味でも『takt op.』は、僕が今まで描いたことないものをオーダーされることもあって、刺激的です。

僕が今評価されている作品は、あくまでも僕がこれまで描いてきたものにすぎません。まだ描いてないけどもっと向いてるもの、もっと得意なものもあると思うんです。今まではまだ1%ぐらいしか描けていなかったので、生きている間に残りの99%をどれだけ拾えるか。『takt op.』でも拾わせてもらっています。

──お話を聞いていると、すごく理論的に絵を描いていますよね。感覚重視のイラストレーターさんも多いですが、LAMさんは普段から論理に基づいて絵を描いているのでしょうか。

LAM:こういう取材なのでそれらしく言葉で説明していますが、正直言えばノリで描くことのほうが多いです。ただ、直感と数学的・論理的な要素、つまり右脳と左脳を両方使ってキャラクターをデザインしているところはありますね。キャラクターデザインって、クライアントやユーザーにデザインに込めた意図を理解してもらう必要があると思っています。その為に「使う色はひとり何色まで。特徴点はひとり2、3個まで。」など、自分の中で色数や特徴点数のマイルールを設定して、キャラクターの特徴を言語化できるように心がけています。その一方で、先ほどお話したように、黒髪に赤を入れるようなアレンジは直感重視なんですよね。計算と論理に基づいて描きつつ、その中にはコントロールできない要素、少しのイレギュラーを含んでいる。それが、結果的に僕らしい絵柄を作っているのかなと思います。

──LAMさんは、描き方も独特ですよね。YouTubeでメイキング動画を公開されていましたが、どうやって描いているのか不思議でした。

LAM:「CLIP STUDIO PAINT」というグラフィックツールのデフォルト機能だけでほぼ描いてます。一般的にはラフ→下書き→線画→彩色→効果という流れですが、僕はラフの延長でゴリゴリ描いて完成まで持っていきます。これは“絵描きあるある” だと思ってるんですけど、ラフ→線画と描いてから、ラフのレイヤーを消して線画だけにすると、ガッカリする仕上がりになることがあるんです。以前、マンガ家の藤田和日郎先生や『とらドラ!』の挿絵や『じょしらく』の作画で知られるヤス先生の作画シーンの映像を拝見したんですが、藤田先生も、あまり下書きせずにいきなりペンを入れていました。線が気に入らなかったら修正液で消すので、最終的な原稿は修正液で盛り上がって厚塗りになることもあるそうです。ヤス先生も、ラフをそのままガシガシ描き進めていくタイプでした。その影響を受けて、僕もラフのまま油絵のように厚塗りしてガシガシ描くようになりました。

クラシックの素晴らしさを伝え、魅力を再発見できるコンテンツに

──10月から、TVアニメ『takt op.Destiny』が放送開始になります。ティザー映像をご覧になった感想は?

LAM:自分の作品が地上波アニメになるのは初めてなので、感無量です。これまでアニメを摂取してきましたが、今度はコンテンツを供給する側に回れる。夢がひとつ叶った気がして、素直に感動しました。MAPPAさん、マッドハウスさんという素晴らしいチームが制作してくださるので間違いないだろうなとは思っていましたが、期待以上の作品になっていましたね。ファン目線で、放送を楽しみにしています。

──アニメのエンディングテーマは、中島美嘉さんが歌っています。こちらはいかがでしたか?

LAM:激しい戦闘、命のやりとりがある作品なので、退廃的、煽情的な楽曲になるかと思っていたんです。でも、完成した曲は儚さ、美しさ、豊かさが表現されていて、いい意味で予想を裏切られました。作品の高級感、耽美さが前面にあふれた楽曲だなと思います。

──ゲーム、アニメともにLAMさんが期待することは?

LAM:まず、みなさんに純粋にこの作品を楽しんでいただきたいというシンプルな思いがあります。また、この仕事を通じて、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の生演奏を現地で聴く機会もいただき、オーケストラ、クラシックの素晴らしさをあらためて知ることができました。『takt op.』は、なぜクラシックは今でも残り続けてるのか、その意味をチームメンバー全員でつかんだ作品です。クラシックの素晴らしさを伝え、その魅力を再発見できるようなコンテンツになったら本望です。僕はキャラクターデザインを通して、クラシック楽曲に対する僕なりの解釈をお伝えしましたが、みなさんで意見を交わし合えたらいいなと思います。

──今後、LAMさん自身が力を入れていきたいお仕事の領域は?

LAM:ひとつは、これまでの作家活動を拡充し、自分の看板になり得る作品を大きく育てていきたいです。5年、10年楽しんでいただけるコンテンツに成長させられるよう、今僕にできることを精一杯やりたいですね。

もうひとつは、やったことのない仕事にバンバン挑戦したいと思っています。先ほどもお話したように、まだ描いたことのないものがたくさんある。自分が達成したいクエスト表を埋めていきたいなと思います。

──今、クエスト表の一番上にあるのは?

LAM:劇場版アニメです。アニメ映画の持つ力って、素晴らしいですよね。TVシリーズは実現できたので、次は劇場版を目指したい。『takt op.』も、劇場版になるほどの人気を獲得できたらうれしいですね。

『takt.op』公式ポータルサイト
TVアニメ『takt.op destiny』公式サイト

取材・文=野本由起

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